成り行き
夏が終わる音がした。そんな夏の一コマだった。彼女は父親とこちらに向かってくる。私は一歩も動けずにただ見ていた。軽く会釈をするのが精いっぱいだった。彼女がドア開けてこちらを見る。
「お父さんもう来てたよ。」
「あ、こんばんは!」
「は、はじめまして!」
「こんばんは。」
「よく来てくれたね。ありがとう。」
「い、いえ。」
うまく言葉が出てこない。とりあえず車を降りて息子君を下した。息子君は私にしがみついてきた。抱っこを私にしてほしかったらしい。私は息子君を抱っこして歩き始めた。彼女の父親はそれをじっと見ていた。
「向こうで席を取ってある。」
「行こうか。△△おじいちゃんだよ。」
息子君はじっと見ていた。私に抱っこされながら。彼女の父親はニコニコしていた。孫に会うのが純粋に嬉しかったようだ。少し胸をなでおろした。息子君がいるおかげで空気が和らいだからだ。
息子君がいなければもうすこし緊張していたかもしれない。いやガチガチに緊張していたと思う。息子君の体温や心臓の音が私の心を落ち着かせていた。その場を和ませてくれたのが息子君だった。
レストランに入ると右奥のテーブルに座った。4人掛けのテーブル。食卓のテーブルよりずっとずっと大きかった。食べたいものは正直あったが彼女の父親と同じものを頼んだ。それが一番無難だと思ったからだ。それなりに高そうなメニューを選んでいた。ただ流れに任せる。
「改めまして××の父親です。」
「今日は来てくれてありがとう。」
「こ、こちらこそありがとうございます!」
話すのが苦手な私は精いっぱい話した。噛み噛みだったし面白いことも言えなかったが聞かれたことには真摯に答えたつもり。見た目はチャラいパーマかけた20歳の男だったけれど。そのときのベストを尽くした。彼女の父親にもそれは伝わったらしい。凄く一生懸命に話してくれたと後々彼女から教えてもらった。
それから彼女の実家まで向かった。もしかしたら彼女の母親が帰っているかもしれないと思ったからだ。内心怖かったが黙って一緒に向かった。なんて言われるのか。私に対してよい感情を持ってないのは聞かされていたからだ。彼女の実家に着いた。心臓はバクバクしていた。
「着いたよ。」
「いこっか。」
「う、うん……。」
車を降りて玄関に立つ。
――ピンポーン。




