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#2 カイとゲルダとつるばら


 薄ぼんやりとした、目の見えた頃の記憶。みちると琉生は、二卵生双生児ではあったがよく似た双子だった。母は、目元が特によく似てるといつも幸せそうに語っていた気がする。大きなヘーゼルの瞳。母も同じ色だった。もう色なんて見えなくなって久しいのだけど。


 5年前、みちるは事故にあったらしい。自身に起こったことを“らしい”だなんて変な話ではあるが、みちる自身はよく覚えていないのだ。


 双子の兄の、琉生いわく、大きな交通事故に巻き込まれ、みちるの網膜は焼き切れてしまったらしい。それはひどい事故だったそうだ。事故のショックでみちるの記憶は混乱して、当時のことは覚えていないのだろうと医師は言った。


 以来、みちるは色も形もない世界で暮らしている。不自由はなかった。琉生とはほとんど以心伝心であったし、一人きりのときはたいてい眠って過ごした。もともと目の見えた人間だからだろう、夢は色鮮やかで、退屈しない。


「兄さん」

「なに、みちる」


 琉生は家にいるとき、大抵みちるのすぐ傍らに佇んでいる。呼べばすぐに返ってくる声に、みちるは笑んだ。


「今日もね、ずっと眠っていたわ。お医者さまは音楽を聴いたりしなさいって言うけれど、わたしって悪い子かしら」

「みちるの夢はカラフルなんだろう。きっとそれは音を聴くのと同じくらい大切なことだよ」


 ふふ、とみちるは笑う。琉生はいつも、みちるの欲しい言葉をくれるのだ。片割れだから、よく分かる。


「もうじき冬よね。随分部屋も寒くなってきて」

「暖房を入れようか」

「ううん、大丈夫。ねえ、今は紅葉が見頃かしら」

「そうだね。大学の並木も綺麗だよ」

「見てみたい……わたし、モミジやカエデより、イチョウが良いわ。黄色の方が好き」

「イチョウか。大学のイチョウはメスばかりだから銀杏くさくてね」


 ゆっくりと語ってくれる琉生の声を噛みしめるようにききながら、みちるは想像する。琉生のいる大学、琉生の隣に立つ自分。


 琉生にみちるの考えが分かるように、みちるにも琉生の考えていることは分かった。たとえばそれが、今琉生が思い出しながらきかせてくれる、みちるが一切知るはずのない大学内の風景のことでも、みちるには色鮮やかに思い描けるのだ。


 大学内は多分、赤い木の葉が多いのだろうとなんとなく思い描いて、眉を寄せた。紅葉よりも黄葉が好きだ。くるくると回るモミジの実よりも、茶碗蒸しに入れられた銀杏の苦みの方がみちる好みだ。子供の頃は、そんなこともなかったと思うのだけど。



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