墓参
道の両脇には
ぼうぼうと
伸びきった雑草
雨は降ったり止んだりを
繰り返したから
傘を開いたり閉じたりしながら
迷路のような霊園を
記憶だけを頼りに
突き進んだ
雲の隙間から覗いた
白い太陽
濡れた墓の艶々とした灰色
ペットボトルの水は
花瓶へ半分ほど
魔法瓶に入れたお茶は
藍色の湯呑みへ注ぎ
ウィスキーは
硝子のコップへ
なみなみと
生きている私たちの
騒々しさが
御影石に ぶつかっては跳ね返り
上っていく線香の煙と
ぽとり落ちてゆく灰
目に見える時間が
あなたの不在と重なり
身体を悪くしてからは
量は飲めなくとも
最後まで好きだった
ウィスキーが
点として
そこにあり
私たちは
道しるべのように
それを置きつづけている
頭をたれ
手を合わせると
陽射しが首筋を
ヒリヒリと灼き
雨傘を日傘がわりにさしながら
灰が落ちきるまで
賑々しく 私たちは
あなたと私たちを語った
人気のない昼間
赤紫と白い菊の明るさ
ふと訪れた静寂に
小さな蝸牛が
墓をよじ登るのを
ただ じっと見つめる
再現された声の
透明な響きが
琥珀色のウィスキーに
混じり合い
減ることのないそれを
震わせるのは 風ばかり
不思議と帰り道は
決して迷わぬ霊園の細道を
蒸し暑さに汗ばみながら
黙々と進み
簡単に避けられる
小さな水たまりを
踏んだのは
今、私に どうしても
必要なこととして──