第11話 こういうこともあるよね
廃屋の2階は今までいた1階とは違い、瓦礫などこの廃屋の残骸はあまり存在していなかった。全く無いということではないけれど、下の階とは大分状態が違う。
それに下の階はほとんどが石積みの壁や床だったのに、2階は結構な範囲で木材が使われている。
これは、私が手に入れたハウスと同じような作りになっているので、もしかしたらこのハウスやあの元別荘が作られた時期では普通の作りだったのかもしれない。
まあ、全部石材で作ったら重量が酷いことになるから、軽量化するためにそうせざるを得なかっただけかもしれないけど。
少なくとも第1エリアや第2エリアにある宿屋はほとんどが木材で作られていたから、今は木材を主に使う家が主流とかそんな感じなのだろうね。
「何もないね」
うん。
部屋の中は荒れているわけじゃないのだけど、物らしいものはほとんど残っていないね。本当に劣化して壊れているとかではなくて、存在していない。
棚とかはあるから誰かが持ち出したのか、それとも元の持ち主が別の場所に移動させたのか。
棚の中をじっくり観察してみると、何かが置かれていたように砂埃の跡が残っていた。これは私よりも前にきたプレイヤーが持ち出した可能性が一番高そうだ。
ただ、その跡も何十箇所もあるわけではなく、数箇所しかないので元からそれほど数は残っていなかったのだとは思う。
残っている跡の形からしてコップか置き物か。真円に近い形だからコップの可能性が高そうだけど、この分だと他の部屋に残っていたかもしれない物も、持ち出されてしまっているかもしれない。
もっと早く思い出して来ていればよかったのだけど、こればかりは仕方がない。私だけがこのゲームをプレイしているわけではないのだから、先んじることが出来なければこうなることはよくあることだ。
2階には今いる部屋ともう1部屋、それと床の傷みが激しく辛うじて床が落ちていない部屋の3部屋が残っている。
パッと見た感じ、今いる部屋はまあまあ状態が良くて、ネズミの王国の上の部屋にあたる場所の状態があまり良くない。
最初の頃に廊下の奥にあった瓦礫の中に指輪を見つけたけど、その瓦礫は上の階から落ちてきたものなのだよね。多分あの指輪も落ちた床の瓦礫と一緒に落ちてきたものだのだと思う。
あそこの上に開いていた穴。もうちょっと大きければ壁蹴りしてここまで来れそうだったのにね。いや? 思いっきり壁を蹴ったらそこが崩れる可能性もあるのか。それに上に登った瞬間、床が落ちるとかもありそう。
ネズミの王国の上の部屋は、入ってみるとかなり状態が悪いことが見て取れる。一部は床板が湿気なのか黒ずんで劣化しているし、歪んで板が反っている。
これだと適当に歩き回ったら下の階に落ちるかもしれない。
この部屋に置かれていた家具はほとんど床の歪みによって倒れたり傾いてしまっている。中にはそのせいで床に落ち、割れてしまっているカップもあった。
部屋の上にある屋根は落ちていないから、下の階からの湿気か何かの影響で駄目になった感じなのだろうね。雨漏りしている感じでもないし。
傷んだ床を踏み抜かないように慎重に部屋の中を探索する。
古い木造の家の床でよく鳴るギシギシという音ではなく、歩くたびにミシミシというかメシメシみたいな明らかに危ない音が響く。
これ本当に怖い。踏み抜きそう。
踏むたびに沈む床を踏み抜かないように慎重に進む。さらにその場に留まったら却って床が落ちそうな気配をひしひしと感じるので、なるべく梁の上と思われる場所を選びながら止まることなく、ゆっくりと部屋の中を見て回る。
セーフティエリアだから、床を踏み抜いて下に落ちたところでダメージを受けることはないだろうけど、意図せず落下するのは普通に怖いものである。
ワイバーンの時も怖いは怖かったけど、あの時は戦闘中ってこともあったし、一度上に打ち上げられていた分いきなりじゃなかったからね。
慎重に探してみたけど、この部屋にはもう何も残っていないようだ。倒れた棚の中を覗いてみても壊れた置物くらいしか見つからなかったし、棚の後ろも何も落ちていなかった。
残り1部屋だけど、望みは薄そう。
最初の部屋の段階で何も残っていなかったのだから、まあ当然なんだけど。
最後の部屋に入れば中は本当にがらんとしていた。他の部屋にはあった家具だけど、この部屋には何一つない。
「家具すら持っていかれてる!?」
他の部屋の家具は持っていった形跡はなかったのだけど、この部屋には何かが置いてあった形跡は残っていた。
他の部屋に比べて一番状態のいい部屋だから、家具もいい状態で残っていたのかな? ……いや、それで持っていく? ハウスも手に入れている人が少ない中で、プレイヤー相手に売れるような物ではないと思うのだけど。
ああ、でもアンティーク調のレトロな感じの見た目だったらあるかな。見た目次第だけど、それだったら私も持っていこうと思うかもしれない。
すでに持ち出された物に思いをはせても意味はない。ただ、小さくて見落とされた物が残っている可能性はあるので、一応部屋の中を見て回る。
見た目、状態はいいけどやっぱり経年劣化はあるようで、床板の縁がボロボロになって狭いながらも隙間を作っていた。
「ん?」
よく見ると床板の隙間に何かが挟まっていた。結構薄い物みたいだけど、材質は固そうな感じ。色合いは床板に近いから先に来たプレイヤーは気付かなかったのかな。
隙間に挟まっているとはいえ、ほとんど下に落ちかけているそれをゆっくり引っ張ってみる。
思いのほかがっちり挟まっているようで、ちょっと力を入れた程度では抜けそうにない。
これ、抜けなかったから持っていかなかっただけかも。無理やり抜いたら壊れそうだしどうしようかな。
あ、床板ずらしたら抜けたりする?
床板に挟まっているのだからそれをどうにかすれば抜けるかもしれないと思い、床板をずらすように力をかけながら、同時にそれを引き抜いてみる。
するとそれはするりと抜けた。
あっさり抜けたけど、これは……フォトフレームかな? 中に写真が入っているみたいだけど、汚れていてよくわからないね。
壊れることなく取れたのはいいものの、中に入っている写真が汚れで見えなかったので【生活魔法】の[クリーン]を使ってきれいにしてみる。
綺麗にしたら見えるようになったけど、これは人の写真……どこかで見たことがあるような。……あ、あっちのハウスにも置かれている写真に写っている人と同じかも。じっくり見てないから確実にそうとは言えないけど、このハウスとあのハウスは同じ人が所有していたみたいだからあり得そう。
残ってはいたけど写真を手に入れても使い道はないのだよね。
後ろに何か書いてあるとかもないからキーアイテムでもなさそうだし、ううーん。……ハウスの持ち主の写真っぽいし、ルビーへのお土産に持ち帰るのもありか。
手に入れた写真をどうするか決めた後、同じように残っている物がないか探してみたのだけど、他には何も見つかることはなかった。
これで2階に残っていた部屋の探索は終わった。
このハウスは屋根裏のないタイプだったから、他に探索できる場所もない。これ以上探索をしても何かが見つかることはないだろう。
頑張って登ってきて、手に入れたのはちょっと古びたフォトフレームとその中にあった写真一枚だけ。途中で【跳躍】スキルが取得可能になったから、収穫がそれだけじゃないのが救いかな。
一応棺桶も手に入れたけど、あれは偶然だからね。瓦礫もついででしかないし、収穫の一部って感覚は薄い。
まあ、何かありそうだと思って見に行って何もないっていうのも結構あるし、毎度毎度何かが見つかるなんてことは普通ないよね。
こういうことはよくあること。少し徒労感はあるけど、心残りは無くなったから良しとしよう。
≪ワールドアナウンス
エリアBOSS【過食のエルネーベンデス】が、6名によって初めて討伐されました≫
お? どこかのBOSSが討伐されたみたいだ。NAMEは聞いたことも見たこともないけど、エリアBOSSということはウエストリアの森にいたウツボカズラかな。
うーん。イスタットのゴーレムも倒されているし、そろそろ再挑戦してもいいかなぁ。あの時よりステータスもスキルも強くなっているし、一方的に負けることはないと思うのだけど。
ああ、でも。先にハウスの生産設備の制限を解除……はすぐには無理だろうから、少しは緩くしたいのだよね。
とりあえず、当分は生産関係優先かなぁ。BOSSの初討伐報酬も捨てがたいけど、どちらも残っているのはソロだけだし、それでやって勝てる見込みもないからね。
現状、火力不足が否めない。挑むとしたら、全体の装備を新しくしてからかな。
うん。まだやることがいっぱいあるね。