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【9/30書籍3巻&コミカライズ発売】もふもふと行く、腹ペコ料理人の絶品グルメライフ  作者: 佐倉涼@5作書籍3作コミカライズ
ACT4:パルモ高地

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リアム救出作戦③

 リアムは崖から飛び出た雷鳥の巣の中で膝を抱えてうずくまりながら空を見上げていた。


「……なんか、雷鳥たちが騒がしいなぁ……」


 先ほどから雷鳥たちがどんどんパルモ高地の上へと飛んでいっている。何かにつられているようなのだが、それがなんなのかリアムにはよくわからない。ただ、こうやって見上げていると、うっすらと煙のようなものが立ち上っているのが見えるので、おそらくそれにつられているのだろう。


「火事かな? 雷鳥の雷のせいで、上が焼けちゃってるとか?」


 さっぱりわからないながら、リアムはそんな予想を立ててみる。


「ぴよ! ぴよぴよ!!」


 空を見上げているリアムの視界に、羽ばたく雷鳥のヒナの姿が映った。ヒナ二羽はまだ小さな脚でマドンナの実を器用に掴んでいる。それをリアムの三角座りでできたくぼみにぽいと投げ入れた。


「ぴよぴよぴよ! ぴよ!!」

「あ、ありがとう」

「ぴよよ!」


 お安い御用だ、とでも言いたげにヒナは胸を張っている。

 この数日で自力で飛行できるようになったヒナ二羽は、近くに生えていたマドンナの木からしこたま実をもぎとって来て、それを巣に持ち帰るという行為を繰り返していた。自分で飛び、自分でエサを取れることが嬉しくて仕方がないらしい。ヒナたちは食べる分以上にとって来るので巣の中はマドンナの実でいっぱいだった。


「あはは……これ全部を持って帰れたら、大金持ちになれるや」


 マドンナの実は入手が困難なため一つにつき金貨五十枚という破格の価格が付けられている。今は竜商隊もバベルに来ているようなので、需要はかなり大きいはずだ。持ち帰って売り払ったら生活費の足しになるし、薬の材料だってケチケチしないで買うことができる。しかし、雷鳥の巣からの脱出方法が未だわからないリアムからすれば宝の持ち腐れだ。金貨五十枚の価値がある果物も、生きながらえるための食料に過ぎない。


「はぁ……人生って上手くいかないな」

「ぴよ!? ぴよぴよ!」

「あ、うん。慰めてくれてるの? ありがと……」 

「ぴよよ!」


 雷鳥のヒナにとって今のリアムは出来の悪い弟くらいなものなのだろうか。妙に親切な彼らをみていると、凶暴で獰猛な魔物ということを忘れてしまいそうになる。親鳥は恐ろしいがヒナは可愛い。もこもこしているし、羽の色は純粋な金色で綺麗だし、何よりまだ魔力が未発達なので攻撃を喰らっても静電気レベルなのがありがたい。

 気を取り直してマドンナを一つ手にとって齧ろうとしたが、どこか近くで聞き慣れたおじいちゃんの「おーい!」という声が聞こえた気がしてキョロキョロと周囲を見回した。しかしここは海と砂漠に阻まれたパルモ高地の断崖絶壁。バベルにいるはずのおじいちゃんがいるわけがない。


「おじいちゃんに会いたすぎてとうとう幻聴が聞こえてきたのかな」

「おぉーい! リアムや! おーい!」


 幻聴にしてはやけにリアルだった。もう一度、本当におじいちゃんがいるんじゃないかと見回してみる。空はここ数日間と同じすっきりとした青色で、雲が流れているのが見える。


「こっちじゃ! おーい!」


 声を頼りに、目が乾くほどに見開いて、何か見えないかと懸命に探した。

 するとついに、リアムの目に映った。

 青空に溶けるような美しい水色のドラゴンと、ドラゴンに乗ったリアムのおじいちゃんの姿が。リアムは思わず立ち上がって身を乗り出した。


「え……おじいちゃん!? どうしてこんなところに!?」

「お前さんを助けに来たんじゃよ! 色々な人の助けを借りてのう!」


 ドラゴンが巣に体を寄せる。よく見るとドラゴンの背にはもう一人、リアムと同じ年頃の少年が乗っていた。おじいちゃんがリアムに向かって左手を伸ばした。


「乗り移れるかのう!」

「うん!」

「ぴよよ!? ぴよ!!」


 リアムがおじいちゃんの手を掴んでドラゴンの背に乗ろうとすると、雷鳥のヒナたちが焦ったように鳴き、リアムとドラゴンとの間に立ちはだかった。小さな体の両翼を広げ、精一杯大きく見せながら、行かせるまいと阻止している。


「……あのね、君たち。今来てくれたのは、僕のおじいちゃんで、家族なんだ。僕は自分の家族のところに帰りたい」

「ぴよ! ぴよぴよ!」


 二羽のヒナはしきりに首を横に振り、精一杯の抵抗を見せている。


「君たちが、僕のことを好きでいてくれるのは嬉しいし助かったよ。そうじゃなかったら僕は、とっくに君たちの栄養になっていただろうし。でも、僕は帰らないと。いつまでもいっしょにはいられない」

「ぴよ……」

「ぴよよ……」


 リアムの言葉が理解できたのか、それとも真摯な態度が心を動かしたのか、それはわからない。

 しかしヒナたちは互いに顔を見合わせ、しばし迷った後、とうとう翼をたたんで巣の中に入りリアムのために道を開けてくれた。


「……ありがとう!」


 リアムは破顔し、おじいちゃんの手を取ると、スカイドラゴンの背に乗ろうとした。


「ふおぅっ!?」

「わー、おじいちゃん!?」


 しかし非力なおじいちゃんの腕ではリアムを支えきれず、ズルッと滑ってドラゴンの背中から真っ逆さまに落ち、おじいちゃんと手を繋いでいたリアムもまたバランスを崩して巣から落ちてしまった。


「ふおおお!」

「わああああ!」

「ぴよよー!?」

「ぴぃっ! ぴよぴよ!!」


 周囲の風景が冗談みたいに速く流れて行った。風がびゅんびゅんと鳴り、リアムはおじいちゃんと手を繋いだまま空中を垂直に落下していく。このままだとパルマンティア海に叩きつけられ、海中にいる魔物のエサになってしまう。せっかくここまで生き延びられたのに、そんな最期はあんまりだ。

 海面にぶつかる前に、リアムとおじいちゃんの体は落下を止め、がしっと丈夫な二本足に掴まれた。上から声が降って来る。


「やれやれ……これで落下するあなたを助けたのは二回目ですよ、おじいさん」


 青い体が見える。どうやらスカイドラゴンが助けてくれたようだった。


「……た、たすかりました……」


 リアムはスカイドラゴンの足に胴体を掴まれたまま、脱力してそう礼を言った。


「ぴよよ!」

「ぴよ!」


 二羽の雷鳥のヒナが降りてきて、心配そうにリアムを見つめている。


「大丈夫だよ、ありがと」

「ぴよ〜」


 しょうがないなぁ、と言わんばかりに目を細めた雷鳥のヒナたちは、お兄さん風を吹かせているようで、それが妙に人間じみていてリアムは笑った。

 スカイドラゴンが空を上っていくと、ヒナ二羽はマドンナの実をせっせと運んでくるので、リアムはスカイドラゴンに支えられながら両腕を出してしっかりと受け取った。マドンナの実は鶏の卵くらいの大きさなのだが、それがリアムの両手に抱えるほどの量になっている。


「餞別のつもりかな?」

「かもしれんのう。お前さん、随分懐かれておるようじゃの」

「たまたま孵化の瞬間に立ち会って……」

「親兄弟だと思われたというわけか」

「たぶん。おかげで食べられなくて済んでよかったよ」


 スカイドラゴンがバベルに向けて飛び始めると、ヒナたちはそれ以上ついてこようとしなかった。その場に止まり、懸命に翼を動かしてリアムを見送っている。やがて二羽の姿は小さな点になり、見えなくなった。

 バベルの三十九階にたどり着いたスカイドラゴンは、鉤爪を開いてリアムたちを解放してくれた。リアムはその場に着地して、おじいちゃんはべしゃっとなった。床にくしゃくしゃになっているおじいちゃんをなんとか助け起こすと、ドラゴンの背中から降りてきた少年がリアムをしげしげ眺める。


「怪我は……ないみたいだね。うん、よかった」

「助けてくださり、ありがとうございます」

「いいよいいよ。大公一族からちゃんと報酬はいただいてるから、これは仕事の一環だし」

「え……大公一族から?」

「そう。君、感謝したほうがいいよ。君一人を助けるために、かなり色んな人が動いたんだからね」


 少年はそう言うなり、再びドラゴンにまたがった。


「じゃあ、僕はアイラさんたちを迎えに行かなくちゃいけないから、またあとで」


 軽く手綱を振ると、ドラゴンが両翼を広げ、鉤爪で軽く地を蹴った。羽ばたきで巻き起こした風のみを残し、再び空に舞って行くドラゴンの後ろ姿をリアムは呆気に取られながら見つめていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも楽しく読んでます! あるあるですよねー 凶暴な動物も赤ちゃんの頃は可愛かったりするのは〜! しかし、野生動物に変わりなく、本人は甘えたつもりも、たまに飼育員さんに被害が出たりし…
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