第25話 巣の下の鉱床
HPが0になったことでオーレスワイバーンの巨体が大きな音を立てて地面に沈み、次第にポリゴンに変わっていき空間に散っていく。
ワイバーンの巣の下に鉱床を見つけた後、兄にヘイトが向いている間にもう一度設置型爆弾をどうにか当て、その後どうにかこうにか攻撃を捌きつつ、ようやくオーレスワイバーンのHPを削りきることに成功した。
「ふぅ、何とか倒せたな」
オーレスワイバーンが完全にポリゴンとして空中に消えたのを見送ったところで、疲れ切った表情の兄が地面に落ちていた巣の残骸である大きな枝の上に腰を下ろしそう漏らした。
最後の方ではかなり無茶な攻めをしていたので、兄の頭上に表示されているHPバーは赤く染まっている。私も同じように少し無理をして攻撃をしたので、精神的に疲れているし半分近くまでHPが減ってしまっている。
「どうにかなったんだが、ログアウトまで後どれくらいだ?」
「んっと、30分くらい」
「んー、割と余裕あるな」
兄の言葉に首を横に振って否定する。
「ん?」
「ここだとログアウトできない」
「あっと。そういえばそうだったわ」
インスタンスエリア内でログアウトすると、入ってきた通常フィールドの出入口付近に強制排出されてしまうため、最悪他のプレイヤーとロックワイバーンの戦いに巻き込まれかねない。そのため安全にログアウトできる場所まで移動する必要がある。
手に入ったオーレスワイバーンの素材の確認、先ほど見つけた採掘ポイントから何が手に入るかの確認もしなければならないので、ゆっくりしていてはログアウトするための安全地帯まで戻る時間も無くなってしまう。
「それじゃあ、さっさと手に入れた素材の確認をして帰るか」
兄はそう言うとワイバーンが倒れた場所にドロップした素材を拾いに向かった。
「おお。Raも値段も悪くないな。フィールドBOSSのワイバーン素材以上の値段じゃん。ロックワイバーンで装備を揃える予定だったけど、数が集まるんだったらこいつで作りたいところだな」
インベントリの中を確認すると、今回手に入った素材はオーレスワイバーンの皮と鱗、翼膜。そして骨とアルス鉱石。後は魔石(小)。
「うーん」
「何か問題でもあったのか?」
「重くなるからちょっと使い難い」
私も兄と同じく、新しく装備を作るようの素材を集めるためにロックワイバーンを倒していたのだし、その上位種であるはずのオーレスワイバーンの素材を上手く使うことが出来れば強い防具になるとは思う。
ただ、どうしても装備の重量問題がある。これまであまり気にしていなかったけど、UWWOの素材って現実と同じように重量があって、軽い物も重い物しっかり反映されているのだよね。
今オーレスワイバーンの素材を手に持ってみたのだけど、割と重量があったのだよね。
ロックワイバーンの素材も今まで使っていた物より重くはあるのだけどギリギリ許容範囲内ってところ。でも、それより重いオーレスワイバーンの素材を使えば、より重い装備になるのは間違いない。フルプレートアーマーみたいに全身を金属で覆うような装備に比べれば軽いとは思うけれど、それでも全く影響がないと言えない重さになる可能性は高そう。
「あ、確かにそうか。ロックワイバーン素材ならまあ大丈夫の範囲なんだが、それ以上となれば厳しいかもしれないな」
兄はアタッカーだけど回避メインの戦い方をするから、動きが鈍るような重めの装備はあまり向いていないよね。翼膜なら使えるかもしれないけど。
「とりあえず、時間もないし今回手に入れた素材に関しては次にログインしたときにしっかり確認するか。もしかしたら使えるかもしれんし」
まあ、実際に使ってみないとわからないし、使い方によってはオーレスワイバーンの素材でも軽量化して使うこともできるかもしれない。それに防具関係ならガルスに聞けばわかるかも? すんなり教えてくれるかはわからないけど。
さてじゃあ、あとは巣の下にあった鉱床から採掘してログアウトかな。
「どうした?」
地面に転がった素材を拾い終え、巣の出入り口に向かっていた兄が自分とは逆の方向に進んでいた私を見つけて疑問の声を上げた。
「あれ」
私の近くまで来た兄に巣があった場所を指さし、鉱床があることを伝える。
「そういえば、巣が壊れた時に何があったな。……採掘ポイントか?」
「ん」
兄も戦闘中に何かがあったことは気づいていたっぽいね。まあ戦闘中、特に後半はヘイトを買っていてそれどころじゃなかったから忘れていたみたいだけども。
巣があった場所の中心付近まで進み、鉱床を確認してみる。
見た目は普通の鉱床とほぼ同じだけど、若干クリスタルのようなものがちらちら混じっている感じだ。周囲が少し暗くてしっかり確認することができないから、それがどんなものなのか詳しく判断はできないけど、普通の鉱床との違いは確実にあるからこれは期待できるね。
あっと。時間もないしささっと採掘しておこう。
それじゃあ一発目。そいっと。
ガツンとツルハシを鉱床にたたきつける。ツルハシから伝わってくる衝撃とともにポロッと鉱石が近くに転がり、それを拾い上げる。
「ふむ?」
鉱床から零れ落ちた鉱石はオーレスワイバーンから取れたアルス鉱石に近い見た目だけど、少し色が濃くて艶がある感じ。
とりあえず確認。
[(素材)魔鉄鉱石 Ra:Ep Qu:B SAS:3600]
元は普通の鉄鉱石であったが、長い時間強い魔力に曝され続けたことで魔力を帯びた鉱石となった。
加工難易度は高いが魔力を帯びた武器や防具の材料となり重宝されている。
魔鉄鉱石! なるほど。ここでこういうのが出てくるのか。魔力を帯びている鉱石は先にアルス鉱石を手に入れているけど、こっちは完全に鉱床から採掘できる物っぽいね。
それに説明文を読む限りアルス鋼石よりも魔力が強いみたいだし、魔鉄鉱石は武器防具用の素材ということなのかもしれない。
これでどういったものが作れるのか知りたいところだけど、とりあえず時間もないし、今回手に入れた素材も含めて何が作れるかは、次にログインしたタイミングで調べることにしよう。