第5話 砂漠の洗礼
足場が悪い。歩き難い。
砂の積もった地面の上を歩いて最初にそう思った。リアルで砂漠に行ったことはないけれど、砂浜とは違った歩き難さがある。
砂浜はまだ海が近いぶん水分を含んでいて多少踏みしめやすいけど、ここの砂は乾燥しきっていて踏むたびに足が微妙に滑る。
「何か専用の装備を作った方がいいのかなこれ」
ウエストリアの先と違って情報がなかなか流れてこないなって思っていたけど、もしかしてこれが原因かも。ソロ討伐自体は初だったみたいだけど、パーティ討伐は結構達成しているところがあるらしいから、全く情報が出てこないってことはないはずなのだ。
ここまで到達したプレイヤーは、このエリアの探索の面倒さとイベント前ということもあり、このエリアの探索に時間をかけるくらいならLv上げや装備の強化を優先したのかもしれない。
砂の舞うエリアの先を見つめる。
視界は砂は舞っているけれどそこまで悪いわけではない。そこそこ遠くまで見ることはできるのだ。ただ、その見える先もずっと砂漠と荒野が続いており、同じ光景ばかり視界に映っている。
「ゴーグルも欲しいかも」
舞っている砂の量はそこまで多くないのだが、風が結構強い。それに風に乗った砂が防具を付けていない顔に当たる。
目に砂が入ってダメージを食らうみたいなことが起こるかはわからないけど、少なくとも現状すでに目を開いているのが少し辛い。
一旦戻って装備を作ってからまた探索しに戻ってくるでもいいかな。
いや、でも。流れでここまで来ているだけで一回戻ったら次に来るのはイベントの後になりそうなのだよね。
装備も新調しきっていないし、人工血液もちゃんと作らないといけない。るみさんの依頼も素材は今日中に届きそうな予感があるし、帰ったらしばらくはこられないよね。
このまま戻ったらしばらく来れそうにないし、もうちょっとだけ探索をしていこう。
なるべく足場のしっかりしている砂漠化していない荒野部分を歩いてフィールドを探索する。
エネミーらしき影は見当たらないけど、【感知】スキルで周囲を探るといくつか動く影を見つけることが出来た。
【感知】スキルで表示されるマップでは平面的な位置しかわからないけれど、少なくとも周辺にエネミーの姿が見えないということは、その内のほとんどは地面の下。砂漠の砂の中に居るということになる。
おそらく、他のゲームの砂漠エリアでも見かけるサンド○○みたいなエネミーなのだろう。しっかり敵対エネミーがいることは把握できたが視認できない相手なので、不意打ちされないように定期的に【感知】を使って警戒しながら探索していく。
このエリアにダイアモンドが採掘できる場所があるらしいけど、どこを見てもそれらしき場所は見えてこない。住民が居た形跡もないし、本当にここにあるのだろうか。
住民のアフィアラが知っていたのだから何かしら坑道みたいに整備された場所があると思っていたのだけど、もしかして洞窟とか断崖の一部に採掘ポイントがあったりするのだろうか。
もしかして自ら地面を掘って地下に行かないと採掘できないってことはないよね?
「時間のある時にもう一度来た方がいいかな」
歩いても歩いても代り映えのしない景色にそう独り言ちる。
せめて安全にログアウトできそうなセーフティエリアがあればログアウトの時間まで探索できるのだけど、そういうものはなさそうなのだよね。
見渡す限り砂漠と荒野だし、採掘できそうな場所どころか休憩できそうな場所も見当たらない。
このエリアも廃村みたいに何か作らないといけないとか、さすがにそんなことはないよね。
少なくとも今回は廃村の時みたいにもともと何かがあったような場所は見つからなかったし、建物が建てられそうな場所もないからそういうのはないはず。
「帰るか」
結構探索していたので、このエリアの入り口である坑道の出口から結構離れてしまっている。さすがに帰る時間を考慮するならこれ以上の探索は難しいと判断して、とりあえず今回は帰ることにした。
来た道を戻っていく。来た時よりは多少歩き慣れてきていたので、行きよりも少し早い速度で砂の上を歩いていく。
黙々と歩いて坑道に向かっているけど、本当に移動が面倒なエリアだ。慣れてきたと言ってもまだ歩き難いし、走って移動するのは多分無理かな。まったくできないというわけではないけど、何かあったときにすぐ止まることが出来ないから避けるべきだと思う。
「うん? おっと」
ずっと使い続けていた【感知】スキルの索敵範囲に1体、こちらに向かって進んでいる影があることに気づいた。
動きからして私をターゲットにしているのは明白だったので、すぐ戦えるように身構える。
このエリアに入ってから初めてエネミーとの戦闘になる。この付近に生息しているエネミーのLvがどのくらいなのかを知るためにも、ここはしっかり戦っておきたい。
【感知】で把握している点がどんどん近づいてくる。そして私の前まで到達したと思ったところで、その点で表示されていたエネミーは地面の中から出てくることなくそのまま私の下を通過。
「むっ」
移動の勢いのまま地上に出てきて攻撃を仕掛けてくると想定していたため、少し肩透かしを食らう。しかし、間違いなく私に向かってきてそのままいなくなるということはないだろう。
すぐその点が通過していった方へ向きなおす。その瞬間、数メートル先の砂の中から周囲の砂を巻き散らしながら大きなヘビのようなエネミーがこちらに向かって飛び掛かって来た。
その攻撃を避けようと横へ飛び退こうとするが砂漠の砂の影響で思ったように回避することが出来なかった。幸いすぐに気づいて早めに反応出来たため攻撃を食らうことはなかったが、また同じように攻撃されたら上手く回避できるかはわからない。
「足場が本当に厄介だね」
そう言いながら私の横を通過していったエネミーを探すが、すでにその姿はどこにも見当たらなかった。
【感知】で周囲を探ると私の周囲を1つの点が動きまわっているのが分かったので、いなくなったわけではなくまた同じように攻撃をするために砂の中に潜ったということなのだろう。
「すごく面倒」
このままでは一方的に攻撃され続けることになる。
少なくとも、もう少し足場がしっかりした場所まで行かなければまともに戦うこともできないから、次の攻撃をされる前に少しでも足場がしっかりしている場所まで移動した方がいいよね。
そう判断して砂の下からの攻撃を警戒しながら周囲を見渡し、一番近い砂漠化していない地面の場所を確認してすぐそこに向かって移動することにした。




