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第5話

 トウバに肩を貸したシルファヒンは、会場を出るとすぐに控室にいたセバスを呼んだ。

「馬車を回してちょうだい」


 様子を察したセバスが馬車を回しに行った。

 守衛が足元を照らすように光の術式を使ったランタンを貸してくれる。

 トウバは肩で息をしながら、苦しそうだ。

 ほどなく馬車が来て二人で乗りこむ。


「どちらへ、帰ればいいでしょうか?」

「……ミナヅキへお願いします」


 シルファヒンは、軍服の胸元を大きく開けたトウバに少しドキドキしながら、隣に座り背中を優しくなでている。

「?」

 トウバがぜえぜえと息の粗さが止まらない。

「まさか」

 守衛に渡されたランタンを消した。

 馬車の中は真っ暗になったが、トウバの呼吸は落ち着いた。

 魔術式のランタン!?

 うす暗い馬車の中、背をさすりながらトウバの手をしっかり握った。


 ミナヅキに着くと、イナバと体格の良い操縦士のオルドが迎えに来た。

 トウバを渡しながら、晩餐会で起こったことを簡単に説明する。


「ちょっと、吐いてくるか?」

 トウバはオルドに連れられて行った。


「送ってくれてありがとうございます」

「何かしてくるとは思っていましたが、魔術式のシャンデリアまで用意するとは……」

 顎をさすりながらイナバが言う。

 

「……明日また来ます。詳しい事情を教えてください」


「直接、トウバ本人から聞いてやってください」

 イナバは、シルファヒンに頭を下げた。


 馬車の前でシルファヒンは、セバスを呼んだ。

 守衛に渡されたランタンを点ける。

 二人とも魔術酔いのような感触を受けた。

 ハーフエルフは、人より魔術に対する感覚が鋭い。


「セバス。このランタンを詳しく調べてちょうだい」


「かしこまりました」



 その夜の王宮の一室、


「くそう。くそう。あの女、僕の手を叩きやがった」

 酒に入ったグラスを壁に投げつける。

 ベットに横たわっていた裸の女性二人が、怯えた目でキバを見る。


「でも、今頃は例のもので恥をかいているだろうさ」

 昏い笑みを浮かべる。

 

 キバが、シルファヒンを初めて見たのは、彼女が6歳の時だった。

 一目で欲しいと思った。

 しかし、隣国の王女には簡単に手が出せない。

 しかも、この国に訪れるたびに、彼女の視線の先にはトウバがいた。

 今回、子飼いの空賊にエクセリオンを襲わせたのはキバである。

 シルファヒンを捕まえて連れてこさせるつもりが、トウバが助けることになった。


「トウバめ。あの時殺しておけばよかった」

「出ていけ」

 ほっとした表情で女性二人が急いで出ていく。

 出て行ったのを確認してから、鍵付きの引き出しから、”開いた本を逆さにした絵”のついた薬瓶を出す。

 二錠出して飲み込んだ。

 すぐに恍惚とした表情を浮かべ、近くにあった椅子に座り込んだ。


 

 次の日、トウバとシルファヒンは、ミナヅキのミーティングルームにいた。


「昨日はありがとうございます」 

 

「お体は大丈夫ですか?」


「大丈夫です」


「……四年前に何が起きたか、詳しく教えてください」


「わかりました」

 トウバが話始める。


「四年前、士官学校で、将来の艦長候補として学んでいました」


 常に首席で、優秀な成績を残していたことを、シルファヒンは知っている。


「士官学校の最後の訓練は、魔術式ジェットの高速巡行訓練でした」

「魔術式ジェットの起動を指示した瞬間でした。いきなり気分が悪くなって、目の前が暗くなり、床に吐いていました」

「その後はあまり覚えていません。騒音と衝撃。人の叫び声。右腕に走る激痛。右腕は折れていました」

「後で知ったのですけど、自分が指示出来ず訓練艦は墜落したんだそうです」

「幸い、死者は出ませんでしたが、重傷者は多数出ました」

「そして責任を取る形で、王族籍をはく奪されました」

「今は大商人である母の実家の”ゲッコウ”を名乗っています」

 無表情に、淡々と話してくれた。


 シルファヒンは、トウバが静かに泣いているような気がして、その顔を自分の胸にかき寄せ、抱きしめた。


 その頃、別の部屋でイナバは、セバスティアンと会っていた。


「…………協力してほしい」

 一言、言った 

 整備士であるイナバの裏の顔は、トウバ付きのオンミツ衆のカシラである。


「…………わかりました」

 王女付きの執事であるセバスティアンの裏の顔は、シルルート王国諜報部”影の手”の元長官である。 

 一言、返した。


 お互いの裏の顔は分かっている。


 イナバが、静かに頭を下げた。

某秘密結社が出てきました。

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