写真
就職が決まる前に自分の両親にも彼女の写真を送った。私からみてもとても綺麗に映った写真だったし自信はあった。だけれど両親から帰ってきた言葉は祝福ではなく反対の言葉だった。彼女の写真も年相応にしか見えないとはっきり言われた。周りから見るとどう見えるのかよくわからなかった。
両親は反対していたし、とりあえずの神戸で働くことを決めてしまった。少なくとも職人になればどこでもやっていける。神戸でも横浜でも。そういう狙いもあった。後付けだけれど。ただ怖かっただけだ。
変化を怖がるのが私の特性の一つかもしれなかった。自分なりに踏み出しているつもりだったけれど。何も知らない世界に飛び出すのはやはり怖くて震えていた。勇気を持てなかったのがその時の私だった。
彼女の住む湘南に行って仕事を探す手もあったはずだ。でも私はそれをしなかった。今以上に人が多いところを恐れていた。そして楽なほうを選んでいた。全て自分が楽なほうを選んで納得させていた。
「そっか。」
「うん。ごめん。」
「……別れるの?別れた方がいい?」
「いや、別れたくはない。」
「……ならどうするの…?」
「一人前になったらどこでもやれる。」
「……待てないよ?」
「待っててほしい。」
彼女ももうすぐ35になる。30代後半の女性になる。焦っていた。もしかしたら私たちの子供もはやくほしかったのかもしれない。ただ何の経済力もなかった私には荷が重かった。ただでさえ息子君のことも考えなければならなかったからだ。養育費を貰っているとは言え簡単な話ではない。
それにできれば元旦那にも彼女を合わせたくなかった。近づいてほしくなかった。彼女を愛した人だから。彼女が愛した人だったから。やはりいい気はしなかった。彼女をそこから解放したかった。それなら神戸に呼んだらいいのにそれはできなかった。不安だったから。
一人前になったら。それを都合の良い言い訳に使っていた。何年も先に先延ばしにするだけだ。やるなら今すぐ行動しなければならなかった。それが決意を固めるということだったんだ。それに今頃気づいた。ただ逃げていた。
3月になり無事に卒業することができた。新しい生活が始まる。それは彼女との距離を遠ざけるものだった。やはり前よりも頻繁に会うことができないから。でもそれが選んだ道だった。




