初めての代償
メールをただ見ていた。昨日の夜、文字通り初めての夜だった。途中まではうまくいったのだが最後まではいけなかった。緊張して最後までいけなかったのだ。それを彼女は気にしていた。年上だからなのか。はたまた前の彼女のことが忘れないからこうなったのだと。笑顔は彼女の精いっぱいのやさしさだった。
情けなかった。うまくできなかったのが恥ずかしかったし彼女も傷つけてしまった。もっと経験を積んでいれば最後まで行けたかもしれない。お酒をいつも以上に飲んだこともあったのだが内心、心臓がバクバクしていた。でも起きてしまったことはどうすることもできない。
メールを読んだ後はなんて返せばいいのかわからなかった。気の利いたセリフなんてパッと思いつかないものだ。彼女に寄り添った言葉はこの時は出てこなかった。ただ言えたのは「そんなことないよ。」だけだった。
次の日に電話をしてみた。もしかしたらもう出てくれないかもしれない。望みを賭けた。
「……もしもし?」
「もしもし。」
「……元気?」
「うん。」
心なしか避けられている感じはした。でも電話にでてくれたのは確かだった。ここで引いたらだめだ。そう思ったから電話を切られる前に先に話しかけた。
「あのさ……。」
「何?」
「来てくれてありがとう。本当に嬉しかった。
「また会いたい。本当はあれが初めてだったんだ。だからうまくできなかった。」
「……。」
「そうなの?」
「恥ずかしいからあんまり言いたくなかったんだよね。」
「慣れてるのかとおもってたよ。」
「……全然だよ。」
照れ隠しで笑いながら言った。これが精一杯だった。ぶっちゃけた話もしたしなる様になったらいい。そう思った。意外と彼女の声色の緊張が解けていった。少し納得してくれていたみたいだった。
「神戸楽しかったよ。手繋いで本当に楽しかった。」
「また一緒に手繋いで歩きたいな……。」
「うん。また一緒に過ごしたい。」
二人で約束をした。また会おうって。ここからまた彼女との遠距離が始まった。毎日のように他愛のないことを話していた。電話もたくさんした。もちろんチャットも。距離は前より確実に縮まっていった。そして1か月後の連休にまた会う約束を取り付けた。
今度は失敗しないように色々準備をした。お酒を飲み過ぎないこと。慣れてないのは仕方ないから触れ合う時間を長くとること。ムードを大切にすること。そして彼女を大切に思うこと。考えられることはすべて考えた。次に失敗はできない。
再び新神戸駅で会った。彼女は相変わらず綺麗だった。ワンピースと笑顔が似合っていた。荷物を受け取ると一緒に手を繋いで歩いた。今日はいける。ずっと心の中で唱えていた。ムードも大切にする。
「何だかまた会えて嬉しい。もう会うことはないって思ってたから。」
そう言った彼女の眼は潤んでいた。