第32話
”交渉”をマイルドに変更しました。
(対価ね~、シルルートとは友好国だし、クーデターで大変なのよね)
ローズは、”聖女”が入れてくれた紅茶を飲んだ。
最近”聖女”は紅茶にはまっているのだ。
(金銭を要求するのは嫌らしいし、いらないとも言えないし)
(そうだわ。 5日くらい休みが取れるわね)
「そういえば、”クイーン・オブ・シルルート”でしたっけ」
「はい~」
「美しい艦ね」
「5日くらい(私を)乗せてくれないかしら?」
ローズは、皇都”フラワーガーデン”の執務室を3階にするほど、高いところが好きだ。
”テンドロキラム”を手に入れてから、空の上で執務をする時間が増えた。
「「「なっ(~)」」」
(……対価は、シルルートの技術……!?)
”クイーン・オブ・シルルート”は、
カナード翼と、可変後退翼。
ライフル砲身に、回転砲台。
異世界で言うところの”ベルヌーイの法則”に独自にたどり着きかけている、艦体の形状。
軍事機密の塊である。
(5日も”飛行艦の専門家”に調査させるの~?)
「?」
(何か顔が強張ったわね?)
「ハナゾノ帝国とシルルートは、友好国です~、二日で……」
「そういえば……」
「メルル―テ・トライオン中佐、貴女の操艦技術は素晴らしいものですってね」
(タンディ”タンデライオン第5皇女”に頼まれてたのを忘れるところだったわ)
「はい~」
「今度、”カティサーク工廠”とうち(ハナゾノ帝国)で小型の”飛行艇”を共同開発するの」
「テストパイロットとして、手伝ってくれないかしら」
「「「!?」」」
これを受けると、レンマ、ハナゾノ、シルルート三国の国際プロジェクトになる。
成功すると少なくない利益が、シルルートに入ってくるはずだ。
「う~、本国に聞いてみないとわかりません~」
「……それもそうね、良い返事を待っているわ」
あっさりと返事をする
「それと、”調査”は二日でお願いします~」
メルル―テは、ストレートにお願いした。
(はて、調査?)
「?、いいわよ、お互い忙しいですものね」
ニッコリと笑う。
(本命は”飛行艇の共同開発”ですか……)
セバスがつぶやいた。
”新型飛行艇の三国共同開発”が決定した瞬間である。
◆
「が、頑張りました~」
普段着である侍女服に着替えた、メルル―テが声を上げた。
「大変だったね」
しみじみとイナバが言う。
場所は”エクセリオン”内のラウンジ。
ローズは、二騎の竜騎士と共に飛び去っている。
珍しく弱っているメルル―テをイナバが見て、
「メルさん、頑張ったご褒美です」
オンミツの体術をフルに駆使して、ふんわりと、メルル―テをお姫様抱っこした。
「ん~」
そのままその場で二回ほど回り、ソファーに、横抱きのまま座る。
イナバの膝に、小柄なメルル―テが横に座る形となった。
メルル―テは幸せそうに微笑みながら、イナバに頬ずりをした。
セバスが気を利かして、紅茶とクッキーを用意してくれる。
「お姫様、どうぞ」
イナバがメルル―テの口元にクッキーを運ぶ。
ボッとメルル―テの顔が真っ赤に染まった。
メルル―テはたたき上げの軍人である。
お姫様扱いは初めてだ。
「あう~」
イナバは、恥ずかしそうに開ける小さな口にクッキーを運びながら、可愛すぎる彼女を膝の上に抱きつづけた。
以後、イナバはこの時だけはオンミツとしての体術を出し惜しみせず、二人でお茶をするときの定番スタイルとなっていく。
その日はその場で夜を明かし、次の日に、魔術学院のある都市”サウスポット”に向かうことにした。




