第36話 弟子入り試験
まだ弟子入りできたわけではないけど、とりあえず弟子入りの話が流れていないことに安堵していると、レミレンがアフィアラの元へ近づいていった。
「師匠ー。アユさんの弟子入りの話、考えるってことですけどー、どうするんですー?」
「ああ、そうだな。考える余地があると言ったが、アユ、お前がこの工房へ弟子入りすることは構わない。事後報告で申し訳ないが、先ほどお前のことを調べてステータスも確認済みだ。JOBの熟練度は少々不足していたが【錬金】スキルの熟練度は条件を満たしていたし、他のスキルについても問題ない」
知らないうちに私のステータスが調べられていたようだ。
プレイヤー住民問わず他者から【鑑定】なり【看破】を使われると違和感を覚えるのだけど、ステータスを見られていたのを一切感じ取ることが出来なかった。
JOBの方はなるべく熟練度を上げようと頑張ってたから今は錬金師の95%まで行っていて、そろそろ上位の錬金術師になれそうなのだ。多分、その後少しが少々不足ってことなのだろうね。
「それじゃあー、このまま弟子入りってことでいいですー?」
「そう…だな。スキルの方は申し分ないし、軽く話した程度ではあるが人間性も大丈夫だろう。が、このまま弟子にするのは今後のことを考えればよくないか」
ありゃ。このまま弟子入りって流れかと思っていたのだけど、どうやらそうはいかないらしい。まあ、アフィアラの言葉からしてどうあっても弟子入りはさせてくれるみたいだけども。
「とりあえず、適当な試験をしてそれで弟子入りとするか」
「試験…ですか?」
これって、話の流れ的にはどんな結果でも弟子入りできそうな感じだけど、油断して手抜きしたり雑に試験を受けるとやっぱり駄目ってなる奴じゃ?
「ああ。さて、試験内容はどうするか。アユ、ここに来る途中に1人では限界を感じたと言っていたが、それはどうしてだ?」
「えっと、新しく見つけた素材の使い方が分からなくて、自分で調べるにしてもどこに情報があるかもわからないってことが増えてきていて」
ここに連れてきてもらう前、レミレンに会いにギルドに向かう途中に掲示板やWIKIを軽く調べたのだけど、魔鉄に関する情報どころか魔鉄って文字自体一切なかったのだよね。
オーレスワイバーンに関してはガルスに聞いたら教えてもらえたけど、魔鉄鉱石みたいなガルスが教えられる範囲外は本当にどこで調べればいいかわからないのが現状なのだ。
「その使い方が分からない素材はどんなものだ?」
「これです」
インベントリから魔鉄鉱石を取り出しアフィアラの前に差し出す。それを見て、アフィアラは納得したように小さく頷いた。
「ああ、魔鉄か。天然ものとはよく見つけたな。こいつは委託では流れない素材だから、この辺りではなかなか手に入るものではないぞ。それにこいつの扱いについてはあまり表に出ていない故、調べても簡単には見つからないだろうな」
ガルスも言っていたけど本当に珍しい素材なんだね。この辺りではというのが気になるけど、やっぱり先のエリアに進めば普通に手に入る素材ってことなのかな。
「ふむ、ならこれを人工的に作ることを試験とするか」
「それじゃあー、私はその準備をしてきますねー」
「ああ、よろしく」
アフィアラの言葉を聞いてすぐにレミレンが工房の奥へ消えていった。淀みのないその動きから、いつも同じような感じでレミレンはアフィアラの手伝いをしていることが窺えた。
とんとん拍子で試験の内容が決まったけど、さすがに作り方は教えてくれるのだよね?
「人工魔鉄を作るにはこの道具を使う。こっちに来なさい」
「はい」
アフィアラの後について工房の奥へと移動する。そしてアフィアラが示した道具のところまで来たところで、その道具が錬金窯であることに気づいた。
この錬金窯、ハウスに置いてあった物と同じだけど、見つけた時鑑定したら使用条件を満たしていないって表示されたのだよね。もしかして、そのせいで試験を受けられないとか、いや、まさか……ね?
「この錬金窯を使い鉄と魔石を混ぜ合わせ人工的に魔鉄を作るわけだが、どうした」
「あ、えっと」
不安なところが顔に出ていたのかそれに気づいたアフィアラが説明を中断して私の顔を軽く覗き込んできた。
「前に使おうとした時に使用条件を満たしていないって出たので、もしかしたら使えないかもしれなくて」
「ああ、それでその表情か。ここ以外で錬金窯に触れたことがあるのが驚きだが、使用条件は錬金窯を利用したレシピを知っているか否かだ。ここで私が魔鉄の生成方法を教えれば使えるようになるさ」
ああ、そういう事か。使用条件って出てきたからスキルのランクが足りていないのか、JOBの熟練度が足りていないのかって想像していたのだけど、レシピを知らないからって割と単純な理由だったのだね。
「それならよかったです」
「では説明の続きだが、この錬金窯は錬金板や錬金台の使い方とそれほど変わらん。ただ、他の機材に比べ繊細な制御が必要になることが多いからそこは気を付けるように」
「わかりました」
アフィアラは私が安堵したことを確認した後、試験の説明を再開した。
「使用する素材を持ってきましたー」
説明があらかた終わったところで、レミレンがタイミングを見計らったように人工魔鉄の生成に使う素材を持ってきた。
「ああ、ありがとう」
「ありがとうございます」
レミレンは素材を錬金窯の近くの作業台に置くと、邪魔にならないようにかさっと離れていった。
「それじゃあ、説明した通り魔石を錬金窯に入れて一度液状に変化させてみろ」
「はい」
レミレンが持ってきた魔石(小)を2つ錬金窯へ投入し、錬金窯に魔力を注いでいく。
次第に魔石が固体から液体へ変わっていき、完全に液状になるまでゆっくり魔力を注ぎ続けた。
「うむ。液化はしっかりできているな。後はここに鉄を投入して、この液状になった魔石と同化させていくわけだが、魔力の方は大丈夫か?」
「まだ大丈夫です」
ちらっと視界の端に表示されているMPバーを確認し、まだ問題ないことを確認して返事をする。
「なら鉄を錬金窯へ入れなさい」
アフィアラの指示に従って錬金窯の中に鉄を投入する。
鉄を錬金窯へ入れるときも魔力を注ぐのを止めてはいけないと言われていたので、魔力を途切れさせないようかなり集中して作業を進める。
今まで魔力を注ぎながら別の作業をしたことがなかったので本当に難しく感じる。
あっさりじゃあ作ろうかみたいなノリで言われたから、そこまで難しくないのかなって思っていたのだけど、慣れていないとかなり神経使うよこの作業。
「悪くない。後は鉄と魔石の魔力を混ぜていく。そうだ」
「ふっ」
錬金窯に溜まっていた魔石だった液体が徐々に量を減らしていく。
これアフィアラは混ぜるって言っているけど、私の感覚だとしみ込ませるのが一番近い感覚だと思う。別に錬金窯に入れた鉄は溶けていないわけだし。
まあ、この辺りは個人の感覚なのだろうけども。
そうして錬金窯に溜まっていた液体が完全になくなり、中に鉄だったものだけが残っている状態になった。