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水中花火

 彼女とは関東でも色々な場所に行った。夏はやはり実家に帰らずに彼女の元へ走った。夏の花火の思い出と言えば、鎌倉の花火大会だ。当時は毎年約15万人の見物客が集まる夏のビックイベント。沢山の打ち上げ花火を見ることができる。鎌倉花火大会の名物、水中花火。


 船から水中に花火を打ち込む。それが海面で扇状に炸裂し、海面と反射して丸い花火を映し出す。日常や悩みを簡単に打ち消してしまうほどの刺激的な夜を演出してくれる。そんな花火大会だ。


 夏私は彼女と息子君とそれを見にいった。行きは電車だったけれど。とても車で止める場所を確保するのが困難だったからだ。電車も人で溢れていたけれど。浴衣姿の可愛い彼女といた。周りも浴衣の女性が多かった。やはり浴衣の彼女は私にとっては刺激的で一番魅力的な人だった。


 

 「どう?似合うかな?」


 「似合ってるよ。」


 「フフ。ありがとう♪」


 「めちゃくちゃいい。」


 「ありがとう。」


 「好きだ。」


 「もう。言い過ぎ」



 少し会話にも余裕をもって話せるようになっていた。相変わらずコミュ障だったけれど。心を許した人には軽口も叩けるようになっていたし、それなりに会話を楽しめるようになっていた。


 息子君は相変わらずニコニコしている。やはりイケメンだった。将来、この子はモテる。確実にそう思った。案の定、近くの女子高生にこの子かわいい~♪と黄色い声援を浴びていた。いつものこと。うらやましい。


 いつもと違う恰好をしているからいつもよりゆっくり歩いた。この頃になると少しずつ彼女の立場を考えて動けるようになっていた。少しずつだったけど。彼女をずっと見ていて気が付いた。自分を理解してほしければ相手のことが理解できなければならない。自然と学んでいた。


 会場についた。噂通りの人ごみに溢れていた。笑顔も溢れていた。見えないところで悲しみも。はぐれないように見失わないように手をいつもより強めに握った。痛いよって言われてしまったけれど。


 気を許すと見失いそうだった。会場でも関係でも。花火がよく見える絶好のスポットなんてすでに多くの人に場所取りされて残ってなんかいなかったけれど花火は見えた。綺麗な花火をただ見ていた。これが花火大会で一番綺麗で思い出に残っているものだったと思う。彼女は不意にこう呟いた。



 「私を離さないでね。」







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