第31話
”交渉”をマイルドに変更しました。
”カティサーク工廠”で改修を終えた”エクセリオン”はそのまま南下し、ハナゾノ帝国に通じる、”白眉山脈”のルートを飛んでいた。
「地図、かわりに見ようか?」
メルル―テは正方形に切ってクリップで束ねた、”ルート”の地図を片手に”エクセリオン”を飛ばしている。
「ありがと~」
メルル―テが、手に持った地図をイナバに渡す。
”白眉山脈”の渓谷に沿って飛ぶ”ルート”は複雑だ。
時には迷って遭難する飛行艦もいる。
それでも、真っ直ぐ、山脈を越えるよりは楽なのである。
「次の角を左だよ」
「分かった~」
メルル―テはゆっくりと”エクセリオン”を左に曲げた。
”ルート”を慎重に飛ばし、白眉山脈を抜けハナゾノ帝国に入った。
◆
少し離れた所に、ミスリル鉱山がある、鉱山都市”ロックポット”が見えた。
約10年位前に”タンデライオン皇女”に、再発見されたミスリル鉱山の”ミスリル”は、初期の術式ジェットの核心部品に多用された。
ちなみに、”タンデライオン皇女”は、テンドロディウム級ネームシップ、”テンドロディウム”の持ち主である。
皇位継承権争いの際、姉妹艦、”テンドロキラム”の購入を”ローズ”に譲渡した。
◆
「メルさんっ」
「ん~」
雲の合間から黒と赤の2騎の竜騎士と、紅い飛行艦が舞い下りてくる。
「テンドロキラム!」
「テンドロキラム~!」
ジェットを装備せず、2重反転プロペラを左右のティルトローターに装備した、”テンドロディウム級。
艦尾に、帆船の艦長室のように見える執務室を備える。
艦体各所に約10年間使い込まれた、年季と風格を感じさせた。
艦体の横に大きく、ハナゾノ帝国の紋章と赤い薔薇の紋章が描かれている。
「ハナゾノ帝国の皇帝は、空から舞い下りてくるというのは言葉通りの意味だったんですな」
セバスが、紅い飛行艦を見ながら言った。
「ハナゾノ帝国皇帝”ローズ・ロンリコ”よ。 シルルートの艦ね?」
無線から聞こえてくる。
「はい~。シルルート王国近衛隊所属”エクセリオン”艦長、メルル―テです~」
(皇帝本人~!?)
「了解よ。 ついてきなさい」
周りに何も無い平原に、”テンドロキラム”は着地した。
「ここなら誰にも気にせず話が出来るわよ」
近くに、”エクセリオン”を着地させた。
風もなくいい天気である。
上空を竜騎士が周りを警戒しながら飛んでいる中、飛空艦の外の平原に、机と椅子が並べられ、お茶の用意がされた。
ハナゾノ帝国皇帝との交渉が始まる。
◆
メルル―テは、普段着の侍女服から、オリーブグリーンをした式典用の軍服に着替えている。
タイトスカートが新鮮だ。
肩には中佐を表す階級章、胸には女王の代理を表す”王印”がつけられる。
イナバは、オーソドックスなスーツ、セバスはいつもの執事服である。
椅子には、メルル―テが座り、その後ろに男二人が立った。
正面には、赤い髪に、作りはいいが実用重視のシンプルなドレスを着た”ローズ”が座っている。
(確か30代前半だったはず~)
その後ろに、野戦仕様の鎧を着た180センチくらいの30代の男の騎士が立っている。
胸に赤い薔薇の徽章、”ローズ”所有の”紅薔薇騎士団”だ。
その隣に、庶民っぽい30代女性が、大柄な騎士に寄り添うように立っている。
白い司祭服の胸には金糸で”ベル”の紋章が入れられている。
夫婦なのだろうか、隣の騎士に時たま見上げるように、ふんわりと笑いかけていた。
(ベルッ!? ”福音を鳴らす者っ”、”聖女っ”)
福音を鳴らす者を意味するベルの紋章を着けられるのは、”竜教会”に認められた”聖女”だけである。
”交渉”は2つ。
亡命している、シルルート王家の人間の保護。
シルルート空軍、軍用艦(”クイーン・オブ・シルルート”と”エクセリオン”)の国内の移動および飛行許可。
(……どのような対価を求められるのだろう……)
セバスは、ゆったりと座っている”ローズ”をもう一度見た。




