繋いだ手と手
「あ……。」
「やっと会えたね。」
「荷物持つよ。」
新神戸駅で彼女と出会った。ワンピース姿の笑顔のとても似合う女性だった。電話と同じでよく笑う。綺麗だと思った。30代の女性と接点を持ったのは彼女が初めてだった。新神戸駅から地下鉄に乗り三ノ宮まで着く。当時住んでいたマンションは三ノ宮の近くだったからだ。
2人で他愛もないことを話しながら歩く。不思議と沈黙はなかった。彼女がずっと話していたっけ。ちょっとした沈黙すら心地よかった。食事を二人とも取ってなかったのでどこか食べに行こうと思っていたのだけれど彼女はコンビニで何か買って家で休みたいといった。
新幹線だけでも新横浜から新神戸まで3時間かかる。そしてさらに新横浜から彼女が住む湘南まで何時間もかかるようだった。かなりの長旅だ。この時は知らなかったのだが新横浜から一番遠い駅が湘南だった。
とにかく休みたかった彼女はコンビニでお酒とおつまみを買うことを選んだ。普通ならせっかくだから神戸の美味しい店に行くと思うのだけれど。彼女はそういう人だった。性格も面白いひとだった。
「疲れたね。」
「お酒飲もうよ!何飲む?私は~。」
彼女はマイペースでどんどん先に進む人。適当なお酒を買っておつまみを買ってすぐ近くの家に向かう。徒歩で言えば5分もかからないところだった。私は今まで付き合ったことはあったが深い関係になったことはなかった。距離の縮め方もわからなかった。
意を決して彼女の空いている右手を握ってみた。彼女は驚いたようだったがすぐに握り返してくれた。彼女はぽつりとこう言ったのを鮮明に覚えている。
「なんか恋人みたいだね……。」
「嫌?」
「ううん。嬉しいの……。」
彼女の目が少し潤んでいた。二人ともドキドキしていたと思う。少なくとも私はとても興奮していた。手さえまともに繋いだことが数えるほどだったからだ。5分だけの手繋ぎデートだった。
――ガチャ。
マンションの扉を開ける。いつも思うけどこの音はとても高揚する。新しい何かが始まることを予感させるからだ。いつまでも手を繋いでいた。
家の中に入った彼女はとても興奮しているようですごく笑顔で早口だった。二人で買ってきたものをテーブルに上げた。二人で軽い乾杯を交わす。テレビでは適当に映画かなんかを流していた。ロマンチックなやつを。何を見ていたかは覚えていない。
二人並んで話をした。お酒も進んでいる。距離がとても近かった。少なくとも肩は何度も触れ合っていた。次第に深い話をしていった。きっかけが何なんだったっけ。思い出せない。
「え~。痴漢とかされたことあるでしょ?」
「あるよ~。電車とかね。睨みつけたけどね。」
「あ~。されるよね。綺麗だし。」
「ありがと。」
「どんな感じでされたん?こんな感じ……。」
彼女に具体的に触れてみた。嫌がられてはいないみたいだ。その先に進みたくなった。もちろん泊まるって話を聞いた時点でこうなることは予測していたのだけれど。向こうも同じ気持ちのようだ。そこから先は流れに身を任せた。
「嬉しい。」