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突然の告白

同じ相手に心酔するあまり、同じような迷走をする二人のお話。

読んでもらえたらそれは嬉しいですが、チラシの裏に書くような内容です。


完結まで書き終わっています。

物語の完結であり、二人の関係の完結ではありません。

「付き合ってください。結婚前提で!」

「いや、断る」

 ひゅううと、一陣の風が俺達の間を吹き抜けた。

 雌雄を決するために呼び出されたと思い込んでいた校舎裏で、俺は終生のライバルともいえる伊集院沙耶いじゅういんさやから、衝撃的な言葉を投げかけられた。

 反射的に断ってしまった俺に罪はない。

 この俺、遠藤厳えんどうげんは、沙弥に対して、好意どころか、油断さえしていない。

「なんで!? いいじゃん! 付き合ってよ! そんで結婚するしかないでしょ!」

「なんでそうなるんだ! そもそも、俺に好意なんてねえだろお前!」

「それはその……」

 さっと沙耶が視線を下げる。

 丁度、俺の顎の下を見ているような、微妙な差異ではあるが、確かに視線を下げたのだ。

 これは、こいつが自分に都合の悪いことを言われたときの癖のようなものだ。

 つまり、やっぱり、好意などない。

「どこがダメなのか教えてよ! 直すから! 全力で直すから!」

「昔、とある漫画で読んだことがあって、納得した事柄なんだが……」

 沙耶は視線を戻し、ぶすっとした顔で俺の話を遮る。

「漫画の話なんか、聞きたいわけじゃないんだけど」

「まあ、いいから聞け」

 話を止めようとする沙耶を制し、俺は、その時感じた事柄を切々と説明し始めた。

 無理をして、自分を押し殺した状態での男女交際など上手くいかない。

 無理なんて、ずっと続けられるわけもない。

 だから、自然体で付き合える相手じゃないと、結局は破局する。

「そんなの、漫画の話でしょ」

「だが、的を得ていると思わんか?」

「じゃ、じゃあ、私が読んだ小説の話なんだけど……」

 今度は沙弥がフィクションから得て、納得したという話をし始めた。

 ヒロインが好きな相手と結ばれたいがため、努力に努力を重ねて、やがて相手の好意を勝ち取る。

 沙弥はそんな話にかつて感銘を受けたようだった。

「話はそこでハッピーエンドかも知れないけど、その後のことはどうなんだよ」

 人が漫画に感銘を受けたことを否定する癖に、自分は小説かよ、と思ったが、そこはとりあえず置いておく。

「その後? どういうことよ」

「結局、自分を押し殺して付き合って、それを一生続けるっていうのか? それ、地獄じゃないか?」

「その子は、自分を押し殺したんじゃなくて、自分を変えたのよ。だから、私にだって、できるはず」

 そう聞くと、俺の主張はもちろん、沙弥の主張も、それぞれなんだか一理あるような気がしてきた。

 だが、問題はそこではない。

 こいつは、結婚を前提とか抜かしたのだ。

 つまり、目的は俺ではなく……

「なあ、お前さ」

「なによ? 付き合ってくれる気になった?」

「いや、そもそもお前、姉貴の親族になりたいだけだろ?」

「え!? あ、ああ、あんたと結婚したら、確かに、咲綾お姉さまの義妹になるわね」

 沙耶は、再び、俺の顎に視線を落とした。

「いやいや、というか、それ以外にお前の動機は考えられないだろ」

「え、ええと……あのね、よく考えてみて」

「よくよく考えた結果がそれしかないという結論なんだが……」

「あのさ、咲綾お姉さまと一緒に暮らしてて、あんた、他の女とか目に入ることあるわけ?」

「ないな」

 即答だ。

 何しろ、優しくて、綺麗で、それでいて可愛くて、仕草もそこはかとなく高貴に見えつつもあざとくなくて、成績も優秀で、運動も出来て、わけ隔てなくて……

「すとーっぷ」

「なんだよ……止めるなよ」

 折角俺が、姉貴を思い出して、幸せな気持ちになっていたのに、こいつはそれを止めやがる。

 つまり敵だ。

「あんたが、どんな思考の渦に入り込んだのかわかるから、だからキリがないから止めたのよ」

「ふん、お前なんかに何が解るというのかっ」

 憤懣やるかたなく、俺はできるだけ酷薄に見えるように口元を歪めた。

「解るわよ。咲綾お姉さまは、優しくて、綺麗で、それなのに可愛くもあって、仕草なんかもなんだか洗練されていて、勉強だってスポーツだって完璧で、さらに……」

 沙耶はうっとりとした顔で、俺の最愛の姉貴の事を語り始めた。

 内容には一々納得できて、完璧に同意できてしまうのがまた腹立たしい。

「やめやめ! そのあたりでいいから!」

「ほら! あんただって止めるじゃない!」

 それは当たり前のことだ。

 姉貴のことを考えて、幸せになるのは、弟である俺の特権だ。

 こんな奴に許すわけにはいかない。

「むぅ……話がずれたな」

 本当に俺が考えたことと同じような感じだったことに、改めて驚きつつ、話を先に進めることにした。

「で、他の女が目に入らないと解っているのに、どうして付き合いたいとか思ったんだよ」

「それを解ってるからよ」

「は? お前だって他の女だろ」

「もちろん、お姉さまと比べるのも失礼だってのはわかってる」

 なんだか、話が要領を得ない。

 だが、今回は視線はまっすぐに俺の目に向かっている。

 つまり、本当にそう思っているということだ。

 まあ、その点は評価してやってもいい。

「なら、お前にだって靡くはずがないってわかるだろ」

「もちろん、わかるわ。でもね、価値観は共有できる」

 確かに、姉貴が最高であるという価値観については、こいつとは共有できそうだ。

 だが、冗談ではない。

 俺はそれを誰かと共有したいと思ったことなどない。

 特にコイツと共感など、冗談ではない。

「なら、靡かないと解ってて、なぜ付き合おうと?」

「好意が無くても、打算で付き合えると判断したからよ」

 確かにコイツは打算100%だろう。

 だが……

「お前のメリットはわかる。だが、俺のメリットはなんだ? 相互に利益がなきゃ、納得できないだろ?」

「それは当然ね」

 自信満々で言い切るということは、こいつは俺にもメリットがあると言うのだろうか。

 まるで思いつかない。

 というか、デメリットしか思い浮かばない。

「端的に聞く。お前と付き合うことで生じる、俺のメリットってのはなんだ?」

「いいわ、聞かせてあげる……って言いたいとこだけど、時間切れね。明日また、同じ時間にここで……」

 下校時刻だ。

 速やかに学校を出て帰宅しろと放送が入る。

「そうだな。せいぜい、俺のメリットってやつを、存分に考えてくるがいい」

「考えるも何も、解ってることを教えるだけだってば」

 さらに言い合いになりそうになった俺たちは、校舎から俺達を見つけた教師に、下校を促され、解散するのだった。


読了、ありがとうございます。


初の連載作品です。


この二人、結局結婚するんでしょうが、そこまでの道のりは長く険しいものでしょう。



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