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再会(1)

 如何にも高級そうな馬車に揺られ、王都の大通りを行く。

 三ヶ月前の回想から現実に返った私は、窓から流れる景色を眺めた。


(三ヶ月前はこの通りを、ゼアラン様の馬で通ったっけ)


 国王陛下の執務室を辞してすぐに私はエリンとともに、王都にあるゼアラン家の邸へと向かっていた。

 御者の話では、十五分もかからないという。到着は昼を少し過ぎた頃だろうか。

 家紋こそ入っていないもののやはりこの馬車は目立つのだろう、道行く人々が立ち止まって振り返るのが見える。とは言っても、彼の馬でここを走ったときの比ではないけれど。


(あのときは恥ずかしいくらい『聖女様』の大合唱だったものね)


 エイナード・ゼアランは聖女が現れるという伝説のある洞窟へ、実に六十七日間も毎日欠かさず通っていたという。仕事終わりに、休日は食料を持ち込んでそのまま一日待機していたというのだから、その信念たるや驚かされる。聖女が現れるという保証はないのに――現れる方が奇跡ともいえるのに。

 そんな彼が血相を変えて、異邦人な風体の女とともに馬で(しつ)(そう)していたのだ。それは余程鈍感な者でない限り、その正体にピンとくるだろう。


『例え力が及ばずとも、あなたの生活は私が保障します』


 周り中が熱狂したことで逆に冷静になったのか、彼は馬を走らせながら私にそう約束した。

 唯の口約束といえばそれまでだ。でも、私はそれを迷いなく信じられた。

 この人は伝説を真に受けて聖女を迎えに来たのではなく、本当に(わら)にも(すが)る思いで洞窟に通っていた。そんなこの人の期待に応えたい……そう思えた。

 結果的に私はガラリア城に部屋を与えられたわけだが、そうでなければきっと約束通り彼が私を保護してくれただろう。

 ゼアラン様が馬上で語った詳細はこうだった。

 陛下の病は不治の病というわけではなく。しかし、その特効薬は他国でしか作れないものだった。

 作ってすぐに飲まなければ効果を得られない薬で、原材料もその国にしかない。つまり特効薬を飲むには、陛下自らが出向かなければならない状況にあった。

 病を明かせば、その国に命綱を握られるようなもの。友好国ではあったが陛下は均衡が崩れるのを防ぐため、病を治さないことに決めたという。

 陛下の意思が固いのを見て、ゼアラン様は個人的に別の方法を模索。しかし代用できる薬や治療魔法は見つからず、最終的に彼は聖女の話が記された文献に縋った。国の危機に現れるという聖女を、今がそのときだと信じて。

 彼は周りから奇異の目で見られるのも構わず伝説のある洞窟に通い詰め――そして私たちは出会った。

 聖女の力で薬を作り出し陛下の容体が安定したとき、やはり涙を流していた彼の「ありがとうございます」という震えた声が忘れられない。


「聖女様、到着したようです」

「あ……本当ね」


 私が心ここにあらずなのはエリンにはお見通しだったのだろう、窓の外を見ていた私にそう声を掛けてくるくらいだから。

 改めて窓の外の様子を見て、思わず「うっ」と小さく(うめ)いてしまう。

 エイナード・ゼアランは辺境伯家の次男で、王都にある彼に与えられた邸はそこまで大きくはないと聞いていた。が、それはあくまでここガラリア国での基準だ。


(私の基準では、充分豪邸だわよ……)


 大きな邸の前に広がる大きな前庭、そこに真っ直ぐ敷かれた長い玄関アプローチ。極めつけは、そこにずらりと使用人が並んでのお出迎えという映画のような光景。歓迎されるのは嬉しいが、気後れしてしまう。


(本当、大したこともできない聖女なのに)


 気分も沈んできて、慌てて雑念を振り払う。

 最期に過ごす日々ならせめて、陰気な者を見ていたくはないだろう。私は落ちてきた口角をギュッと両手で引き上げ、馬車の扉が開かれるのを待った。


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