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【9/30書籍3巻&コミカライズ発売】もふもふと行く、腹ペコ料理人の絶品グルメライフ  作者: 佐倉涼@5作書籍3作コミカライズ
ACT3:ルーメンガルドの雪原と岩窟

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女神ユグドラシルの下へ③

 バベルの塔の最上階、百一階。

 都市を治めるフィルムディア大公一族の住処より上部に位置するこの場所には、女神ユグドラシルを祀る祭壇が存在している。

 完璧な円形の屋上には十二本の柱に支えられたドームが張り巡らされ、南に位置する半円状の柱と柱の間からは、ギリワディ大森林の茂る木々の天辺が見える。そして遥か遠い彼方には、天高く聳える世界樹の姿さえもが視認できた。

 女神の祭壇のある百一階はこの都市のどの場所よりも荘厳だが、フレデリックが聞いた話では、世界樹の麓に栄える人間の国、聖十大国せいてんたいこくに比べればかなり簡素な造りらしい。十の国々とそれを束ねる神都ガルドでは、もっとステンドグラスの光が煌びやかで、神々しい女神像が鎮座する凝った威容の聖堂であるとか。

 バベルは冒険者によってこの地に元々あった山を切り開いて造られた都市なので、全てにおいて装飾性に乏しく実用性を追求している。女神の祭壇とて例外ではない。

 フレデリックは世界樹が見える方向に存在している石の台座に、そっと妹の亡骸を横たえた。アイラによってフレデリックの元へと再び戻ってきた妹のジーナは、五年の歳月を経た今でも驚くほど生前の姿をそのまま留めていた。フレデリックとは違う浅葱色の瞳はもう開くことはなく、その目がフレデリックを映し出して笑うことは二度とないのだとわかっていつつも、今は寂しさや悲しさよりもやっと連れて帰ってきてやれたという安堵の思いの方が強かった。冷たい頬に手を当てて、慈しむように撫でる。

 フレデリックは妹の亡骸の前に跪くと自分の服の中に手を突っ込み、首から下がっている細い鎖を取り出した。鎖の先には小さな巾着がついている。袋の口を開いて中から取り出したものは、古びたリボンの髪飾りだった。黄ばんでいるが元は白だったそれには、縁にレースの飾りがついている。

 いつかジーナと約束した、竜商隊が来た時に彼女に似合うリボンの飾りをと選んで買っておいたものだ。

 ジーナの髪にそっとバレッタを留めてやる。浅葱色の短い髪に白いレースのリボンはよく似合っていた。

 フレデリックは掟に従い、ジーナの体に香油を塗った。それから脇の燭台から蝋燭を一本取ると、台座の周囲に敷き詰められている木の枝へと火をつける。炎の色は、赤ではなく白銀だ。香油に含まれている特殊な液料が炎の色を変えたのだ。百一階に吹き抜ける風が炎を大きくし、ジーナの体を包み込み、やがて見えなくなった。

 やっと会えた妹を、こんなにすぐに手放さなければならないことに抵抗を感じないのかと問われれば、感じると言うのが正しい。

 ただ、妹はもう死んでいるのだーーそれも五年も前に。

 ならば女神の下に還してやらなければならない。そうして初めて死者は安らかな眠りにつくことができるのだとフレデリックたち聖職者は教わっている。

 ジーナの体が燃え盛る炎によって灰となり、空へと舞う。

 フレデリックは跪いたまま、首を垂れて祈りの聖句を唱える。

 呪文とは異なる、聖典の一節。

 言葉は複雑だが、内容は単純だ。

 どうか、死せる者が正しく世界樹に導かれますように。

 どうか、その旅路が順調でありますように。

 どうか、女神ユグドラシルの下で、安寧の眠りにつけますように。

 どうか、どうか。

 こんな不甲斐ない兄にできる、最後のことを。

 万感の思いを込めて、フレデリックは祈りを捧げた。



 アイラが見ている前で白銀の炎が立ち上り、風に乗って灰が舞い上がる。フレデリックの紡ぐ聖句に導かれるようにして、灰は柱の間を抜けてまっすぐとギリワディ大森林の上を通り世界樹へと向かっていく。

 それは、アイラが今までに見たことのない神秘的な光景だった。

 バベルの百一階という比類のない高さから死者を送ることによって生み出される、唯一無二の光景だった。

 フレデリックが心を込めて唱える言葉は魂を震わせ、見ているアイラの心にも沁みた。

 ーーかつて、旅の途中で病に倒れた母を見送った時……こんなにきちんとした弔いはできなかった。小さな街には聖職者はいなかったし、ただただ、普通の火で燃やすのが精一杯だった。

 母がいなくなったという悲しみと心の拠り所を失った絶望感だけが幼いアイラの心を支配し、女神の下に旅立つ母の安寧を願う余裕なんてなかったのだ。

 隣にいるルインの尻尾がアイラの足をかすめる。こちらをじっと見上げるルインの目は優しく、あたたかい。アイラが頭に手を置くと、柔らかな毛並みが指の間をくすぐった。そうしてルインの頭を撫でていると不思議と心に浮かんだわずかな後悔が癒えていくようだった。

 死者を見送る儀式を初めて目の当たりにしたアイラの両目には涙が浮かび、一筋頬を流れ落ちた。


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もふもふと行く、腹ペコ料理人の絶品グルメライフ 



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