第34話 あれ?
レミレンが工房と言っていた一軒家の中に入って数分。目の前にある一軒家のサイズからして家中探して出てこれるくらいの時間が経過しているが、レミレンが未だ中から出てくる気配はない。
周囲に人がいないところで一人外で待っているのはちょっと落ち着かないけど、なかなか戻ってこないこと考えれば居たってことなのかな? 居なかったらすぐに出てくるだろうし。実は家の中が見た目以上に広くて探すのに時間がかかっているとかの可能性もあるけど。
さらに数分待ったところでようやくレミレンが中から出てきた。しかし、そこに他の人物の姿はなく、さらにレミレンはなぜか私のもとには来ず一軒家のドアのところに留まっている。
「あのー」
なぜか工房と言っていた一軒家のドアの近くから動かないレミレンは何か言い難そうに口を開いた。
何かあったのだろうかと首を傾げているとレミレンは周囲を確認するように視線を動かすとこちらに向かって手招きをしてきた。
それに従ってレミレンに近づく。
「一応会ってはくれるそうです。ただ、師匠は異邦人に会うのはあまり好ましく思っていないらしくて、えっと。正直弟子入りはちょっと難しいかもしれないです」
「そ、そうですか」
幸い居たみたいだけど、これはあれだ。ちょっと前のガルスというか師匠NPCと同じパターンだよね。
戦闘職、生産職に限らず師匠を探して少しでもいい住民を師匠にしようと、一部のプレイヤーたちが無理やり弟子入りを頼みこんでいたことで、ガルスや他の師匠にすることが出来る住民の異邦人の印象が最悪に近い状態になっていた。
あれのせいで条件を満たして何事もなく弟子入りできたはずのプレイヤーたちにも一時的に影響が出てたらしいのだよね。実は私がこれを知ったのは最近だけど。
私はその少し後にガルスのところに弟子入りしたから、そこまで影響は受けなかったのは幸いだった。
今回レミレンに紹介してもらう錬金の師匠も同じように面倒なプレイヤーに師匠になってもらおうと押しかけらしていたのかもしれない。
「師匠は工房にいます。…アユさんどうぞ中へ」
「はい」
レミレンに続いて家の中へ入る。
ドアを潜り外から見えていた小さな店舗部分を通り過ぎ、その先に入っていく。外から見えていた店舗の奥は通路になっていて、そこには2つのドアが存在していた。
「工房はこちらになります。ちゃんと付いて来てくださいね」
2つのドアのうち奥にあった方へレミレンは進んでいく。開いたドアの先には下に続く階段があるようで先を歩いているレミレンが下へ降りて行っている。
もう一つのドアは住居部分に繋がっている感じかな。
外観がと同じく室内も白基調でかなりおしゃれな感じだから住居の方も見てみたい気持ちが……。いや、今の目的はレミレンに師匠を紹介してもらうことなので我慢。
ドアの先へ進み下の階へ降りていく。
工房がある地下へ降りていくと上にあった家の内装から、レンガ造りの壁に変わった。天井は木材のままだが何か加工されてされているようでガルスの工房に使われていた木材よりも濃い色の物が使われていた。
周囲の色が暗いせいで少し薄暗く感じる階段を降り切ったところでまたドアが見えた。おそらくあの先が工房なのだろう。
「アユさんは師匠を紹介してもらいたいとのことですが、どうして紹介してほしいと思ったのですか?」
そのままドアを開けて中に入っていくと思っていたところ、先を進んでいたレミレンが立ち止まり振り返ってくるとそう問いかけてきた。
ここに到着するまでこのようなことは一度も聞いてこなかったんだけど、工房の中に入って戻ってくるまでの間にレミレンの師匠に何か聞かれたのだろうか。
「えっと、今まで1人でやっていたけど限界を感じ始めていて、それで師匠になってくれる人を探していた感じです」
何かいつも会っていたレミレンからは受けたことのない圧のようなものを感じ、少し戸惑いながら答える。
「ふむ、しかし、アユさんはガルスのところで弟子入りしているようですし、複数の工房に弟子入りするのは異邦人のキャパシティ的に難しくないですか?」
そう聞いてくるレミレンの言葉にどこか違和感を覚えた。
レミレンとは初めてJOBに就いた時からの知り合いだけど、そこまで頻繁に会う人ではないのだ。何ならガルスの方が会う回数が多いくらいである。
「時間はあるので大丈夫…です。SKPについてもまだ余裕はあります」
明らかにいつものレミレンとは違う雰囲気に少し首を傾げながら目の前にいるレミレンを観察する。
見た目は確かにレミレン。これまでじっくりレミレンの容姿を観察したことはなかったけど、記憶の中にあるレミレンと相違がないように感じる。ただやっぱりどこかいつもと雰囲気が違うように感じた。
「……なるほど」
私のことをじっと見た後レミレンはそう言葉を出して、何かを考えるように口元に指を当てる。
「えっと?」
「いえ、何でもないですよ。この先が工房になっています。どうぞお入りください」
そう言ってレミレンは工房へ続くドアを開けその中に入っていった。私もそれに続いて工房の中に入る。
「あれ?」
レミレンに続いて工房のドアをくぐると、そこには私を先導していたレミレンとそのさらに奥にもう1人のレミレン立っていた。そしてその奥にいたレミレンが少し呆れた表情をして私、ではなく、私を工房へ案内したレミレンのことを見ていた。
その光景を目にして私はどうしてレミレンが2人も? という疑問よりも先に、先ほどレミレンから感じた違和感の正体が何なのか、その原因に気づいた。