小さな幸せ
彼女の元に来て二日目の夜を過ごした。二人とも求め合ったし確かめ合った。それしか確かめる術がなかったから。いくら確かめ合っても決して埋めることはできなかったけれど。2人でくっついている間は少なくとも忘れることはできたし幸福感はあった。
彼女は彼女で負い目を感じていたし私も大人になり切れていなかった。時間が足りなかった。心の隙間を埋めるのは互いの体温と時間だった。言葉はいらなかった。それしか心の埋め方を知らなかったから。離れてしまえば距離を感じてしまうから。距離感を保つなんてできなかった。
夜は長いようで短い。3人で朝を迎える。夜の間だけ彼女を独り占めにしていた。もっと独り占めしたかったけれど。それはなかなか難しい問題だった。この現実は受け入れなければならない。その事実を強く感じた。2人の、いや3人の未来を考えていくならばそれらから逃れることはできなかった。
日差しが眩しい。まだ彼女は寝ていた。彼女の寝顔をずっと見ていた。やはり綺麗だった。眠っている彼女を近くにずっと抱きしめていた。吐息が心地よかった。彼女しか見えなかった。彼女が目を覚ます。
「……おはよう。」
「もう起きてたの?早いね。恥ずかしい。」
「起きてた。寝顔見てたよ。」
「……やめてよ。恥ずかしい。」
「可愛かった。」
「ありがとう。」
そう言ってまた抱き合った。しばらくそうしていると息子君が目を覚ました。パッとお互いの体を離した。気持ちを切り替えて立ち上がる。電気をつけてカーテンを開けた。今日も快晴だった。良い日になったらいいな。心からそう思った。
「ご飯つくるね。」
「ゆっくりして待ってて!」
「何か手伝おうか?」
「いい。いい。ゆっくりしてて。」
「……わかった。」
「一緒に遊ぼっか?」
息子君に投げかけた。布団を片付けた後、一緒に遊んでいた。新幹線のおもちゃが好きらしくいたるところにおもちゃがあった。一緒に新幹線を走らせて遊んだ。よく笑う子だった。正直、遊び方がよくわからなかったが競争みたいなことをしてみた。ただ一緒に走らせるだけでいいらしい。喜んでくれた。
「できたよ。」
「運ぶね。」
「ありがとう。」
「手伝う。」
「ありがとう!」
「お皿と箸はこれね!」
「これは△△のね。」
彼女は朝から元気だった。無理して明るくしているのかもしれないと思ったが彼女の本心はわからない。ただ笑顔が可愛い人だったからそれを見るだけでよかった。息子君と一緒に過ごすのに不安はあったけれど今回のことで自信がついた気がしていた。明るい未来しか見えなかった。
3人で小さなテーブルに向かい合わせに座る。とても小さなテーブルで料理でいっぱいになった。幸せがそこに詰まっていた。小さいけれど確かにそこに存在している。小さな幸せが形になった瞬間だった。
「いただきます!」




