第4話
本国から命令を受けたミナヅキは、エクセリオンを曳航しながら、カラツ空軍基地を目指す。
カラツ空軍基地は、東方最大の空軍基地で、竜騎士も多数配置されている。
基地に近づくと、三騎のライトニングドラゴンの小隊が、出迎えてくれた。
光信号で「ありがとう」と送ると。「歓迎する」と帰ってきた。
丁度、外部廊下に出ていた、シルファヒンとメルルーテが手を振っている。
基地に留まって居る間、武骨な空母にお姫様と侍女が乗っていると、見に来る隊員が絶えなかった。
エクセリオンは、基地の格納庫にしまわれ、三人だけが王都に向かうことになる。
◆
約三日で王都”レンマ”についた。
約200年前に、異世界人だったレンマ王国、初代国王”タチバナ・レンマ”が開いた都である。
王家の血を引くものに、初代国王の特徴の黒髪、黒い目が現れる。
次の日、王に謁見することになった。
二人は、謁見の間でタウバ王の前に跪く。
「シルファヒン王女並びに他二名、シルンよりお連れしました」
「ご苦労。シルファヒン王女。この度は大変でしたな」
「ありがとうございます。当地の軍の方に大変よくしてもらいました」
「今夜、晩餐会が開かれる。ぜひ参加してほしい」
「ありがとうございます。参加させていただきます」
「エスコートを、トウバ……艦長にお願いしたいのですが。よろしいでしょうか」
「……好きにすればよい。以上だ」
最後まで親子らしい会話は無かった。
二人は、城の休憩室に移動した。
「シルファヒン様。私は王宮に入れる立場ではありません」
「なぜです。トウバ・レンマ第三王子」
「それは……」
「おや。こんな所に、"自艦墜とし”がいるぞ」
振り向くと男が立っていた。
どことなくトウバに似た、黒髪、黒い目だが、厭らしさがにじみ出ていた。
キバ・レンマ。この国の第二王子である。
ちなみに飛行艦乗りにとって”自艦墜とし”は最大の侮辱である。
「兄上」
「お前に兄上など呼ばれる筋合いはない。王族籍をはく奪されているではないか」
「それよりも、シルファヒン王女、晩餐会のエスコートを、そこの男に頼んだそうだが」
「そんな男の代わりに、私がエスコートするべきだ」
シルファヒンを上から下までなめるように見て、下卑た笑いを浮かべた。
「結構ですっ」
不快な視線に耐え切れず叫ぶように言った。
トウバは、少佐の身分で十分に晩餐会には出られる。
「兄上っ」
トウバは、シルファヒンをキバの視線から隠すように立つ。
そして、キバの目を睨み返した。
「ちっ。また吐かないように気を付けるんだな」
悪態をつきながら去っていった。
「ごめんなさい。突然こんなことを言い出してしまって」
「いえ。あの兄は何をするかわかりません」
「夕方迎えに参ります」
◆
シルファヒンは、トウバにエスコートされて晩餐会に出た。
四年前ならトウバの周りは、言い寄る貴族の令嬢で一杯だった。
今は、侮蔑の目が7割、同情や憐れみの目が3割と言った所である。
「四年前に、何があったの?”自艦墜とし”って」
一通り外交的な挨拶が済んだ後、キバが近づいてきた。
いつの間にか周りの人も距離を取っているようだ。
「こんな男の近くにいてはいけませんね」
「シルルートまで僕の飛行艦で送りましょうか?」
「結構ですっ」
今の言葉にゾッとする。
「兄上。他国の王家の方にこれ以上の失礼は」
トウバが低い声で言った。
「黙ってろ。”自艦墜とし”がっ」
「そうだ。今夜のために用意したものがあるのですよ」
「上を見てください。最新の魔術式シャンデリアです。珍しいものですよ」
魔術式の製品は、技術自体が出来立てで、ほとんど世の中には出回っていない。
「兄上っ」
「点灯しろ」
「えっ」
シルファヒンは、シャンデリアが点けた瞬間、魔術酔いに似た感触を受ける。
魔封じの技術で安全になっているが、本来”魔術”は精神に多大な影響を及ぼす大変危険なものである。
「ぐっ」
トウバの変化は劇的だった。
顔色は一気に悪くなり、ふらふらと今にも倒れそうになる。
吐き気があるのか手に口を当てた。
典型的な”魔術酔い”の症状だ。
キバがその変化をニヤニヤしながら見ている。
「もう少しで吐くかもしれませんよ。こちらへ」
「トウバッ」
シルファヒンは、つかんできたキバの手をピシャリと叩き落とした後、トウバに肩を貸して会場から出た。
キバは会場から出て行く二人を、憎悪と嫉妬の目で睨みつけていた。
白眉山脈を超えた、ハナゾノ帝国の初代女皇帝も異世界人。