息子君
ーー〇×▽〇×▽
聞いたことのない声で目を覚ます。ふと横に目をやると彼女の息子がいた。こちらをじっと見ている。彼女を探すとキッチンで朝ごはんの準備をしてくれているようだった。美味しそうな味噌汁のにおいがした。
とりあえず息子君と二人で見つめあう。にっこり笑ってみた。反応がない。じっとこちらを見ている。あまり笑わない私が精いっぱいの笑顔をしてみた。まだ反応がない。変顔で笑わせようとしてみたら逆に後ずさりされてしまった。しまった。扱い方がまったくわからない。
幸い、自分のカバンが近くにあったので用意したおもちゃを渡してみることにした。
「はい。どうぞ。」
息子君はおもちゃに反応をした。興味があるみたいだ。トイザラスで買ってきた3歳用のおもちゃだ。何を買えばいいかわからなかったから。触ると音がなるタイプのおもちゃ。それを渡してみた。すると屈託のない笑顔を見せてくれた。可愛い笑顔をしていた。
「一緒にあそぼうか?」
やはり言葉を発してはくれない。けれど近寄ってきてくれた。少し警戒心を解いてくれたようだった。そうやって彼女がこちらに気が付くまで10分ぐらいだっただろうか。コミュニケーションを取ろうと試みていた私に彼女が気が付いた。こちらを見て彼女はこう言った。
「あ、おはよう□□くん!」
「△△も起きたのね。」
「おはよう。」
「〇×△□、〇×△□、まま。」
息子君は彼女の元に駆け寄っていった。3歳だからまだうまく話せないみたいだけど。単語で少し話せるようだった。彼女は優しい笑顔で息子を抱きかかえた。聖母マリアは言い過ぎだろうか。そんな光景だった。
「ごはんできたよ♪」
「ありがとう。」
「今、用意するね♪」
彼女はとてもご機嫌のようだ。鼻歌を歌っている。それから準備を手伝って一緒に朝ごはんを食べた。息子君もスプーンでゆっくりだけど食べていた。まだうまく食べれなかったりするけれど一人でも一応食べれるようだ。3人でニコニコしながらご飯を食べていた。
「ここから近いから海いこうよ。」
「いいね。」
「一緒に散歩しよう。江の島も見えるよ。」
「楽しみ!」
彼女の車で移動することになった。歩いていけなくもないが小さい子供がいるから車で行くことにした。途中、スラムダンクのOPで見たことのある踏切に来た。彼女も見ていたようで教えてくれた。海のにおいがさらに増していった。
後ろに目をやると息子君は寝ていた。どうやら小さい子供は車で移動すると寝てしまうらしい。他人の子供が愛らしくなったのはこれが初めてだった。それまではまったくそんな感情はもったことがなかった。不思議な感覚に身を任せていた。
「着いたよ。」
「ここが私の生まれ育ったところ。」
「綺麗なところだね。」
もうすでにサーファーが何人かいて波に乗っていた。サーフボード片手に歩いている人がちらほらいる。わんちゃんを連れて散歩してる人もいるし、老夫婦もいる。まったりとした時間が流れていた。
「少し歩こっか。」




