2章おまけ:リラ
これはUWWO~引きこもりヴァンパイアは暗躍する?~の2章前半の後半に登場したドラゴニュート(土)であるプレイヤーNAME:リラの話。
Unite Whole World Onlineのサービスが開始して2週間と数日が経過した。
サービス初日からこのゲームをプレイしている私は、社会人故にプレイ時間を制限されていたために未だ他のプレイヤーの姿を確認したことが無い。
本来なら、皆と同じ初期地点からゲームを開始しているところだけど、アバター作成時にレアRACE、基本的に最初に選べるアバターのRACEとは違い、ランダムでしか選択できない種になった所為で初期地点が辺境という、マゾプレイを敢行することになったのだ。
あの時はレアだし基本RACEよりも成長量が大きいというところだけを見て安易に飛びついてしまったのだけど、正直なところ若干どころではないくらい後悔している。
数日前にあったイベントは仕事が入っていたから参加は出来なかった。イベントに参加出来たら他のプレイヤーに会えただろうに最悪のタイミングだった。
周囲を警戒しながら道の跡と思われる場所を進んで行く。ここを見つけたのが昨日。ようやく他のプレイヤーに会えると思った矢先、昨日はフォレストシャドウウルフの群れに蹂躙された。
1対1なら倒せそうな気配はある。しかし、あのエネミーは必ず複数で現れるため、今のところ倒しきれたことは1度もない。
私の初期地点は廃屋だった。外から見たところ山小屋とかそんな感じの小屋で、辛うじて原型を留めているだけだった。
はっきり言って今まで戦ったことのあるエネミーなら速攻で壊せそうなくらいにボロボロ。臨時セーフティーエリアとして機能していたから壊れることは無いだろうけど、おそらく私が他のリスポーン地点に到達したタイミングで壊れるとかそんな感じだと思う。跡形もなくなくなる可能性もあるけど。
それで初期地点が山小屋だったから周囲は山、というよりも森だった。最初はエネミーが出やすそうでLVもすぐ上がるかも、なんて思っていたけど最初に戦った敵のLVどころかNAMEすらわからなかった。私の記念すべき戦闘はその信じられない結果に茫然としている内に終わってしまった。
後で調べたところでその理由がわかったのだけど、その所為で対峙したあのエネミーのLVがどうにか出来る範囲ではないことも理解してしまった。はっきり言ってLV1の私ではどうにか出来るものではなかった。
八方塞がりかどうかはわからなかったけど、すぐにアバターを作り直すかどうかを考えた。
偶然ランダム選択で出ただけだからレアRACEにこだわりはなかった。でも、レアという魅力は判断を鈍らせるもので、結局アバターを作り直すことは早い段階で諦めた。
Unite Whole World OnlineはLVアップによるステータス上昇が存在する。しかし、同時にスキルの熟練度を上げることでもステータスは上昇する。どうやら一部スキルで不具合が生じていたみたいだけど、運がいいのか悪いのか、残念なことに私は仕事の関係で初日のログインが出来なかったためその不具合には遭遇していない。
そして私は頑張った。素振りでも熟練度が溜まるスキルを取得してステータスを上げ続けた。
初日は最初に死に戻ってから小屋の中で【拳】スキルの熟練度を上げ、同時に熟練度が上げられそうな【身体能力向上(微)】と【体術】も取得した。
ただ、私のアバターのRACEであるドラゴニュート(土)は強制で【竜鱗】【土魔術】【竜魔術】【自動回復(微)】を取得する。通常スキルである【土魔術】以外は強力なスキルなんだけど、その所為で15もSKPを消費する。
この結果、最初に使えるSKPはランダムでRACEを選んだことによるボーナスと初回版によるチケットの分を合わせても5しか残らなかった。
実のところ【拳】【身体能力向上(微)】【体術】のスキルを取得するのに必要だったSKPは6。……うん、そう、足りない。足りなかったんだ。だから先に【土魔術】の熟練度を10%以上にして、足りない分のSKPを確保してから3つスキルを取得した。
先に2つスキルを取得して、そのスキルの熟練度を上げても良かったんだけど、3つとも同時に熟練度を上げられるタイプのスキルだったから、出来るだけ同時に取得したかったのだ。まあ、1次スキルの最初の10%なんて、後から取得しても2次スキルになる頃には気にならない程度の誤差にしかならないんだけどさ。
それで限りあるログイン時間を数日分消費してスキルの熟練度を50%まで上げた。1次スキルという事もあって割と早く熟練度も上がり、同時にステータスも上昇した。
スキルの恩恵を受けているステータスが元の3倍近くになったことで、これで何とかなる、そう思いセーフティーエリアから出たもののまたしてもあっさり鹿っぽいエネミーに殺された。
どうにもならない。ステータスを眺めながら先の事を考える。今ならまだアバターを作り直せば遅れは取り戻せるだろう。他のプレイヤーよりもプレイ時間が取れないから数日分とは言えそこまでロスはない。
しかし、RACEのランダム選択は最初に使い切ってしまったから使えない。いや、もともと獣人(白猫)でプレイしようとしていたのだから元の予定に戻るだけだ。いや、しかし、しかしだ。
少しの期間とは言え、このRACEでプレイしていたので若干愛着も湧いて来ているし、何だかんだ今までやったことのなかった格闘家スタイルも意外と悪くなかった。
やっぱりこのまま進めよう。そう結論を出すのに掛かった時間はそう長くはなかった。
数日後、山小屋の近くに洞窟らしきものがあることに気付いた。
既に10回以上リスポーンしており、初期から持っているASも尽きている。失うものはないので、私は見つけてすぐにその中を確認しに行った。
中は普通の洞窟だった。出て来たエネミーはコウモリ。ビッグバット(小)というエネミーだった。アバターのLVが上がっていない中でエネミーのNAMEがわかったこと少し疑問を持ったけれど、とりあえず戦ってみた。
驚くほどあっさり倒せたことにさらに驚いたけど、これでLVが上げられるという嬉しさが上回り、嬉々としてビッグバット(小)を狩り続けた。
そうして洞窟内に出現するビッグバット(小)や同系統のエネミーを狩り続けることでLVが上がり、山小屋の近くに出て来る鹿のようなエネミー、フォレストスラッシュディアを倒すことに成功したのだ。
この時のLVは18。鹿はLV21だった。格上相手とは言え、LVの差はそれほどでもないし、1対1ならやりようはあるのだ。
そして現在はLV24になった。どうしてもフォレストシャドウウルフの群れには勝てないのだけど、見つからないように移動すれば進めないこともない。何度か見つかって初期地点に戻されはしたけれど、ようやく私は森を抜け荒れてはいるものの広めの道に出ることが出来た。
達成感を感じながらも周囲を確認する。しかし、建物らしきものは見当たらない。プレイヤーどころかNPCすら見かけない場所なのだから、近くに街や村は無いのかもしれないと懸念していた。そのズバリな結果に少し落ち込んだけど、チュートリアル先を示す先を目指せば最低でもNPCは居るはずだからと、気持ちを持ち直しMAPに示されている先に進むことにした。
荒れ果てた道に沿って進む。所々崩れた家か小屋と思われる物を見つけることは出来たけど、それ以外はエネミーしか見つけられていない。
出て来るエネミーが森の中とは違いそれほど強くはないので苦戦はしないが、物陰から出て来ることが多いので面倒だ。
さらに進むと目の前の景色が開け、草原と思われる場所に出た。
ここまで来たところでエネミーが殆ど出なくなった。草原という事で隠れる場所はないし、食べ物もあまりないという事だろうか。UWWOはゲームではあるがエネミーの生息地や配置にはそれなりの理由が付けられているらしいから、たぶんそういう感じなのだろう。
MAPに表示されている指示に従って道を進む。いくつか道が分岐している場所を見つけたが、変に進む道を変えて目的地に辿り着かなかったら嫌なので分岐している道には進まずにそのまま歩を進めた。
時間の関係で1度辛うじて使えそうな廃墟でログアウトし、翌日からまた道を進み始める。
1時間程移動したところで先にダムのような壁が確認できた。それを視認した瞬間、私の体から少しだけ力が抜けた。
変な場所に行かないようにと分岐していた道に進まなかったのだが、目に映る壁からして真直ぐ進んで行くことが間違いだったのだろう。見た目からしてあの壁に穴が開いているとは思えない。
そう思えるほど先にある壁はのっぺりとしていた。
無駄な時間を使ってしまった。
そう思いながら来た道を戻る。ログイン出来る時間が限られている状況でこの失敗は痛い。もう少し日が進めばそれも増やせるだろうが、現状どうすることも出来ない。
早くチュートリアルを受けて普通にプレイしたい。その思いで先ほどまで進んでいた道を戻っていると不意に道の脇にある廃屋の近くで何かが動いた。
エネミーかもしれない。そう判断していきなり飛び掛かられてもいいように構える。しかし、一向にそれはこちらに来ない。むしろ少しずつ離れて行っているようにも見えた。
廃屋の影に入ってしまい見えなくなってしまったのでしっかり確認しようとさらに近付く。
距離としては20メートルくらい離れているだろうか。少しだけ見えている存在は、今まで遭遇してきたエネミーと動き方が違う。
森の近くだしフォレストシャドウウルフ? いや、それよりも大分小さいね。初見エネミーかもしれない。サイズは小柄な人間くらい…………まさか!?
そう自分の中で仮定が出てしまった瞬間、私はすぐさまその存在の元へ駆けだした。
サイズ、動き方、私が近付いても大きく反応していないところからエネミーではないと結論付ける。ならば答えは一つだ。
プレイヤーなのかNPCなのかはわからない。けど、けれど自分以外の人だ。
もしかしたら勘違いかもしれない。普通にエネミーの可能性も否定できない。だけど、私は一縷の望みを掛けてそれに近付いて行く。
姿がしっかり見えた。やはり人だ。何をしているかはわからないけど、人。このゲームを始めて初めて遭遇する人だ。
「あああああああ!!!」
ようやく他の人に会えた嬉しさから私はその人に向かってダイブした。私が声を上げたことでその人は私の存在に気付いたのかこちらを向き、私のダイブを寸でのところで躱した。
その結果、私は草の中に転がり込んでしまった。
「はっ!?」
すぐさま顔を上げ、私の事をおっかなびっくりといった表情で見ている人を見る。
ああ、ちゃんと人だ。フードを被っているからなのか顔が少し見えづらいけれど、しっかり人である事がわかる。
「あ、あ…や…」
「あや?」
「や、やっと他の人に会えたーーーっ!!!」
私の行動に目の前の人が困惑しているのが見てわかったけれど、それ以上に嬉しいという感情が溢れ自重できずに私はそう声を上げた。
戦闘が終わりフィールドが切り替わる。
アユちゃんとの出会いは本当に渡りに船だった。
エリアBOSSの岩腕のゴフテスは確かに私がソロで挑めば苦戦していた相手だった。絶対に勝てないといった相手ではなかったけど、おそらくソロで挑んでいれば数回は負けていたはずだ。特殊攻撃の咆哮は防げなかっただろうし、ダメージもまともに稼げたかもわからない。私もダメージを与えることは出来ていたけど、半分以上はアユちゃんが与えていたのはわかっている。
手伝ってくれたアユちゃんのおかげであっさりBOSSを討伐した後、ダムかもしれないと思っていた防壁を抜けることが出来た。
時間的にそろそろログアウトをしないといけないタイミングではあったけど、防壁の所に居た兵士の話では近くで安全にログアウトできる場所はないらしい。予定していた時間を少し超えてしまうけれど、どうしようもないとあきらめる。
時間を考えるなら今日はエリアBOSSに挑まないで明日にすればよかったのだけど、さすがに明日だとアユちゃんは手伝ってくれないだろうし、こちらの事情に付き合わせるのも良くない。それに出来るだけ早く誰も居ない場所から脱出したかったのだ。だからまあ、後悔はしていないけどログアウト時間が遅れるのは自業自得。
防壁を抜けログアウトできる町まで移動しようとしたところで、私たち以外のプレイヤーに遭遇した。
相手がアユちゃんの事を知っているような反応だったのでアユちゃんに聞いてみると、知り合いのプレイヤーらしい。
そして反応を見る限り結構仲がいい感じ。表情は変わっていないけど、最初に私と遭遇した時と比べて姿勢が違う。
私の時はすぐにでも逃げられるようにしている感じがしたけど、目の前のプレイヤーたちは違う。まあ、あの反応は初対面の相手だったのだから変な事ではないけどね。ただ、アユちゃんの場合はちょっと過剰と言うか、過去に何かあったのかもしれないと思うくらいだった。
何であんな反応なのかちょっと気になるけど、今後関わるかどうかはわからないから詳しく聞くのは止めておく。いや、関わることになったとしても聞かない方が良いだろう。他人の事情に深くかかわるのならば、本当に親しくなってからじゃないと。それに安易な考えで相手の深い部分を知ろうとするのは駄目だ。
「すいません。ちょっといいですか?」
「ええ、いいですよ?」
私が話し掛けられるとアユちゃんは少し離れた所にいる、他のプレイヤーの所へ移動していった。何の用なのかわからないけど、嫌はないので了承する。
「この先のエリアBOSSと第3エリアについてお聞きしたいのですが」
どちらもアユちゃんに聞けばいいんじゃないかと思うけど、別視点の話が聞きたいのかもしれない。ただ、長く話すほどそれほど時間に余裕はない。そろそろ移動しないと本当に明日の朝に響きそうだ。
「……あまり時間が無いので少しなら。そろそろログアウトしないといけないので」
「ああ……たしかに近くにログアウト出来る場所がないですから、街まで行かないといけないのか。一応近くに廃屋なら在りますが、そこでログアウトとなると他のプレイヤーも居ますからね」
私に話しかけて来たプレイヤーはそう言うと少しだけあきらめの表情を浮かべた。
あれ? 廃屋ならあるの? ログアウト出来るならそこでもいい……あ、でも他のプレイヤーが居るってことはPKされる可能性があるのか。ここでPKされたら初期地点に出戻りだし、絶対大丈夫とは言えないから止めておこう。なんかログアウト用のアイテムがあれば問題ないらしいけど、そんな物を買える場所には行ったことはないし、ASだってないのだ。そんな私が持っている訳がないよ。
「ログアウトまでの時間はどれくらいでしょうか?」
何かを思いついたのか、少し話を聞くのを諦めていた表情が変わった。
「1時間はないくらいですね」
「ここから街までだとどう想定しても時間は足りませんね」
一言二言で済む質問程度なら誤差の範囲だろうけど、長くなるようなものだとさすがに誤差じゃすまない。
「なら、安全にログアウトするためのテントを譲りますので、いくつか質問してもいいですか?」
「テント?」
テントとは? ログアウト用のアイテム何だろうけど、ログアウト用のアイテムってテント型だったのか。
「え、知らない……いや、アユさんも最初は知りませんでしたね。そうか」
「あー、すいません。ログアウト用のアイテムがあるっていうのは知っているのですが、テント型だったというのを知らなかっただけです」
「なるほど。そうでしたか」
一切知らないというわけではないと否定する必要は無いけど、一々説明されても面倒だから訂正しておく。
「それでどうしますか?」
まあ、さすがに1時間も質問攻めにされるとは思えないし、どう見てもログアウト用のアイテムを貰った方がいいよね。
そうしてわたしはログアウト用のアイテムを受け取る代わりに質問された内容を答えて行った。
第2エリアに移動してから数日が経過した。
現在はアユちゃんの知り合いであり、第2エリアで最初に遭遇したプレイヤーたちである、エンカッセさんたちのクランの一員としてプレイしている。
このクランに所属した理由は最初にクランに誘ってくれたことと見た所人の良さそうな人たちだったこと、後は所属しているプレイヤーが少数で面倒がなさそうというところだ。正直大した理由ない。
今は大体第2エリアと第3エリアを行き来して廃村の復興を主にしているけど、最初のチュートリアルなどを手伝って貰えたのは有り難かった。
アユちゃんとはあれ以来会っていないけれど、兄であるファルキンさんからちょこちょこ何をしているかの情報は入って来ている。まあ、正確な情報というよりはざっくりとした近況報告に近い内容だけど、おおよそどの辺りに居るかくらいはわかる。
第2エリアに居るみたいだけど何をしているのだろうか。
≪ワールドアナウンス
エリアBOSS【猛進のアッシュボア】がプレイヤーによって初めてソロ討伐されました≫
「アナウンスだ」
第3エリアで活動するためのアイテムを補充しにセントリウスへ戻って来たところで、ワールドアナウンスが流れて来た。
「アッシュボアってイスタットの方のBOSSでしたっけ」
「ああ」
なるほど。たしか物量攻めして来るBOSSだったはずだから、それを1人で乗り越えたのか。
「ん? どうしたんだファルキン? 黙って居るなんて」
「…………うーん。いやな、今のアナウンス、アユの気がするんだよ」
まさか、と思うけどありそうだ、とも思う。低LVでゴフテスを倒しているのだから変でもない。
「根拠は?」
「いや、昨日鉱石が欲しい的な事を言っていたから、可能性は高いと思う」
そう言えばアユちゃんって生産職だった。最初に聞いた時は、え?と思ったけど、最初に会った時に何かを採取していたんだよね。
BOSSをソロ討伐する生産職って何?って思ったけど、ゴフテスに関しては私と同じ理由で倒したのだろうし、その延長だと思えばおかしくはないか。
それに生産職とは言え、素材を獲得するためにはエネミーを倒さないといけないし、作りたいと思う物によっては自分で取りに行った方がいい物もあるだろうから、ある程度戦闘も出来ないといけない。まあ、そういう状況になるのはある程度攻略が進んだ頃だろうけどさ。
それを考えれば、少し早いんだろうけど変ではない。
「オウグラートの可能性もあるけど、あいつは今第3エリアの奥に行こうとしているから違うか」
「俺らが知らないプレイヤーの可能性の方が高いだろうが否定する要素もないな」
「気にしたところで何がある訳でもないのだから、さっさと補充を終わらせようよ。それに気になるのなら連絡でも取って確認すればいいでしょ」
「そうだな」
プリネージャさんの言葉でファルキンさん以外は補充作業に戻る。それでファルキンさんは連絡を取ろうかどうか葛藤しているようだ。それを見てプリネージャさんが少しだけ苦い表情を浮かべている。
ファルキンさんは少し過保護だと思うんだよね。なにか、前に何かあったことはわかるのだけど、ちょっと行き過ぎているというか。まあ、そういう優しい所が彼の良い所なのだろうけどね。
私には少しくどくてあまり好みとは言えないけど、プリネージャさんはそういうところが好みということなのだろうし。
まあ、さっさとアイテムを補充していこう。
補充を初めて30分ほどたったところでふとももさんがエンカッセさんの所に近付いて行っていることに気付いた。
「エンカッセ、ちょっといいか?」
「なんだ?」
何かを相談しているようだけど、なんだろうか。
話を聞くと、どうやらこの近くでフィールドBOSSのワイバーンが出現しているらしい。
フィールドBOSS……私戦ったことはないんだよね。フィールドBOSSが初めて出た1回目のイベントは仕事で出られなかったし、ちょっと戦ってみたい。その時もワイバーンだったらしいから余計にそう思う。
さすがに私だけで行くのは駄目だろうし、他のメンバーの意見しだいかな。
「うーん。今から行っても間に合う保証はないし」
意外と現実的な発言をするファルキンさん。たまに安易な発言が出て来るのに考え自体はそうではないようだ。あれらは本当に意識していない発言なのだろう。
「ああ、そうそう。今も掲示板で状況を追っているんだけど、今さっきアユちゃんらしきプレイヤーが――」
「よし行くぞ! ほら早く!」
アユちゃんがいるかもしれない、そう聞いただけで意見を変えるのはどうなんだろう。いや、シスコンの兄としては一緒にプレイしたいという欲求があるのだろうけどさ。聞いたところによると本当なら一緒にプレイする予定だったらしいんだよね。本当かどうかはアユちゃんに聞かないとわからないけど。
それがアユちゃんがレアRACEを選択してしまったから出来なくなってしまったらしい。そのことを時々愚痴っている。
あの時の恩もあるし、私も出来ればアユちゃんとも一緒にプレイしてみたかったのだけどなぁ。元から複数のプレイヤーと一緒にプレイするのが好きじゃないらしいし、色々あって今は難しいと聞いているから無理っぽそうだよね。
あれ、フィールドBOSSの所にアユちゃんがいるとすれば、さっきのワールドアナウンスは誰だったのだろうか。アユちゃんだったのなら第2エリアに移動するために倒したという事だろうし、別のプレイヤーが倒したという事なのかな。倒したのに通過しないのはおかしいだろうし。となればファルキンさんの予想は外れたことになるのでは?
そうこうしている内に他のメンバーも拒否することはなかったので、フィールドBOSSに挑むことになった。
「ファルキンのやる気が空回りしないと良いのだけど」
プリネージャさんがそうぼそりと呟いた。ファルキンさんのやる気を見れば私もそうなるかもしれないと思えた。
BOSSの所にはアユちゃんがいるかもしれないし、少しでも話せると良いのだけど。どうなるかな。
そうしてすぐにBOSSの元へ移動を開始し、1時間もしない内にBOSSに会敵し戦闘に移るのだった。
次話から3章になります
それと申し訳ありませんが、3章からは2日に1回の更新になると思います