鬼の形相
就職する前の話。2月だったか。いつものように彼女と電話で話していた。いつものように学校が終わりバイトが終わる。夕方には家路についてご飯を食べ夜に彼女と話す。いつもの彼女だった。この時は長時間の電話ではなくて短かった。後になってその理由を知るのだが。
「うんうん。」
「そうなんだ。」
「あ、お父さんから電話かかってきちゃった。」
「マジ?わかった。」
「おやすみ~♪」
「おやすみ。」
お父さんから電話がかかってきたらしかった。仕方ない。そういうときもある。私はその時、暇だったし特にやることもなかったのでチャットで遊んでいた。この時もオープンな場ではあるけれど女の子とチャットを楽しんでいた。下ネタなんかも織り交ぜて。
チャットはチャットで面白かった。様々な年齢の人と男女関係なく話せるし気軽にコミュニケーションが取れる。最近仲良くなった女の子とチャットでチャラチャラしていた。この女の子は彼氏がいないらしく甘えただったのでそういうチャットを楽しんでいた。あくまでチャットだけだけど。
彼女から連絡は途絶えていたので深夜2時過ぎぐらいまでチャットをしていた。お酒も飲んでいたし適当な発言を繰り返していた。実際楽しかったんだけど。さすがにその時間までチャットをしていたので眠くなってきた私は眠ることを告げ眠りについた。明日は学校が休みなので気楽だった。
――カチャカチャ。
――カチャ。
何か物音で目が覚めた。おかしい。私は一人暮らしだったからパソコンのキーボードの音がするのはおかしかった。パッと見るとそこには鬼の形相をした彼女がいた。
「うああああああああああああ!」
思わず大きな声を上げてしまった。いないはずの彼女がそこにいたからだ。横浜にいるはずの彼女がそこにいた。それもこちらをピクリとも見ず画面だけをまっすぐ凝視している。ピクリともだ。
これは……現実なのか夢なのか。定かではなかった。彼女に会えて嬉しいはずなのにいないはずの彼女がそこにいた。固まってしまった。何を見てるんだ……。恐ろ恐ろ彼女に声をかけた。
「え……あれ……。」
「なんでここにいるの……。」
「…………。」
「…………深夜バスできた。」
「あ……。」
「ずいぶん楽しそうじゃない。」
「昨日は楽しかった?」




