第37話 今日初めてあった人(師匠)と2人きりにされるのは精神的にきつい
錬金窯の中に残った物を取り出す。
『アナウンス
魔鉄鉱石の製錬方法のレシピを手に入れました』
魔鉄を手にしたことで頭の中にアナウンスが響いた。
そういえば魔鉄鉱石はまだ鉱石だから、魔鉄として使えるようにするレシピも必要だったね。それも聞きたい情報だったから、その手間がこれで省けたってことだよね。
[(素材)魔鉄 Ra:Ep Qu:D SAS:4000]
人工的に作られた魔力を含んだ特殊な鉄。加工難易度は高いが魔力を帯びた武器や防具の材料として使われる。
【鑑定】してみたけど説明文すごく短い。それに説明文の中に人工的に作られたってあるね。これって私が採掘した魔鉄鉱石から魔鉄を製錬したら、[人工的に作られた]の部分はなくなるのかな。
ああ、それにやっぱりQuは落ちちゃったか。渡された鉄と魔石はどちらもQu:Cだったのだけど、初めて作るものだし、道具も初めて使う物だったからQuが下がるのは仕方ないと言えば仕方ないけど。
最近は【錬金術】スキルの熟練度も上がって、使った素材のQu未満のアイテムを出していなかったから少しショックだ。
「できた魔鉄の確認させてもらっていいか」
「あ、はい」
魔鉄の生成中、横で作業を確認していたアフィアラがそう聞いてきたので、出来上がった魔鉄を渡す。
試験としてやっているので、試験を課したアフィアラが出来上がった魔鉄を確認するのは当然のことなんだけど、Quが下がってしまっているからなんと言われるか、少し不安になる。
「ふむ、まあ初めて作ったにしては悪くない」
「そう…ですか」
評価としては最高って感じではなさそう。それにアフィアラの表情もまあこれくらいだろうって感じで、可もなく不可もなくといった様子。
「錬金窯を使うのも今回が初めてと考えれば十分な質だろう」
「そうですよー。状況は違いますがー、私が最初に作ったときはそもそも成功しませんでしたからー」
Quが落ちてしまったことで落ち込んでいたのと、アフィアラの反応の微妙さから不安になっていたのが顔に出ていたのか、レミレンが励ますようにそう言ってくれた。
「これで試験は終了でいいですかー?」
「ああ。アユ、今日からお前は私の弟子だ」
この言葉を聞いて本当にほっとした。
ほぼ間違いなく弟子入りできると言われていても、それが本当かどうかの確証はない状態だったから、アフィアラ本人の口から弟子入りを認めると言われて心底安心した。
「ありがとうございます。これからよろしくお願いします」
そう言って私は頭を下げた。
「ああ、よろしく。そうだ、これはお前が持っていろ」
頭を上げたところで、試験で作った魔鉄を返された。
これを作る時に使った素材はこの工房の物だったのだけどいいのかな。ああ、いや。これ単純にQuが低いから要らないってことなのかも。
「試験は終えたがそれだけではなんだ、このまま魔鉄の使い方を教えておこうか」
「いいんですか?」
そもそも紹介してもらったとはいえ押しかけに近い形での弟子入りだったし、レミレンもギルドの作業の合間にここに案内してくれたから、成功失敗はともかく弟子入りの話が終わったら解散だと思っていたのだけどな。
まあ、再度ここに来てレシピを教えてもらうのは面倒だから助かるのだけどね。こんな感じですぐに新しいレシピを教えてもらえるとは思っていなかった。
「私も常にここに居るわけではないからな。出来るときにしておいた方がいいだろう。それに今回来たのはこれの使い方を聞きたかったのだろう?」
「あ、はい。そうです」
「なら今から教えるが大丈夫か」
「よろしくお願いします」
何か結構強引に話を進められているのだけど、今後もこんな感じの流れでレシピを教えてくれるのだろうか。ガルスの場合はやるかやらないか、しっかり聞いてくれていたけど、あれってかなり優しい対応だったのかもしれない。
それに何かここで断ったら二度と教えてくれなさそうな雰囲気もあるのだよね。なんだか『この前断ったのだからこのレシピはお前には必要ないのだろう?』とか言われそう。
実際に断ったらどうなるかわからないし、そんなことはないのかもしれないけども。
「よろしい。なら使い方を説明していくがアユ。お前の現在のスキル熟練度では少し難しいレシピになる。それと、魔鉄以外にも必要となる素材がいくつかあるから、それの作り方も覚えるように」
「はい」
そう言うとアフィアラは先ほどレミレンが素材を取りに行った工房の奥へ入っていった。
「アユさんー、頑張ってくださいねー」
「え?」
このタイミングでそんなことを言われるとすごく不安になるのだけど、何を頑張れと? もしかして教え方が難しいとか、いやでも、さっき魔鉄の作り方を教えてもらった時は少し感覚的な説明はあったけど問題なかったよね?
「師匠ー。私はギルドの方に戻るのでー、あとはよろしくですー」
「ああ、気を付けて行くんだぞ」
「はいー」
ちょっと待って。え、嘘でしょ?
ギルドに戻るって、いや確かにレミレンはもともと作業の合間に私をここに案内してくれたから、ギルドに戻らないといけないのは理解できるけど、このタイミングで?
あの、弟子入りさせてくれたとはいえ、今さっき会ったばかりの人と2人きりで作業するの人見知りの私には結構きついのだけど。
しかし、行かないで、とレミレンを呼び留められるはずもなく、私はレミレンが工房から出ていくのを静かに見送ることしかできなかった。