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【9/30書籍3巻&コミカライズ発売】もふもふと行く、腹ペコ料理人の絶品グルメライフ  作者: 佐倉涼@5作書籍3作コミカライズ
ACT4:パルモ高地

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シトロン・リゾットとマドンナの爽やか料理パーティー

「お邪魔します!」の一言で、アイラは貴賓室に再びお邪魔した。

 竜商隊の隊長カテリーナと副隊長のファヴィオが出迎えてくれる。


「エルミニオ、お帰りなさい」

「無事に戻ってきてよかった。では、リアムという少年は……?」


 ファヴィオの問いかけに、エルミニオが満面の笑みで頷く。


「はい、保護できました。今は疲労も溜まっているでしょうし、ひとまず自宅に戻ったところです」

「それはよかったわ」

「ねえねえ、それでさ、リアム君にお礼にこんなにマドンナを貰っちゃったんだけど、竜商隊の人たちもいる? 売り物にする?」


 アイラは念の為カテリーナにマドンナを見せてみたが、彼女も首を横に振った。


「いいえ。私たちはオデュッセイア様から今回の件についてきちんと応援要請を受けて、金銭をいただいているから、それ以上のものは受け取れないわ」

「やっぱそうなんだ……じゃあ、このマドンナを使った料理をみんなで食べるのはどうかな」

「それは……」

「いいよね! みんなで食べた方がおいしいし!」 


 やや迷った様子のカテリーナをアイラが勢いで押し切り、同意を得ることに成功した。

 竜商隊の人々は再びアイラのためにキッチンを貸してくれた。カテリーナは長い赤毛を縛り、ファヴィオがエプロンを締める。いかにも生真面目な商人といった様相の二人がキッチンに立つ姿は、中々に場違い感があるが、彼らにとってはこれが日常の光景なのだろう。エルミニオも手伝うと言っていたが、彼は一仕事終えてきたところなのでスカイドラゴンと一緒に休憩を取るようにとカテリーナに言われ、しぶしぶと自分にあてがわれた部屋へとひっこんでいった。


「疲れているといえば、アイラさんも同じだと思うのだけど……料理は明日にして、今日は休んだらどうなの?」

「全然! 新鮮な食材が手に入ったら、すぐに料理して食べたいし!」

「確かに、疲れているようには見えないわね」


 カテリーナが苦笑を漏らす。


「前に作ってくれたお料理はとても美味しかったし、今回も期待しているわ。キッチンにある材料は好きに使ってちょうだい」

「ありがと。よぉし、じゃ、まずは……まずは味見からかな! 味がわかんないと、何も作れないし!」


 アイラは手に入れたばかりのシトロンとマドンナをキッチン台の上に並べた。

 こうしてみると両者は同じ果物とはいえ全くの別物だ。

 シトロンは薄黄色く、表面が凸凹していて、丸くはあるものの形がやや歪で大ぶりの果物。

 一方のマドンナは濃い橙色で、表面は艶やか、見事な楕円形をしている卵大の果物だった。

 アイラはシトロンから切った。真ん中に包丁をたてると、とても硬く抵抗感がある。力を入れてストンと真っ二つに切り、中身を見てみた。

 黄色い皮と黄色い果肉の間に白いもわもわしたものがあるのだが、そのもわもわした部分がかなり厚く、中身の半分以上を占めていた。果肉部分が少ない。

 アイラはわずかな果肉部分を剥いて、ルインと一緒に食べてみた。

 どんなものでも食べ慣れている二人が、ほとんど同時に「うっ」となった。


「酸っぱい……!」

「パサパサ! パサパサしておる!」

「あとから苦みがくるよ!」


 シトロンは酸っぱくて、パサパサしていて、後味が苦い果物だった。アイラもルインもうえっと舌を出す。


「なんで!? ルーメンガルドの探索拠点で食べたシトロンジャムは美味しかったのに!」


 アイラが首を傾げていると見ていたカテリーナとファヴィオが忍び笑いを漏らしたので、思わずそちらを振り向いた。


「……っ笑ってごめんなさい。私が初めてシトロンを食べた時も、同じ反応をしたことを思い出して」「

「この果物は生食向けじゃないんだ」


 ファヴィオはずいと進み出てアイラの横、キッチンに並んで立った。


「シトロンは生で食べると美味しくないが、加工することで良さが引き立つ。これは皮も白い部分も果肉も、全部食べられる優秀な果物だよ」

「へえ。ファヴィオさん、シトロンの加工方法知ってるの?」

「ああ。他国にこの果物を売る時に、加工方法を説明をする必要があるから習ったんだ」


 アイラはファヴィオに教わりながらシトロンを加工する。カテリーナも一緒だ。

 ファヴィオはまず、シトロンを果皮、白い部分、果肉の三種類に綺麗に包丁で分けていった。


「果皮はすりおろして風味づけに、白い部分は煮込んでジャムにしたり砂糖漬けにしたり、そして果肉は果汁を絞って使う。苦いのは果肉じゃなくて薄皮の部分だから、丁寧に濾して果汁にすると苦味が消える。飲んでみるといい」


 アイラはファヴィオが絞った果汁が載ったスプーンを受け取り口に含んでみる。

 爽やかな酸味があり、なるほど先ほど食べた時に感じた後味のえぐみもない。


「おいし……さっきと全然違う!」

「だろう?」


 アイラはファヴィオ、カテリーナとともに大量のシトロンを処理していった。

 皮を剥き、三つの異なる部分に分けたシトロンは、爽やかな柑橘類のいい匂いがした。


「この匂いを嫌う虫も多いから、虫系魔物除け薬の材料にもなるんだ。他の薬草と混ぜ合わせて火をつけて臭いで魔物を遠ざける」

「なるほどね。モカちゃんが使ってたやつかな」

「モカちゃん?」

「酒場で働いてる女の子」

「あぁ、バベルに住んでいる子供か。そうだな、そういう見習い冒険者がよく使ってる。材料が手に入りやすくて安いから、身の安全を確保するために使うんだ。さて、外皮は刻んでおこう」


 アイラは外皮を細切りにした。


「刻んだ外皮は白い部分をジャムにする時に混ぜて食感や色味を良くする。他にも、菓子の風味づけにも使う」

「ふむふむ」

「白い部分は皮より太めの厚切りにする。砂糖漬けを作るためには、ある程度の厚みがあったほうがいい」

「なるほど」

「果肉は全部ザルで濾す」

「オッケー」


 アイラはファヴィオの指示に従い、シトロンの下処理を済ませていった。

 砂糖漬けは作るのに時間がかかる。それは、他の果物で経験があるのでアイラも知っていた。

 まずはえぐみを取るのが先決なので、半日水にさらし、途中で数回水を取り替える。その後アクを取るために茹でる。茹でた後に、またたっぷりの冷水に入れて半日さらす必要がある。ここまでを終えてようやく、砂糖と一緒に煮詰めることができる。


「今日はひとまず、砂糖漬けは食べられない」


 ファヴィオの言葉にアイラも頷いた。


「うん。水にさらしておいて、明日も茹でて水にさらして……食べるのは明後日かな」


 アイラはちらりとキッチンの脇に積んである砂糖壺を見た。ガラスの瓶に入った砂糖は粗ごし糖ではなく、真っ白でさらさらとした上白糖だ。


「超高級品の上白糖を使った砂糖漬け……くぅぅ、食べるのが楽しみ〜!」

「それで、今日は何を作る? 手伝えることがあれば、手伝うが」

「そうよ。私たちも食べるものなんだし、手伝うわ」

「今日は、んーっと。どうしようかな……」


 ファヴィオとカテリーナの言葉を受け、アイラは貴賓室のキッチンを漁り出した。前回スカイドラゴンのために旨辛料理を作った時、どこに何があるのかは把握済みだ。このキッチンにはほとんど何でも揃っている。しかも素材がいい。


「アル粉、デア粉、卵、バター、ミルク……あっ、お米がある!」


 これはとてもいい発見だった。


「お米があればリゾットが作れるね」


 寝そべっていたルインが耳を動かし、うっすらと目を開けた。


「米か……久々に食べるな。前の街にいた時には結構食べていたが」

「そうだね、バベルにはそもそもあんまり売ってないよね」


 アイラが市場を見る限り、米はあまり売られていないし、おまけに高くて買えなかった。

 ダストクレストでは周辺都市で稲作がさかんだったため、結構米も食べていたのだが、国をまたいだせいなのかバベルではほとんど見かけない。

 会話を聞いていたカテリーナがおもむろに口を開いた。


「バベルではパンが主流よ。塔内で栽培しているんだけれど、魔導具による温度と湿度と光の調節のおかげで、この塔では年に五回もアル粉とデア粉が収穫できるの。一方の米は、海外からの輸入頼みになるから、ほとんど出回らないのね。今回は私たち竜商隊が持ち込んだから新鮮なものがあるのよ」

「なるほどね」


 どっさりの米を前にして、アイラは米料理に思いを馳せる。


「今回は果物を使うから、チーズと絡めてさわやかなリゾットにしようかな」

「たっぷりチーズを使ったリゾットの中にかすかに感じられる酸味……さぞかし美味いに違いない。」

 ルインは、リゾットを想像しただけで、涎を垂らしていた。

「ルイン、よだれ垂れてる」

「むっ、ついつい」


 前足でごしごしこすっているルインを見てちょっと笑い、アイラはメイン料理でリゾットを作ろうと心に決めた。


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