<番外編>保存用魔導具箱
「ボニーさん、お久しぶり! 約束してた素材、全部取ってきたよ!」
アイラが元気よく埃っぽい店の中に入ると、カウンターに肘をついてうつらうつらしていたボニーがはっと目を覚まし、手の甲でよだれを拭った。
「……あぁ……アンタか。へえ、全部取ってこれたんだ? さすがだね。苦労しなかったかい?」
「うん、まあまあだったかな」
アイラはカウンターに近づき、抱えていた素材一式をざらざらと置いた。量が多くてカウンターの上に乗り切らずにこぼれそうだった。それらをボニーが確認している間にアイラは店の中を見て回る。
ボニーの営む魔導具店内には珍しいものが色々あるので見ていて面白い。どれもこれも高額なのだが、今のアイラは懐にかなりの余裕があるので、欲しいものがあったら買うことも可能だ。
何かお宝ないかなぁという軽い気持ちで狭い上に魔導具がひしめいている店内を歩いていると、無機質な鉄の箱につまずいて転びそうになった。
「あたっ」
つんのめって商品の山に倒れ込みそうになったが、つま先だけで体を支えてかろうじて留まる。アイラは不審な顔をして足元の箱を見下ろした。表面がつるつるした黒い箱は頑丈そうで、魔石がひとつ、嵌め込まれている。一見するとオーブンに似ているが、オーブンより一回りほど小さいし、何のボタンもついていない。
「なにこの箱……荷物入れ?」
「それは食品を保存するための箱だよ」
アイラが振り向くと、素材を確認しながらボニーが説明をしてくれる。
「せっかく肉とか魚を狩ってきても、新鮮なものはすぐに食べないとダメになるだろ? それを解消するための魔導具さ。冷却用の魔石が付属されてるから、中に食材を入れて起動すれば一定の温度が保たれる。少なくとも一ヶ月は保存が可能。人工氷室だと思ってもらえればいいよ」
「なにそれ、すごい便利……!」
アイラは目をキラキラさせた。
「お値段は?」
「金貨七百二十枚。けど、今回はルーメンガルドの素材をいっぱい取ってきてもらったからタダでいいよ。物々交換。特に採取が難しい氷虹石をこんなにたくさん持って帰ってくれたわけだし」
「ほんと? やったぁ!」
アイラは保存用魔導具箱を抱え、意気揚々と店を出た。
店の前で寝そべっていたルインがやや困惑した顔を見せる。
「入った時にはなかった荷物が増えているな」
「もらった! 物々交換!」
「一体何の役に立つんだ?」
「食材を冷やして保存して置けるんだって。これがあれば、干し肉にしちゃおうと思ってたマンムートのお肉も新鮮なまま保存できるよ。最長で一ヶ月も!」
「なに、そんなにか!?」
ルインが赤い瞳をくわっと見開いた。
「すごい魔導具だな。よし、詰め込めるだけ肉を詰め込もう」
「そうしよ!」
アイラとルインは部屋に戻った。お世辞にも広いとは言えない室内は今、マンムートの肉の塊がひしめいていた。まだ狩り立てほやほやなのでそのまま保存していたが、もう二、三日したら残った肉を全部干し肉にしなければと思っていたところだ。
さっそく買ったばかりの魔導具箱をぱかっとあけ、中にぎゅうぎゅうに肉を詰め込んだ。
「これで、魔石を起動させればオッケーなはず」
アイラは肉を詰めすぎてやや閉まりが悪い扉を無理やり閉めると、魔力を流して魔石を起動させた。
魔石が青く光り、なんらかの魔法的効果が箱に行き渡るのがわかった。ルインが前足を箱の上に乗せ、鼻を近づけて匂いを嗅いだ。
「……箱の外側はまったく冷たくないな。水のニオイもしない」
「開けてみよう」
アイラは魔石を起動した状態で躊躇なく扉を開いてみた。
「あっ、ヒンヤリしてるよ!」
「ぬ? 本当だな」
箱の内側は確かにヒンヤリしていた。まるでルーメンガルドの雪原に積もる雪の中に手を突っ込んだかのようだった。
「これだけ冷えてるなら、しばらくは腐らないね」
「うむ。安心して肉をゆっくり食べられるな」
「魔導具って便利だね〜」
「そうだな」
アイラとルインは便利な魔導具をまた一つ手に入れたことでウキウキした気持ちになったのだった。






