表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【複数ジャンル】短編・完結作品

ローズお姉さまのドレス

 最近のルイーゼは少しおかしい。


 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。

 話し方もお姉さまそっくり。

 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。


「キャサリン、もっと姿勢を良くして。背筋をすっと伸ばして、スープのスプーンはまっすぐにお口に入れるのよ。たらたらとこぼれてしまわないように」


 わたしにお小言をくれるくせに、ルイーゼ自身は袖に手が埋まっているし、ウェストを布ベルトで絞めても身頃の部分が余ってとても不格好。


(ご自分の、身の丈に合う服を着たほうが良いのではなくて?)


 よほど言ってあげようかと思ったのだけれど、ルイーゼを見るたびにわたしのお母さまが悲しい顔をして首を振る。


「ルイーゼはきっと、ローズお姉さまのことが忘れられないのよ。とても傷ついているの。優しくしてあげて」


 ローズお姉さまにはここのところお会いしていない。

 どこへ行ってしまったのかしら。


 * * *


 ローズお姉さまはお空の上よ。

 とても楽しそうに笑っているわ。

 だから私たちも泣いてはいけないの。


 * * *


 ルイーゼのローズお姉さまは遠く遠く、手の届かないところに行ってしまったのよ、とお母さまが言った。


「もう会えないの?」

「しばらくは会えないわ。だけどお姉さまのドレスを身に着けて鏡の前に立ったり、お姉さまの話し方をなぞってみると、そこにまだお姉さまがいらっしゃるように思えるのではないかしら。きっとルイーゼはお姉さまのお姿を探しているの。優しくしてあげて」


「はい、お母さま。わかりました」


 * * *


 以前は一日一回あるかないか。

 昨日は三回。

 今日は五回。

 いい傾向だと思うの。

 私はうまくやれるわ。


 * * *


 ルイーゼは今日もローズお姉さまのドレスを身に着けている。


“優しくしてあげて”

“はい、お母さま。わかりました”


 わたしはわかったふりをしていただけで、何もわかっていなかった。

 だから正直にルイーゼに聞いてみた。


「あなたはローズお姉さまを探しているの?」


 するとルイーゼは、驚いたように大きく目を見開き「ちがうわ! 全然ちがう!」と言った。


「ではどうして、お姉さまのドレスを身に着けて、お姉さまの言葉遣いを真似ているの?」


「それはね、私のお母さまが、お姉さまを探しているからよ。お姉さまの姿が見えなくなってから、ずっとお姉さまを探しているの。私のことも見えていないみたい。だからね、お姉さまになることにしたの。そうしたら、毎日少しずつ笑う回数が増えてきたわ。私、ずーっと記録をつけているのよ。お母さまが笑った『ローズの言葉』『ローズの仕草』『ローズのドレス』『ローズの髪型』大丈夫、私はうまくやれているわ」


 ルイーゼの表情は自信に満ちて、きらきらして見えた。

 わたしのお母さまが言う「傷ついているの。優しくしてあげて」は的外れなのではないかしら。

 だけどわたしは用心の為に、もう一度確認してみることにした。


「ルイーゼがローズになってしまったら、ルイーゼはどこに行ってしまうの?」


 ルイーゼは遠くを見て、少し考えてから言った。


「お母さまがローズを探さないで済むようになったら、帰ってくるわ。このドレスが体にぴったりする頃かもしれない。だけどもし、(ルイーゼ)が帰ってこないようだったら。そのときはあなたが探して」


“優しくしてあげて”

“はい、お母さま。わかりました”


 わたしは急いで頷いてみせた。

 それがルイーゼに「優しくする」ことになるのなら、絶対にそうすると誓いを胸に。


「わかったわ。だけどそんなに長いことルイーゼがいなくなってしまうの、わたしはとても不安だわ。わたしの友達はローズお姉さまではなくルイーゼなのだし、わたしの前では今まで通り、ルイーゼでいてくれないかしら。あなたはうまくやれているもの、少しくらいルイーゼに戻っても大丈夫よ」


 ルイーゼは大きな目をまたたかせて、涙を溢れさせた。

 自分では、自分が泣いていることにも気付いていないよう。

 唇に笑みを浮かべて、わたしの目を見て言った。


 ありがとう。

 そうさせていただくわ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 着想が素晴らしい! [気になる点] 『童話』『探し物』という企画でこのアイデアは素晴らしいと思いました! だいたい『温かくてほっこりした』話を書こうとすると思うんですよ。この着想はなかなか…
[良い点] 冒頭のルイーゼの不可解な行動から、不穏な真相・結末が過りましたが、少女達の心温まるラストで心地よく裏切られました(*´ω`*) じゃっかんの切なさが滲んでくるのもまたいいですね。 ルイー…
[良い点] 主人公はルイーゼのような気がしてたんですけど、何度か読むうちに、キャサリンの方だと分かりました。 キャサリンはあまり動じない賢い子なので、このままのお話でキャサリンが少年だったらいいなあ……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ