表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/17

救済(2)

(確かあの大きな木の側に……)


 裏山を登って、登って。遂に私は、探していた目印を視界の端に見つけた。

 ここまで登ったのは、子供の頃以来だった。


「あった……」


 遥か昔の記憶を頼りに、私は山の斜面にぽっかりと空いた洞窟へと辿り着いた。

 懐かしい気持ちで、迷いなくその中へと足を踏み入れる。

 洞窟内はまるで大きな岩を()()いたような造りになっていて、土の見える箇所が(わず)かにもない。曲がりくねってはいるが一本道で、隠れ家に憧れる子供たちの格好の遊び場だった。かくいう私も小さな頃、父母と一緒に祖母を訪ねたときには、よくここへ近所の子供たちと遊びに来ていたものだ。

 そんな遊び仲間も、今はもう誰一人村に残っていない。散り散りに県外へと働きに出てしまった。地元の子供でさえそうなのだから私が定住するなんて、それは夢にも思わないだろう。近所の女性が「いつまで」と聞いてきたのも、仕方がないと言える。

 私は洞窟を、奥へ奥へと()を進めた。程なくして、少し広い空間になっている最奥まで来る。


(今も枯れずにあったんだ)


 私は小さな泉を認めて、その側に腰を下ろした。思ったよりは、地面が冷たいとは感じなかった。

 凪いだ水面をじっと見つめる。私が子供の頃にも、ここの泉は存在していた。どんなカラクリなのか真夏の暑い日にも枯れることがなく、それどころか(みず)(かさ)が減っているのですら見たことがない。

 そんな神秘的な泉があるせいか、村でこの場所は『神隠しの洞窟』と呼ばれていた。


(いっそそれが本当ならよかったのに)


 神隠しが真実なら。

 そうだったなら私を、ここではないどこかへ連れ去ってくれたかもしれないのに。

 私は(せん)()いことと思いながらも、神秘の泉へと片手を浸した。


(ほんのり温かい)


 予想外の感覚が来て、その心地良さについ(まぶた)を閉じる。

 まだ寒い季節なのに不思議だ――そう思った瞬間だった。


「⁉ 何」


 瞼を閉じていてもわかるほどの光を感知し、私は驚きに目を開いた。

 同時に立ち上がろうとして、しかし何故か足が動かない。自分が思っている以上に驚いていて腰が抜けたのだろうか。私はそう思って、ただ無意識に足に目を遣った。


「ひっ」


 途端、そこで目に入った光景に目が釘付けになる。

 そこには在るべきものが無かった。

 私の足首から下が――無かった。


「何……これ……」


 (かす)れた声が出る。息が浅くなる。

 私が見ている目の前で、さらに膝までが消えて行く。


「止め……止めて……」


 地面を掴んだはずの手の感触がなくなり、腕と腰が同時に消えて。

 激しく脈打っていた鼓動が聞こえなくなった刹那――


「あ……あ……」


 私は自分という存在そのものが、この世から消えて無くなるのを感じた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ