不確かなもの
「もしもし。」
「起きてた?」
「起きてたよ。」
「遅かったね。」
「ちょっと寄り道してた。」
「そっか。よかった。」
「よかった?」
「ううん。」
こんな会話だったと思う。彼女を心配させてしまった。彼女は敏感な人でもあったから。帰りが遅いのも何かあったんじゃないか。また今回のことで思うことがあったんじゃないかとか。色々思いを侍らしていたようだ。心配させてばかりでやっぱりまだ子供だった。
他愛もないことを話す。さっきまで会っていたのに今はもうこんなに遠い。信じられないよねって彼女と言い合った。彼女も感傷的になってるようだ。時間を巻き戻したいとその時は本気で思った。次いつ会えるのだろう。そんなことばかり考えていた。
久々に長電話した。3日ぶりだったけど。次に会う約束をして電話を切った。いつも通りケータイは熱を帯びていて耳が熱くなった。今みたいにSkypeやzoomなんてなかったし知らなかった。声だけでしか連絡がとれなかったけれどそれだけでも十分伝わるものがあった。声から相手の気持ちを読み取った。
余裕なんてなかったけれど。話せることはちゃんと話したいと思った。それに彼女ならきっと受け入れてくれる。そう思っていたし私も彼女の全てを受け入れられると思っていた。何もわかっていないのは私だった。どれも彼女の気持ちに溢れていた。その時は気づけなかった。
またいつ通りの日常が始まった。私は毎朝、学校に行って勉強をする。彼女は子供を育てながら仕事をする。私は寮のポストに入っていたチラシを見て夕刊配達を始めていた。夕方から2時間ぐらいで200件ぐらい配達だったと思う。毎日あるが配り終えればそれで終わる。私の性格には合っていた。
彼女と会うためにバイトをしていた。お金はやはり必要だったし彼女に良いところも見せたかったからだ。対等に見られたかった。年の差を少しでも縮めることがしたかったんだ。見た目も経済的にも。その時の私はずっと背伸びをしていた。彼女に釣り合う彼氏になりたいと。
「お疲れ様!」
「お疲れ様。」
「今日も学校もバイトも頑張ったの?えらいね。」
「ちゃんと行ったよ。」
「今度は私がそっちに行くよ。」
「そうなの?」
「うん。また元旦那のとこに子供預けることになるから。」
「……わかった。」
「いいかな?行きたいところがあるの。」
「そうなんだ。わかった。」
いつだって彼女が主導権を握っていた。私はそれに合わせていた。彼女が望むようにしたいと思っていたから。彼女が喜ぶことが私の喜びでもあった。だからなるべく相手の行きたいところに行きたかったし彼女も遠慮なく行きたいところを言った。それで関係性が出来上がってた。
……そう思っていた。彼女も無理をしていた。それに気づけなかった。私のためにお金もたくさん使ってくれていたし時間も合わせてくれていた。自分のやりたいことだけを言っているようで実は私のやりたいようにさせてくれていた。それを気づいたのはやはりずっと後のことだった。




