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流したもの

 結論から言うと彼女の母親はまだ帰っていなかった。割と遅い時間だったけれど。しばらく待っていたがどうすることもできなかったので今日は帰ることにした。写真だけ見せてもらった。彼女によく似ていたけれど。胸を撫でおろしていた。助かったと。


 彼女の父親も残念そうだった。彼女も残念がっていた。また会える機会を作るのが先になってしまうのがわかっていたからだ。彼女としても肉親にちゃんと紹介して応援してほしかったみたい。やはり不安だったから。先は見えるようで見えないから。


 彼女の実家を後にする。彼女が運転してくれた。息子君はやはり車が動き出すとすぐ眠りについた。それなりに遅い時間だったから。車で浜崎あゆみの曲を流しながら家路につく。切ない歌声が響いていて曲と心がリンクしていた。今の2人にはぴったりの曲だった。


 

 「□□君。ごめんね。」

 「お母さんに会えなかった。」


 「いや、大丈夫。」


 「今度はちゃんと会わせるから。」


 「うん。」



 残念そうな彼女の横顔を見ていた。彼女の横顔を見るのが好きだった。じっと見ないでって彼女は常に言っていたけれど。ただただ見ていた。ばれないように横目でチラチラとね。


 

 「あっという間に時間が経っちゃうね。」

 

 「時間が足りない。」


 「……足りないね。」



 やっぱり時間が足りなかった。話し合う時間も求め合う時間も。それは遠距離の宿命かもしれない。だからこそ会えた時に大きく燃え上がるのだけれど。別れの時間が近づいていくたびにその火は消えそうになる。2人で大きくした火は最後は小さくなっていく。それをただ感じていた。


 それでもまだこの時は終わりの予感はまったくなかった。それすらも考える時間がなかったからだ。少なくとも会っている間は考える余地はなかった。今ある幸せを噛みしめるのに精いっぱいだったからだ。



 「着いたね。」


 「お疲れ様。」


 「うん。お風呂入って早く寝よう。」


 

 くすぶった思いは汗と一緒に流した。気分を変えてただ今ある時間を楽しもうと思った。お風呂から上がるといつもの特別な夜になる。明日の夕方にはまた帰らなければならなかったから。


 

 「きて。」


 

 夜はただ更けてゆく。約束の時間まで刻一刻と近づいていく。置いていかれるわけにはいかなかった。

 


 


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