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第31話 フィールドBOSS:ワイバーン

いつもより長いです

 

 聞こえて来る悲鳴から察するに、戦況は大分悪そうだ。


 一方的にプレイヤーが殺されているような悲鳴が多い。魔術や弓術などの遠距離攻撃でダメージを与えられているようだけど、先ほどよりも攻撃エフェクトの数が少なくなっているから、それよりもプレイヤーの減りが早いようだ。


 おそらく、誰かしら掲示板に書き込んだり、フレンドに救援要請とかを出したりしているプレイヤーも居るだろうけど、このままだとそのプレイヤーたちが着く前に全滅しそう。


 私みたいに自ら気付いて近付いた上で、戦いに挑んでいるプレイヤーも居るみたいだけど、焼け石に水、というか戦況をひっくり返すには数が足りていない。


 私が近付いてくる間にも結構な数の攻撃が当たっていたみたいなのだけど、ワイバーンに怯んだ様子が無いのが気になる。

 あまりダメージを与えられていないのかも? でも攻撃エフェクトの数からして、一発が弱くても結構なダメージを与えられているような感じなのだけど。


 うーん、今戦っているプレイヤーの状況がはっきりわからないから、もうちょっと近付こう。でも、近付きすぎるとワイバーンに気付かれて強制的に戦闘になりそうだから、距離を意識しながら慎重に近付いて行く。


 出来れば攻撃しているプレイヤーが居るうちに【鑑定】したいところだけど、今いる位置では遠すぎて【鑑定】出来ない。もうちょっと近付かないと駄目か。


 ちょっとずつ近付いて行く。そろそろ【鑑定】出来る範囲に入りそう。


 ワイバーンとの距離は目算で200メートルくらいまで近付いて来た。【鑑定】……はまだ出来ないのか。


 一歩進む。まだ【鑑定】が出来る範囲に入らない。


 さらに一歩進む。あ、【鑑定】が出来る範囲に入った。あ、ワイバーンが攻撃モーションで少しだけこっちに近付いて来た……って、え?


『アナウンス

 ワイバーンの感知範囲に入りました。戦闘状態に移ります。現在の参加人数:87

 注意:これから距離を取っても一定時間は戦闘状態が維持されます』


 うわぁ……マジですか。ワイバーンの感知範囲に入れば強制戦闘ですか。そうですか。なるほど。


 戦闘状態に入ったってことは、既にヘイトを稼いでしまっているだろうから、【鑑定】してもそう変わらないはず。ヘイトの面だけで見れば0と1だと大きな違いだけど、1と2ではそう変わらないのだよね。


 そう思い、半ばやけくそ気味にワイバーンを【鑑定】する。



[(フィールドBOSS)ワイバーン LV:30 Att:風・毒]

 HP:18763 / 24800

 MP:2067 / 2560

 スキル:■



 ……え? 待って。HP……5桁?


 今まで戦ったエネミーの中で一番HPが高かったゴフテスで、それでも5000を超えていなかったと思う。それに比べてワイバーンは5桁か。HPの総量がゴフテスの5倍。MPもまあまあ高い……ね。

 これならあれだけの攻撃を受けていても、怯まなかったのはおかしくないね。


 私がHPの多さに困惑している間にも、他のプレイヤーはワイバーンに攻撃を与え続けている。それでも、鑑定したことでワイバーンの上に表示されたHPバーは目に見えて減っているようには見えない。


 今までどれだけの間、戦っていたかはわからないけど、あれだけ攻撃を食らっていたのに4分の1くらいしかダメージを受けていないとは。空を飛んでいる所為もあるだろうけど、防御面のステータスでVITなのかMND、もしかしたら両方のステータスが高いのかもしれない。


 あれ、でもこれだけHPが減っているってことは、特殊行動……。


「ギャァッガァアアッ!!」


 ワイバーンが叫びながら空から地上へ勢いよく降りてきた。降りた場所はプレイヤーが多く集まっていたところであり、その周囲から多くのポリゴンエフェクトが湧き上がっているのが見える。


 そして、ワイバーンが地上に勢いよく降りたことで、私が立っている場所まで振動が伝わっている。これによって、状態異常:スタン(1)が付いた。


 私はすぐに攻撃を受けるような場所には居ないし、スタック(1)のスタンなら1秒で回復するから問題はない。だけど、ワイバーンの近くにいたプレイヤーはこれより高いスタンのスタックを得てしまっているだろう。

 距離があれば多少スタックが付いたとしてもどうにかなるだろうけれど、近くに居るプレイヤーにとって、スタックが1でも付けばそれが致命的な物であることは、ワイバーンと戦っているプレイヤーなら誰でもわかる。


 それを知っているのか、ワイバーンは周囲に攻撃を繰り出していく。また、多くのポリゴンエフェクトが沸き上がった。


 ワイバーンが地上に降りて来てくれたのは近接型のプレイヤーにとっては有り難い事だろうけれど、それ以上にワイバーンの攻撃が厳しい。


 近付いたら尻尾や翼腕で攻撃されて死に戻りする。正面から行くと噛みつかれ、叫び声をあげると衝撃波でも出ているのか吹き飛ばされて、地面に落ちた時の衝撃で死に戻り。生き残ったとしても戦意は消失しているプレイヤーは多いようだ。


 ああ、これ無理ゲーだ。


 一撃ではないにしろ、簡単にプレイヤーたちが死に戻りしていく。おそらくあの中にはVITが高いタンク職のプレイヤーも居ただろうから、まともに攻撃を食らえば私も同じように死に戻りするのは確実だ。


 気付けばワイバーンの近くに居たプレイヤーは粗方倒されてしまった。そして、周囲のプレイヤーが減ったからか、ワイバーンが私の方へ顔を向けた。


 他にも私みたいに様子を窺っているプレイヤーは居ると思うし、もっと近くにプレイヤーも居るだろうけど、でもまあ、そうだよね。


 たぶん、漁夫の利を得ようとか、勝てそうなら戦おうと様子を窺っていたプレイヤーで戦闘状態になってしまったのは沢山居たと思う。だけど、先ほどのワイバーンの攻撃で殆どのプレイヤーが死に戻りしていった光景を見て、すぐにこの場を離れたと思う。


 それで残っているプレイヤーの中で割かし見えやすい位置に私が居て、さらにさっき【鑑定】をしたから、他の様子見プレイヤーよりもヘイトが高い。だから私の方へ顔を向けたのだと思う。もしかしたら私よりもヘイトの高いプレイヤーが私の後ろに居る、という可能性もあるだろうけれど、一番近い位置に私が居る以上そんな物は関係ない。


 本当に慎重なプレイヤーは【鑑定】とか、滅多に使わないらしいからね。掲示板情報だから本当かどうかはわからないけれど。


 ワイバーンの体が徐々にこちらに向いてくる。これは完全にターゲットが私か、この近くに居るプレイヤーに移ったようだ。


 そして今、ワイバーンと戦闘状態のプレイヤーの数は、視界の端に表示されている13。


 最初にアナウンスを受けた時から1分程度しか経過していないというのに、プレイヤーの数が約7分の1まで減ってしまっていた。

 

 逃げたい。


 まあ、今から逃げ出したとしても逃げ切れるとは思えないけど。それに、ワイバーンの感知範囲から出ることが出来ても戦闘状態が維持されるってことは、追って来るってことだよね?

 ……その状態で街とかに逃げ込んだらどうなるのだろう。


 そのままワイバーンが付いてくることになったら、賞金首とかになるかもしれない。フィールドBOSSをトレインした犯罪者。うん、レッドNAME一直線かな。


 ……あ、でも、それを利用すればプレイヤーが戦いやすい場所に誘導することも出来たかもしれない? まあ、今更そんなこと出来ないけど。


 ワイバーンの体が完全にこちらに向いた。


 このまま何もしないで死に戻りするのも嫌だ。どうせなら次につなげるために特殊行動の1つくらいは起こさせたいところ。さっきの地上に降りて来たのもおそらく特殊行動だろうから、次の特殊行動はまだ先だろうけれど。


 私とワイバーンの距離は多分200メートル弱。近くはないけど遠くもない。先に居るワイバーンのサイズからしてすぐに詰められる距離だと思う。


 ワイバーンに向かって走り出す。まだ射程外ではあるけれどダークショットのチャージを開始する。


 UWWOのワイバーンは翼腕タイプだ。いや、ワイバーンの大半がそうだろうけど、そうではないタイプも稀に見るからね。


 それで翼腕タイプである以上、走るよりも飛ぶ方が得意の可能性が高い。

 現状200メートルくらい離れてはいるけれど、あのワイバーンにとってこの距離は飛んで移動する距離なのか、走って移動する距離なのかがわからない。もしも飛んで移動することになれば厄介な状況になりかねない。


 ブラッドウェポンの射程は基本的に存在しないけれど、実際に攻撃するとなるとおそらく20メートルくらいが限界。あまり動かないエネミーに対してならもう少し伸びるだろうけれど、ワイバーンはよく動くタイプのエネミーのようなので射程はもっと短くなる。


 そもそも、私が使う攻撃の中で主にダメージを稼ぐ攻撃手段がブラッドウェポンによるものなのだから、それが使えないとなるとジリ貧にしかならない。


「ギュアアアァアッ!!」


 叫び声を上げながらワイバーンが走り出した。とりあえず、飛ばれることが無かったので安堵したけど、思った以上にワイバーンの走る速度が速い。


 このままでは数秒もしない内にワイバーンと衝突してしまう。すぐにチャージしていたダークショットを放ち、次に使うスキルのチャージを開始する。


 ダークショットはまっすぐワイバーンへ向かい、そのままワイバーンの顔面に当たった。しかし、顔に当たったにも関わらずワイバーンは何事もなかったように突き進んで来ている。やはり、MNDが高いのか魔術系スキルに耐性があるようだ。


 どのくらいダメージを与えられたのかを知りたいところだけど、そんな余裕はない。ダークショットを放ってからすぐにシャドウダイブを使って、眼前まで迫っていたワイバーンの突進を回避する。


 時間帯が夜だから【影魔術】による回避がしやすい。これが日中だったらこうも簡単に攻撃を躱すことは出来ていないはずだ。


 ワイバーンが通り過ぎて行ったことを確認してすぐに影の中から出る。


 私がシャドウダイブで身を隠したことで目標を見失っているワイバーンだけど、居なくなっていないことを理解しているらしく、走る速度を落としている。そして、周囲を見るために長めの首を横に曲げ、すぐこちらに視線を向けて来た。


 それと近付いたことで再認識したことだけど、このワイバーン、イベントの時に出て来たワイバーンよりも何倍も体のサイズが大きい。あのイベントワイバーンの体長が5メートルを超えるくらいだったのに対して、10メートルを優に超えていそうな程だ。


 それに体格も全然違う。イベントワイバーンはしなやかな感じのフォルムだったけど、このワイバーン、しなやかさはあるけれどそれ以上に表皮がごつごつしていて力が強そうな見た目なのだよね。


 何と言うか、イベントの時のワイバーンが幼体でこのワイバーンが成体みたいな感じ? そう考えるとなんかしっくりくるかもしれない。


 私が後ろに居ることに気付き、ワイバーンはまた体の向きを変え始める。


「うおおおっ!!」


 するとそれを隙と見たのか、ワイバーンを挟んだ方向から大きめの剣を持ったプレイヤーがワイバーンに向かって近付いて来ているのが見えた。


 漁夫の利狙いにしてはタイミングが早い気が。もしかして攻撃できそうだったから飛び出して来ただけなのだろうか。


 そのプレイヤーは一気に距離を詰め、ワイバーンへ剣を叩きつけるように振り下ろした。


「よっしゃ! これうべぁっ!?」


 攻撃を当てたことでヘイトを稼いでしまったのか、それともただの偶然かそのプレイヤーはワイバーンの尻尾による攻撃を受け、一撃でポリゴンに変わってしまった。


 尻尾による攻撃が強過ぎる。


 あのプレイヤーは、今まで出てきていなかっただろうからHPは減っていなかったはず。防御していなかったとはいえ、一撃で倒せるほどの攻撃力があるのは運営が調整失敗しているのではないだろうか。


 あのプレイヤーがヘイトを奪ってくれたら嬉しかったのだけど、倒されてしまったためワイバーンの狙いはまた私の方へ向いた。


 このままの距離だとまた突進攻撃に移ってしまうので、ワイバーンの死角に入るように移動しながら距離を詰める。


 そして、ある程度距離を詰めたところで、あのプレイヤーの二の舞にならないように、尻尾による攻撃や翼腕による攻撃が当たらない、一定以上の距離を保ちながらワイバーンに攻撃を加えていく。


 ブラッドウェポンで背中や翼腕の付け根を狙って攻撃していく。

 正面を避けるように移動しているので首や頭に攻撃を当てることは出来ていないけれど、ダメージはそこそこ稼げている。


 死角に入りながら攻撃をし続け、それにより少し余裕が出来たので、ワイバーンのHPを確認したところ13000を切るくらいにはダメージを与えられている事がわかった。


 そろそろ特殊行動が来るかもしれないけれど、気にしたところでどのような物が来るのかがわからない以上、気にしても仕方がないと判断して攻撃を加えていく。



「グギャアアアッ!!!」


 ワイバーンのHPが半分を切ったのか、ワイバーンがいきなり叫び声をあげて翼腕を振り上げた。


 直前までブラッドウェポンによる攻撃をしていたため、振り上げた翼腕に当ってしまい、元となっていた人工血液が弾け飛んで完全にロストしてしまった。


「うぇ!?」


 想定外に武器がロストしてしまったため、変な声を上げてしまったけれど、それどころではない。


 ワイバーンは振り上げた翼腕を振り下ろすと同時に飛び上がり、真横に居る私目掛けて足による攻撃を繰り出してきたのだ。


「シャドウダイブっ!」


 人工血液がロストしてしまった衝撃で一瞬反応が遅れてしまったけれど、ギリギリシャドウダイブによる回避が間に合った。


 ワイバーンは攻撃の後、そのまま空へ飛び上がったようだ。


 このまま影の外に出るとワイバーンの真下に出てしまうので、シャドウエスケープを使い少し離れたところで影の中から出る。


「ギャオァァッ!!」


 影の中から出た瞬間、ワイバーンが叫び声を上げた。すぐにワイバーンを見ると私に向けてブレスのような物を放っているところが見えた。


 なんで私が出て来る場所がわかったのか、という疑問はあるけれど、このままでは躱すことが出来ない。

 シャドウダイブを使うにしても、クールタイムの関係ですぐに使うことが出来ない。それにこの前のアップデートの際にシャドウダイブに修正が入ってしまい、少しだけどその時間も伸びてしまった。どうあってもこの回避方法は使えない。


 向かって来るブレスのサイズからして急いで横に避けたところで躱しきれない。


 そう判断して、私は咄嗟に腰に下げてある物に手を伸ばした。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 腰…たしか水筒と短剣しかなかったような…いやまてよ?宵闇の短剣には確か魔法切断能力がついてたはずだ、そして今は夜、さらに相手の攻撃はブレス、そういえばブレスって魔法攻撃なのか?ついでに魔法攻…
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