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カッコいい女に愛されるシチュ  作者: クラゲの逆襲
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雷神の娘に愛される

リビングにはゆったりとした時間が流れている。

横長のソファの中央に眼鏡を掛けた青年が座り、その太腿の上に自分のお腹が乗るようにして、毛先を青く染めた活発そうな女性がソファの上にうつ伏せになっていた。

二人が手にしていたのは同じ種類の携帯ゲーム機。モンスターを狩るゲームを協力プレイでやっていた。

女性が声をかける。


「あ、ぴよった。尻尾切って尻尾」

「了解」

「てかもう死んじゃうかも」

「まだ尻尾切れそうにないけど」

「早く早く」

「無茶言うな」


「「あっ」」


二人が揃えて声を発したのは、標的であるモンスターを討伐してしまったからだった。


「私の尻尾ぉーーっっ」

「だからまだかかるって言ったろ」

「だってハンマーで頭殴るの楽しいんだもん」

「言ってることやば……」


それからゲーム機の画面がローディングの為に真っ暗になって、しばらくは、長い付き合いのある者同士が生み出す特有の心地良いだらりとした沈黙に包まれていた。

不意に青年の方が口を開いた。


「そう言えばさ」

「んん?」

「最近、鳩増えてね?」


鳩。

公園にいる鳩。

駅のホームを歩いている鳩。

街のどこにでもいる鳩。

ではない。青年が指しているのは神界から、手紙の使者として飛んでくる真っ白な鳩のことだった。彼らは最近、事あるごとに二人の家の周りに出現した。ベランダにも玄関にも、ちょっと目を離した隙に現れ、青年か彼女がその姿を目にしたことに気付くと途端に鳩はお役御免とばかりに手紙をその場に置いてどこかに飛び去って行くのである。


「増えてんね」

「増えすぎじゃね」

「最近、”お見合いしろ”ってのが多かったからさ。あんたの写真と一緒に、”こいつが私のパートナーなのでそういうの送ってこないでください”って手紙送ったら何か増えた」

「何かって言うか絶対その手紙が原因だろ」

「間違いないね」

「てか……え? 俺の顔、お前のパパ神様にもう晒されてるってこと?」

「そう」

「えぐっ」


顔を上げもせず事も無げに言った彼女に、青年は苦笑いを浮かべた。


「どうすんだよ怒ってたら」

「怒ってんよぉ~」


彼女はゲーム機をソファの余った位置に置くと、体を起こして背もたれにもたれ掛かり青年と頭を並べた。


「”説明しなさい”とか”帰ってきなさい”とか、ばっかり」

「俺なんかした?」

「一族の中じゃ私が一番色濃く雷神トールひいひいひいひい……おじいちゃんの性質を受け継いでるからね。一族の期待の星が人間とかいうピラミッド最下層の生物の雄と結ばれるのが相当に認められないんでしょ」

「俺の立場よ」

「大丈夫。私的には最下層じゃないから」

「そう言う問題じゃねぇだろ」

「えー、里帰りめんどいー」


彼女がうだうだ言い始めた頃合いで、インターフォンが鳴った。青年は「はぁい」と玄関に向かって言って立ち上がり、彼女も「Anazon来たかも」と玄関に行く彼の背中に付いて行った。

青年が扉を開ける。


「なっ……」

「うわぁ」


青年は目を見開き、彼女はドン引きとばかりに嫌そうに顔を顰めた。

お出迎えしたのは大量の、視界が埋まるほどの鳩の大群であった。既に地面には沢山の手紙と羽根と糞尿が落ちていて、羽ばたく音と鳴き声も幾重にも重なって、軽い地獄であった。

神界にいる彼女のご両親はかなりご立腹らしい。


「一旦帰りますか……」


彼女は諦めたように呟いた。






「人間風情がどうやって我が娘の心を奪ったのだ。恋の呪いか? まじないか? さぞ非道で下劣な手段を使ったのだろう!!」


彼女の父親の怒号が汚れ一つ見当たらない神聖な雰囲気のある白一色の玉座の間に響き渡った。

青年は心の中でため息を吐いた。

さっきからずっとこれだ。


二人で神界に行き、彼女の両親が待つ神殿へと向かった。そこまでは良かった。ついて早々に青年だけが先に玉座に通された。待っていたのは豪華絢爛な椅子に座る如何にも偉そうな立派な白ひげを蓄えたまるで彫像のような威圧感のある8mの半裸の大男と、布を纏った美しくも大きな女性であった。

始まったのは挨拶とは名ばかりの詰問であった。


「いえ、下劣な手段なんてまさか。彼女とはただゲーセンで出会ってそこから仲を深めていっただけで、怪しい事は一切してませんよ」

「嘘を言え! あの娘が下等生物である人間の男などを好きになるものか!」


父親の怒りの感情が視覚化されるが如く、壁に立て掛けてあった大量の剣が浮き上がり飛び付いてきて、青年に剣先を向けたまま四方を取り囲んだ。


「真を申せ! さもなくばお前の身体をずたずたに引き裂いてくれる!」

「ですから、さっきから言ってることが全て本当の事で」

「いい加減にしろ!」


言い訳をしていると思ったらしい父親は頭に血を上らせて、剣の内の一本を青年の肩に向かって飛ばした。

風を切って迫りくる剣。

人間の青年にはただ目を見開いて身体を強張らせることしか出来ない。

距離が縮まる。覚悟する。剣先に貫かれる。

その瞬間、


バチンッッッ!!


どこからともなく青白い光を放つ稲妻が青年の目の前を横切って、向かってきていた剣を弾き返した。からんからん、と剣が石畳の上を転がる音で青年は我に返る。振り返れば、玉座の入り口に左の手の平を青年の方に向けた彼女が立っていた。手の平からは小さな稲光が名残を残すように空気に飛び散っていた。


「いい加減にするのはお父様の方ですよ! 先に彼を呼びつけて私がいつまでも呼ばれないから来てみれば! 客人に、あまつさえ娘の恋人に手を掛けるなど、まともな親のすることではないでしょう!」


彼女はぎりっと目を細めて父親を睨むと、次に隣に座る母親を睨んだ。彼女の髪がバチバチと電気を帯びながら揺らめいていて、荒げた口調からは怒りが溢れ出している。


「お母様もなぜ止めないのですか!? お母様の大好きな”礼節”を欠いた恥ずべき行為ですよ??」

「あら。人間相手に礼節など必要ないのよ?」

「ちっ。」


事も無げに言う母親に虫唾が走るとばかりに彼女は大きな舌打ちを一つして、”だから来たくなかったんだよ……”と忌々しげに呟いた。。


「それよりもなんだお前、その恰好は! この玉座に入るときは相応しい恰好をしろと教えただろ! 召使に用意させたドレスはどうした!」


怒鳴る父親を気にも止めず、彼女は煽る様に”ああ~”と声を漏らした。今の彼女は、上は肩から下を外気に晒した袖なしの黒いニット、下はベルトで留めたデニムのパンツを履いていて、ニットは肌に密着して大胆に胸のラインを強調していた。人間の女性のファッションとしては街中でもまま見られる服装であるが、当然のようにドレスほどの煌びやかさや厳かさは無い。


「あれは暑いし動きにくいしで、全く着てられませんよ」

「なんと嘆かわしい! まさか人間社会に堕ちて10か条も忘れたか!?」

「10か条、ねぇ」


彼女は味わうように言葉を繰り返す。


「久しぶりに聞きました。神聖なる場では相応しい服装を着用すること、あとは……こんなのもありましたね。神の一族たる者、身体を傷つけたり不浄なるものを受け入れてはならない」

「そうだ。覚えてるじゃないか」

「いま思い出したんですよ。とっくの前に捨て去った古臭い決まり事だったなと」

「なに?」


娘の言葉に両親は眉を顰める。


「どうぞ倒れないでくださいね」


彼女は意味深げにそう言って笑った。そうして次には見せつけるようにポケットから煙草の箱を取り出すと、左手の人差し指と中指で挟んで一本咥え、右手の指先から放った細い雷で先っぽに火を点け、美味しそうに煙を吐き出した。


「ふぅー……。知っていますか。これは煙草という人間の嗜好品です。肺を汚す代わりにリラックスできるんです」

「あらまぁ……」

「お前……」

「あとは、ほら」


彼女は両親を無視して首に掛かる髪をかき上げて隠れていた耳を出す。


「ここ見えますか? 耳に穴を開けて着ける装飾品で、ピアスと言います。人間がよくやるオシャレの一つです。カッコいいでしょ?」


次は服を少し捲り上げてへその横を見せる。


「ここにはちょっしたタトゥー。肌に刻むタイプのオシャレですね。簡単には消えません」


次は襟を下に引っ張って、鎖骨当たりを見せる。


「あとは、ここ。赤い跡がいくつかありますねぇ。昨日の夜から。触っても痛くは無くてむしろ幸せだなぁと思うんですけど、果たして何でしょうね。虫刺されですかね?」


彼女は愉快そうに笑った。両親は暫くの間、言葉を失い呆然としていたが、やがて母親の方が口を開けた。


「随分と堕落してしまったのですね。そんなにふしだらな様子では、男神からの寵愛を受けることは叶わず、誰もお前を貰ってはくれないでしょう」

「結構ですよお母様。偏屈者ばかりの窮屈な神の世界など、こちらから願い下げです。それに……」


彼女はそこで言葉を区切り、ちらりと青年に視線を向ける。青年と目が合うと共犯者を見つけたようにニヤリと笑った。


「そこの彼は、私を結構愛してくれてるみたいですよ??」


これに両親は激怒した。


「ふざけるな! 人間如きが神の婿になるなど許される筈がないだろう!」

「そうですわ! お前はこんな惨めな生き物よりももっと相応しい男神の元に嫁ぎなさい!」


二人はもはや我慢がならないようで、堰を切ったが如く言葉の濁流を娘に浴びせる。

しかしその両親よりも、もっとキレていたのは他の誰でもない彼女であった。

彼女は苛立ちを込めるように左手の親指と中指を合わせたままゆっくりと高く掲げて、ずらし、甲高い音を玉座の間に響かせた。その直後、


バチンッッッッ!!!!!!!!!


と強烈なイカヅチが父親と母親それぞれの目と鼻の先に落ちた。雷の直撃を受けた石畳は微塵に砕け散り、深く真っ黒な焦げ穴を残した。二人は息を呑む。彼女のありったけの怒りのエネルギーが込められていたことは誰の目にも明らかだった。


「すみません。手が滑ってしまいました」


目をかっぴらいた彼女は悪びれもせずに言う。


「もし次も手が滑ったら直撃してしまうかもしれませんが、どうぞご堪忍ください」


”次は殺しますので言葉に気を付けてください”の意であった。そこには親に対する容赦などは一切なく、彼女の周囲が青白く発光し時おりバチバチと音を立てていることが、本気である事を示していた。

二人が口をつぐみ、張り詰めた静寂が玉座の間に広がる。その重苦しい沈黙を破ったのは父親だった。


「……勘当だ」


怒り狂っていた時とは違い、努めて怒りを堪える様な呟くような声で言った。


「堕ちるとこまで堕ち、親を脅しさえする娘のことなどもう知らん。勝手にしろ。ただしもう二度と、神の世界に上がってこられると思わないことだ」

「そうですか」


彼女は平然と返す。


「それではにさようなら。お父様、お母様」


小さく微笑んで、そう言った。





「良かったのか? あんな別れ方して」


帰り道。夕暮れに染まる都心の街を二人はぶらぶらと歩いている。


「良かったんだよ。元々、親も神界も大嫌いだったし。アンタと結ばれるには遅かれ早かれこうなってた訳だし」

「だからって縁まで切らなくてもなぁ……」


青年はしみじみと呟いた。


「ていうか俺大丈夫か。”神の雷を喰らえー”みたいなことにならないか?」

「私がいる限りは大丈夫」

「お前と別れたら死ぬじゃねえか」

「そうだよ。だから別れない方がいいよ?」

「このアマ、脅迫してやがる……」


彼女はウシシと悪戯な笑みを浮かべた。


「とりあえずストレス溜まったからゲーセン寄って適当に音ゲーしてこ」

「財布家に置いて来てなかったか?」

「奢らないと神の雷が落ちるかもしれない」

「何でもいけると思うなよ」


二人は駄弁りながら適当に見つけたゲーセンの中へと入って行った。

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