第3話 世界の不思議
さて確認も終わったし、いつまでも棺桶に入っているのもおかしいので棺桶から出よう。
立ち上がって棺桶から出る。周囲を確認すると私がいるのはどこかの建物の一室らしい。広さは6畳くらいで、石積みの壁だ。とりあえず周囲の物を鑑定してみる。
「鑑定」
[(アイテム)吸血鬼の古い棺桶 Ra:Ex Qu:F ]
長いこと掃除をしていなかったのか、使われていなかったのか大分汚れている棺桶。しかし、この棺桶の蓋は最近あけられたようだ。誰が開けたのだろうか。
[(オブジェクト)石積みの壁(一部破損) Ra:C Qu:F ]
石を積み上げて作られた建物の壁。経年劣化か他の原因があるのか一部が崩れてしまっており、壁としての役割はあまり果たせていない。
[(オブジェクト)木組みの天井 Ra:C Qu:F ]
木材で組まれた天井。多くは上の階の床と兼用している。経年劣化による傷みが見受けられるが直ぐに落ちてくる程劣化はしていないようだ。
[(アイテム)木蝋のろうそく(劣化) Ra:C Qu:F Du:47/100]
木蝋で作られたろうそく。半分以上使われているがまだ使うことが出来そうだ。ただし、劣化しているため、火をつけても本来の明るさにはならない。
効果:火を付けることで一定の範囲を照らすことが出来る。火を点けると60秒ごとに耐久値が1減少する。
[(アイテム)ろうそくランタン(破損) Ra:C Qu:G Du:0/100]
中にろうそくを入れて使用するランタン。残念ながらろうそくの火を守るためのガラスが破損しているため、本来の機能は果たすことはできない。修理すれば使えるようになるかもしれない。
周囲には他に鑑定できるようなものはないようだ。まだ使えそうなろうそくはアイテムボッ……じゃなかった、インベントリにしまう。どうやらUWWOのインベントリは際限なくアイテムを入れられる仕様にはなっていない。耐久値のないアイテムなら同じ物を何個でも1枠でしまっておけるみたいだけど、今のところそこまでアイテムを集める予定はない。インベントリの初期枠で50枠もあるから、さすがにチュートリアルを受ける前に埋まることはないだろう。
それより鑑定で出たウィンドウの下にある知識ってなんだろう。とりあえず開いてみる。
なるほど、鑑定とかで知ったことがカテゴリ別に知識として登録されて、後になっても確認できると。便利は便利だけど、今はあんまりかな。
そうだ、ついでにランタンも持っていこう。説明文を読む限り、修理したら使えそうだ。まあ、じゃまになったら捨てるけど。
ん? そういえばインベントリってこの世界的にはどういう扱いなのだろう。NPCとかも使っていたりするのかな。鑑定できないだろうけどって……できた、だと?
[インベントリ Ra:Ex Qu:- Du:-/-]
異邦者だけが持つ不思議な袋。際限なく物が入る訳ではないが、重量を無視し袋のサイズよりも明らかに多くの物を入れることが出来る。また、入れた物の劣化を防ぐ力もある。アーウェルスの世界の不思議の一つ。
NPCは持っていないのか。いや、持ってない方がいいかもしれない。戦争とかで悪用できそうだし、危ない。プレイヤーにも言えることだけど。
そんなことを考えながら鑑定で出たウィンドウを閉じると同時に、ピコンという音と共に何故かウィンドウが目の前に現れた。
「え、何いきなり」
『アナウンス
アーウェルスの世界の不思議の一つを初めて発見しました。それに伴い知識に世界の不思議のカテゴリが増えたことをお知らせします。
アナウンス
アーウェルスの世界の不思議の一つを全プレイヤーの中で初めて発見しました。それにより、称号:【世界の不思議を初めて発見した者】を獲得しました。
【世界の不思議を初めて発見した者】
初めて世界の不思議を発見した者に贈られる称号。特別な効果はないけれど、誰よりも早く見つけてくれた感謝を込めて運営から贈られる記念称号
貴方がこれを見つけたのは偶然か必然か。貴方の行動に感謝を込めて、ありがとう。
獲得方法:全プレイヤー中で初めて世界の不思議を発見する。』
おお、いきなり音が鳴った時は驚いたけど、何か称号を貰ったぞ。運営のお遊び的な物なのか記念称号らしいし、特別な効果がある訳でもないようだけど、少しうれしい。
インベントリを鑑定して不思議カテゴリが生えたってことは、別の何かにも同じようなのがあるのでは? ということで鑑定しなくても攻撃力とかは見られるけど確認のために装備品を鑑定してみる。
[(武器)初心者のナイフ Ra:C Qu:F Du:-/-]
初心者用のナイフ。基本的にサブ武器として利用する。どのような作り方をしているのかはわからないが、武器攻撃力を最小にする代わりに耐久力が減少しないようになっている。普通の鉄で作られているのに壊れることがない不思議な武器。アーウェルスの世界の不思議の一つ。売買不可。STR+1
[(防具)初心者の服 Ra:C Qu:F Du:-/-]
プレイヤーが最初に着ている普通の服。別の装備を装着しない限り脱ぐことはできない。どのような作り方をしているのかはわからないが、防具としての機能を最小にする代わりに耐久力が減少しないようになっている。普通の布で作られているのに破れることのない不思議な服。アーウェルスの世界の不思議の一つ。売買不可。VIT+2
他の装備も同じようなフレーバーテキストで、初心者の靴は不思議な靴となっていた。
知識にある、世界の不思議カテゴリの発見数が1個から4個に増えている。どうやら世界の不思議は複数あるようだ。
確認はここまでにしてこの部屋から出よう。ゲームのストーリーが進まない。
さっそく私は部屋から出るために、部屋の出入り口に向かった。部屋を出るとそこは廊下になっており、廊下の長さからこの建物が思いの外大きかったことを知った。今までいた部屋の出入り口から廊下は左右に伸びている。
左側はそのまま20メートル程先の突き当りまで続いていたようだが、建物の一部が倒壊したからなのか上の階が崩れ落ちていて先に進めそうにない。右は10メートル程廊下が続き、その先に外の景色が広がっている。しかし、元からそうだったのではなく10メートルより向こう側の建物が綺麗に崩壊しているため、そのような形になっているようだ。それと正面も部屋になっていたようだが壁が崩れて出入り口が完全に塞がれてしまっている。
まあ、外に出たいのだから右に進む。もしかしたら左側の瓦礫の中に何かアイテムがあるかもしれないが、今は時間をかけてまで探したいとは思わない。
外に出た。まぶしい。今まで薄暗い室内にいたから余計にまぶしく感じるのだろう。外のまぶしさに慣れてきたところで周囲を確認する。
見る限り近くにモンスターとかはいない―、ってなに!? いきなり視界が赤く点滅し始めたんだけど!?
私は急いで先ほど設定して視界の端に出しておいた自身のHPを確認する。
「え!? 残りHP8って何で。ああっ」
私は忘れていたのだ。ヴァンパイアの初期スキルに日光脆弱というスキルがあったことを。
そのスキルは日中、日差しに当たり続けると1秒当たり最大HPの1%分のダメージを受けるデメリットスキルである。
【日光脆弱】
太陽の日差しを受けることで総HP量に依存するダメージが発生するデメリットスキル。ダメージ量は熟練度により変動する。また、光系統の攻撃のダメージ量が増加し、光系統の回復行動はダメージが反転する。
[熟練度100% 太陽光ダメージ(1%/1s) 光系統ダメージ+300%]
そうしてパニックになってあたふたしている内にHPは0になり、私は地面に倒れこんだ。
『HPが全損したため、当アバターは死亡しました。周囲に蘇生が可能なプレイヤーがいないため、蘇生待機時間を短縮します。最も新しいリスポーン地点に転送します』
そうして私は外に出て2分もしないうちに棺桶に出戻ることになった。おうふ。