第5話 情報交換
専用委託に短剣を流した後、兄たちと情報交換をすることになった。
まあ、情報交換と言うか、私が気になっていたことを聞いた結果、それに似た状況になっただけなのだけど。
「聞いて来た。マジだった」
「そうか」
見習いが1次JOBではないことを知っているかを聞いたのだけど、今のやり取りを聞けばわかる通り知らなかったらしい。たぶん私と同じようにWIKIなり、掲示板なりを覗いている内に、見習いJOBは1次JOBと言う間違った認識になってしまったのだと思う。
「そう言えばこう言う細かい所は調べていなかったわね。情報を纏めているプレイヤーも今は攻略情報とかスキルが主みたいだから、詳しく調べる余裕がなかっただけかもしれないけれど」
「ああ、まあ、そうな。それに間違っていたとしても別に不都合がある訳でもないし」
それもそうだけど、気になる人は気になるものだと思う。特に情報とかを纏めたり検証したりしている人たちは、気にすると思うのだけど。
「錬金の方も聞いたことは無いなぁ。今、生産系の掲示板覗いてみたけどそれっぽい書き込みもないし。さっきの武器の方も同様だね」
「そうだな。ただ、素材の方は前に1度だけやたらQuが高い素材が委託に流れているのを見たことがあるから、それかもしれないな」
錬金の方も情報はないのか。武器とか防具のQuを上げるのに使えるはずなのだけど、誰も試していないのかな。いや、委託に流れていたらしいから、知っている人が秘匿しているのかも。
「そもそも【錬金】って、あまり人気が無いと言うか、メインでやっている人が少ないんだよな。その所為であまり情報が出てこないのもあるだろうし」
「ポーション以外に作れる物があまりなかったから、それなら簡単でMPを使わない【調合】でポーションを作っていた奴が大半だったからな。俺もそうだし」
「今の話を聞いたらやるやつは結構出てきそうだけどな」
「それは否定できない」
【錬金】って人気ないのか。確かに作る時の手間と言うか、面倒なことはあるけれど【調合】よりも作れる物の幅が広いのだけどね。まあ、【調合】の方がポーションを作る分には楽なのは確かだけど、どっちも一長一短と言うことかな。
「そう言えば、アユ」
「なに?」
「さっきの光は何だ? 何か割とダメージ受けたんだけど」
「錬金のたぶん熟練度不足で出る光。魔力の暴走とか、そんな感じだと思うけど、ダメージ受けたの?」
何か悲鳴を上げていたからあの光を直接見たのは理解していたのだけど、ダメージがあったのか。10メートルくらい離れていたはずなのに、ダメージを受ける範囲内だったのか。もしかして、他のプレイヤーが来たら問題が出るかもしれない?
「よくわからないけどHPが2割近く減った」
「2割?」
あれ? 私は1割もダメージ入っていないのだけど。そう言えば、最初に水筒を作った時に比べてダメージが減ったような。熟練度が上がっただけにしては、ダメージの減りが大きい気がする。もしかして【錬金】だからMP依存のダメージ? とすればMNDによって受けるダメージが変わるのかな。
「ん? 何か変なところでもあったか?」
「私は1割もダメージなかったから、MP依存のダメージなのかなと思っただけ」
「MP依存ってことは、MNDでダメージ変わるのか。アユのMNDっていくつだ?」
「…何故?」
「え、何故って、何となく知りたくなっただけなのだけど」
ステータスとかアバターについてあまり知られたくないのだよね。
イベント前に兄から掲示板で私のLVをミスで漏らしてしまったと謝罪してもらっているけど、今度も同じようなことが起きるかもしれないし。知らなければ漏らすこともないからね。
まあ、LVとかステータスの情報が漏れたところで私のことがバレる可能性はそこまで高くは無いから、神経質になるほどではないと思うけど。前科がねぇ。前のゲームとかではここまで情報を漏らすようなこともなかったのだけど、どうしてここだと口が軽くなったのか。
……うーん。情報を漏らしているの掲示板だけみたいだし、それが原因だったり?
そういえば私も最初にゴフテスに負けた後、掲示板で誤入力してしまったからそれと同じ感じかも? おそらくUWWOの掲示板って思考入力の誤作動が多いタイプなのかもしれない。
掲示板のシステムにもいくつか存在しているから思考入力で誤作動を起こしやすい物を使っているのかもしれない。
「ごめんなさい」
私が兄に対してあまり情報を教えたくない理由に気付いたのか突然謝罪して来た。もう過ぎたことだし謝罪もしてもらっているからいいのだけど。反省もしているみたいだし。
「アユちゃんから情報を貰ってばかりだし、何か聞きたいことはあるか?」
このままでは話が進まないと判断したのか、エンカッセがそう私に問いかけて来た。
聞きたいこと今パッと思いつくのはないのだけど。うーん。
「……特には……あ、インベントリ」
「インベントリ?」
「枠が足りない」
50枠もあるのに既にかつかつ。しかもギルド倉庫も危ない。ギルドのランクで預けられる量は変わるらしいけど、現在は100枠。そして、その内の7割は既に埋まっている。そんなにアイテムの種類があるのか、と思うかもしれないけれどそうではない。アイテムはQuが違うと重ねることが出来ない。そのため同じアイテムでも数枠場所を取っている物が多い。
このままでは新しいアイテムを手に入れた時に何かを放棄する必要が出てきてしまう。一時的に委託に置いておくという方法も無い訳ではないけど、売れてしまう可能性もあるからね。なるべくこれはしたくない。
ただ、【錬金】でQuを弄ることが出来るのがわかったから多少は改善するとは思うけど、それはギルド倉庫だけだ。
インベントリには戦闘中や採取中に入れることになるのだから、Quを弄ってから入れる何てことは出来ない。だからインベントリの枠を増やしたいのだけど。
「ああ、枠を増やしたいのか」
「うん」
イベントがあったから掲示板とかWIKIで調べるのを後回しにしていたのだよね。あれば書き込まれているだろうけれど、見ていないからその辺りはよくわからない。
「パーティーだとアイテムは分担して持てるからいいが、ソロでやっているとその辺は問題になるか。ただ、インベントリ関係の情報はあんまりないな。拡張出来るって話も聞いたことも無い。おそらくLVキャップ開放かギルドランクを一定以上に上げれば増えるんじゃないかって話は出ているけどな。それも確定ではないが」
「そう」
まだ、出ていないのか。ギルドランクのやつはギルド倉庫がそれに該当するから違うと思うけど、LVキャップの方は在り得るかもしれない。
それと、もしかしたら私みたいにインベントリの枠がギリギリってプレイヤーはそんなにいないのかも。特に戦闘職とかは採集とかは積極的にしないらしいから、まだ気にするほどの問題でもないのかもしれない。
「ただ、採集をメインでやっている奴らは、インベントリの中に鞄とかの複数アイテムを入れられるアイテムを使って疑似的に枠を増やしているらしい。まあ、それはあくまで応急処置と言うかその場しのぎみたいなものだからなぁ」
鞄で疑似的に枠を増やすのか。確かに鞄とかはインベントリみたいに同じアイテムを重ねられないけれど、数が少ないアイテムとかには有効かもしれない。5個しか入らない鞄でも一個しか持っていないアイテムを5種類入れれば、鞄の1枠を使うだけで4枠は空くことになるし。
「なるほど」
「あんまり力になれなくてすまんな」
「いい。参考にはなった」
「そうならいいが」
とりあえず鞄は先に買っておこう。それに圧縮袋みたいに【錬金】で合成して容量を増やせば行けると思う。袋の方は1種類だけだったけれど、鞄なら複数の種類は入れられるはず。たぶん難易度は今までの中で最も高いと思うけれど、やれないことは無いはずだ。
何か、希望的観測が多いから失敗するような気がするけれど、やってみないとわからないよね?
思考入力の出来る掲示板システムはいくつか存在するものの、どれも発展途上。誤入力や誤動作がちらほら報告されている状況。
UWWOで採用されている掲示板システムは比較的誤作動が少ないタイプではあるものの、特定の人と相性がやや悪いもの。思考入力をオフにすれば普通に使うことが出来る。