閑話 兄パーティー集合
風呂に行ったアユよりも先にUWWOへ再度ログインし、一緒にプレイする予定の奴らと合流するためにあらかじめ集合場所と決めていた場所に移動した。
「早いなファルキン」
時間的にはまだ集合時間より早いので他のメンバーはいないだろうと思っていたのだが、集合場所に指定していたウエストリアの町にある巨大な噴水が見えるカフェの前についたところで、後ろから聞き知った声が聞こえてきた。
「ん? ああ、エンカッセか。あんたも十分早いだろ。まだ集合時間じゃないぞ。っと、ここに居るってことはあいつと合流できたのか?」
俺がそう問うとRACE:ヒューマンのイケメンは首を横に振った。
エンカッセはここ数年、一緒にゲームで遊んでいる2つ年上の男だ。
こいつはVR格ゲーのアマプロとして現在活動しているので、この手のゲームの腕は確かだ。しかも現実での見た目が優男であり、VRの世界でも一切見た目を弄らず活動しているため、女性ファンがそこそこいたりする。
まあ、その見た目のせいで男のアンチが結構いたりするんだが。
「まだ合流はできなさそうだ。レアRACEを引いたらしくてな。ここに来るまで時間がかかりそうと言われた」
「ありゃ。そっちもそうなのか」
「そっちも、ということはあの子もそうなのか? 姿が見えないとは思っていたが」
「ぅおー、なんか場所が全く分からなくて、すぐに合流は無理って言われた。最低でも数日はかかりそうとか」
うちのメンバーの中にもレアRACEを引いて通常の初期地点とは違う場所スタートになった奴がいるようだ。しかし、話を聞けばアユとは違い初期地点の場所はある程度わかっているらしい。
この辺はRACEのレア度によって変わってくる感じなんだろうか。RACE名を教えてもらえなかったから、どのくらいのレア度なのか判断はできないが。
「なるほどな。ジュラに関しては後数時間。今日中には合流可能な場所だったらしいからそれまで俺は待機だな」
「そうかぁ。今日中には着くなら、ジュラが到着するまで外に行くんじゃなくて、街の中でも探索するか」
「いいのか? ジュラを待っているとその分攻略が遅れることになるが」
「俺は気にしないぞ。まあ、あいつらに聞いてから決めた方がいいか。つっても、あいつらもたぶん同じようなことを言うと思うけどな」
スタートダッシュを決めて誰よりも先に攻略していくのも、サービス開始直後から始めた時の醍醐味と言えるだろう。
ただ、事前のテストプレイに参加した時に感じたが、このゲームUWWOは先に攻略したプレイヤーが有利になるような要素はあまりないようだった。全くない、ということはないだろうが、少なくとも先に進めれば有利になる要素はそこまで大きいと感じなかった。
まあ、テストプレイの時の感覚だから、正式版としてリリースされた今と同じとは限らないが。
「そうか」
「パーティーを組んでプレイするならそれくらいはした方がいいだろ。まあ、ジュラはそういうのを気にせずLV上げながらここに向かってくるような気もするけどな」
「ははっ、確かに」
俺が言った光景がありありと頭に浮かんだのかエンカッセは笑みを漏らしそう言った。
「おや、2人とも早いですね」
エンカッセと話していると3人目。初老といった見た目のRACE:エルフの男がやって来た。
「ぎーんさんも早いでしょ。まだ時間まで結構ありますよ」
「あとはあいつだけか」
「ああ、あの子のことはすでに聞いているんですね」
「エンカッセ経由で今聞いたところ」
ぎーんさんは今話題に出ていたジュラこと、ジュラルミーんの保護者だ。父親ということらしいが本当かどうかはわからない。
あいつ、聞いている感じそこそこのお嬢様らしいからな。もしかしたら親ではないのかもしれない。詮索するつもりはないが。
「それとこっちも現段階では合流は無理みたいなんで」
「おや。一緒にプレイできるって楽しみにしていたのに残念でしたね」
「そうなんですよねぇ。まあ、無理して一緒にプレイはしてほしくはないからいいんですけど」
あれこれ予定していたんだがすべて水の泡。楽しんでプレイしてくれるならそれでいいんだけどさ。本来だったら、アユの人見知りを少しでも改善できるようにあれこれ補助していくつもりだったんだけど、合流できないなら致し方なし。
「あれ、みんな早いですね。もしかして私が最後だったり」
「まだあいつが来ていないから最後じゃないな」
パーティメンバーの6人の中で女性は2人。そのうち片方がジュラで、もう1人は今到着した白毛のネコミミアバターを使うプリネージャになる。
プリネージャはジュラとは異なり同い年でリアルでも面識がある友人だ。
「そうなんだ。…ファルキン君、何か落ち込んでいるようだけど、どうしたの?」
「いや、まあなぁ」
「うん? …妹さんがいないみたいだけど、それ関係?」
「いつも通り察しがよくて助かる」
実はプリネージャとはかなり長い付き合いになる。俺がゲームにはまる前、小学校のころからの仲だ。よく関わるようになったのは中学に入り、ゲームをするようになってからだが、仲間内では一番付き合いが長い。
「ジュラちゃんも遅れるって聞いたし、妹さんも同じ理由かな」
「本当に察しがいいなぁ」
「ファルキン君が落ち込む理由ってそこまでないし、他の人も気づくと思うよ」
そんなに気づかれやすいだろうか。
あれこれ思い出してみるが、どちらかと言えばプリネージャの勘が鋭いだけのような気がする。
「あれ、もしかしてもう全員来ている感じ? うーん、ジュラがまだ来ていないのか」
あれこれ過去の記憶を思い出していると、男アバターのプレイヤーが小走りで駆け寄って来た。
「いや、ジュラは遅れるから実質お前が最後だな」
「マジか。みんな来るの早いな。これでも最初につくかもしれんと思っていたんだが」
こいつが最後のパーティーメンバーの男だ。見た感じRACEはヒューマン。中肉中背で特徴がない見た目なのは他のゲームでも一緒だな。
それで他のメンバーはゲームで使うNAMEはほぼ固定だが、こいつは新しくゲームを始めるたびにコロコロ変えるタイプだ。今回のNAMEは……
「お前、マジでそのNAMEにしたのか」
「いいでしょこれ」
俺の指摘に自分の上に掲げられているNAMEを指さし、からからと笑う。
男の上に掲げられているNAMEは『ふともも』である。
「いや、それセクハラで訴えられないか?」
「大丈夫じゃない? 本当に駄目だと判断されるものだったら決める段階で止められているだろうし、嫌なら適当に短縮して呼べばいいんだよ。『とも』とか『もも』とか、さ」
そういう問題か? と思うがこの辺りの規制は厳しめになりつつあるので、このNAMEでアバターを作ることができたということは問題ないと判断されたということでもある。
「また変なNAMEにしたんですか」
こいつのNAMEを確認したプリネージャが呆れたといった感じで息をついた。
「呼んでもいいんだよ?」
「そのままはちょっと」
少し嫌そうな表情をしているプリネージャのことを見て、満足そうな笑みを浮かべているふとももに内心引く。
「私はあなたがそういう人だって理解しているから諦めているけど、知らない人にはこの話、振らない方がいいよ」
「さすがにそれはわかってる。BANされなくないし。本当に駄目そうなら非表示にするさ」
プリネージャの言葉にけらけらと笑いながら太ももはそう返事をした。
「全員集まったけど、これからどうする? ジュラが来るまで街の観光でもするかってエンカッセと話していたんだが」
ふとももとの話に切りがついたので、エンカッセ以外の3人に問いかける。ぎーんさんはすでにエンカッセから聞いていた様子だが、他の2人はどうするのか。どちらかが嫌だと言えば当初の予定通り街を出てLV上げに向かうことになるが。
「私はそれでもいいよ。みんな一緒にスタートしたいし、いいんじゃないかな」
「俺もどっちでも構わんよ」
「ふむ。なら、のんびり街の中を見て回ることにしようか」
2人の返事を聞いてエンカッセが全員に聞こえるように声を出した。
そうして俺たちは遅れてくるジュラルミーんが来るまで、街の中を見て回ることにした。
ファルキン(兄)は感情が顔に出やすい人です。
口に出さないだけで、周囲でも気づいている人物は結構います。