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第19話

 エクセリオンの修理が終わってから、メルル―テの機嫌が良い。

 シルン地方の駐屯地の建物の近くに、エクセリオン用に仮の駐艦場を作った。

 ジェットの慣らしついでに、気持ちよさそうに、シラフル湖の上空を飛ばしている。

 村に急病人が出たときは、


「すぐいくよ~」

 と”エクセリオン”を飛ばしてくれた。

 冬の間に、シルン地方で”ミナヅキ”と同じくらい有名な艦になった。



 冬の寒さも緩んで春が近づいてきた。

 ”ベルゲムーン”が”カティサーク工廠”にジェットを届けて、帰ってきた。

 ”エクセリオン”と”ベルゲムーン”がシルルートに帰る日の前日に、送別会を開く。

 すっかり仲良くなった乗組員たちは、しんみりとした雰囲気で酒を飲みかわし、また会いに行くと約束し合っていた。

 泣いてしまったシルファヒンを、トウバが慰めている。

 国境まで2艦を”ミナヅキ”で見送ることが決まった。


 次の日の朝、3艦は並んでシルルートへ出発した。

 国境ギリギリまで一緒に飛んで2艦を見送る。

 あと少し飛ぶと”白眉の花瓶”である。

 ”ミナヅキ”は180度回頭し、帰路についた。



 帰路のついてしばらく飛んだ。


「寂しくなりますね、艦長」


「ああ」


「艦長、前方から飛竜と思われるものが急速接近中」

 伝声管からナンバの声がする。


「減速、艦前方を注目」

 艦前方から小型の荷竜が飛んできて、横をすれ違う。

 すれ違いざまに、手に持った弓でブリッジ横の外壁に矢を放った。

 一瞬、黒髪が見えた。

 ”吸着”の術式で金属の壁に矢が引っ付く。 

 矢を放った後、艦の下に消えていった。

 矢には、たたんで括り付けられた手紙がついている。

 手紙には


 (空賊が白眉の花瓶に罠を張った。青い飛行艦動く)


 とあり、端には複雑な”花押”が押されていた。


「シルッ」

 トウバはギュッと目をつぶった。

 トウバは、ブリッジにイナバを呼んで手紙を見せる。

 手紙を見た後、イナバは黙って頷いた。


「分かった」


「全艦に告げる」

「空賊が、”白眉の花瓶”に罠を張ったとの情報が入った」

「本艦は、2艦の救出に向かいたいと思う」

「しかし、国境を無断で侵犯することになる」


「……敵は、第2王子キバである。終わったあと()()される危険がある」


「艦を降りたいものは、近くの村に下ろすので、各班相談してくれ」


 しばらくして伝声管から歌が聞こえてきた。


 ”行くは大空。雲海を” 


 ”蹴立てて進む、我が雄姿”


 ”心に宿るは、(まこと)の義”


 ”我らミナヅキ、いざゆかん”


「行こう、艦長」

「また会うって約束したんだ」

「……下艦希望者なし」


「180度、回頭っ、全速前進っ」


 ”ミナヅキ”は”白眉の花瓶”目指して全速で飛ぶ。



 ”エクセリオン”と”ベルゲムーン”は”白眉の花瓶”に入った。


「寂しくなりますな」


「……また会いに行きます……」

 シルファヒンが俯いた。


 ”ベルゲムーン”が空中で停止し、シルルート方面の入口に艦を向ける。


「……シル。コンバットフォーメーションを取りなさい~」


 顔を上げたシルファヒンは、シルルート方面の入口を、大量の樽爆弾を吊るした、古い補給艦がふさいでいるのを見た。

 レンマ方面の出口も、浮上してきた補給艦に塞がれる。


「シルファヒンン。君が僕のものにならないからああ」

「トウバと恋人になるからああ。殺してあげるよおお」

 無線からキバの声がする。


「上空、テンドロディウム級、3~。青空級、2~。白雲(しらくも)級、1~」

 メルル―テは冷静に周りの状況を見る。

 青空級は、白雲(しらくも)級の術式ジェット版であり、形はほぼ同じである。

 青空級と、白雲(しらくも)級の艦首下に、ジャックナイフのようなラムエッジを出した。


「先生。スロットルコントロール回します」


「セバス~。パイルバンカーの発射タイミングは私に合わせて~」


「了解」


 ヒュルルルル、ドーーン


 上空のテンドロディウム級3艦による、樽爆弾の爆撃が続く。

 ”エクセリオン”が上空に上がろうとすると、すかさず青空級2艦が、邪魔をしてくる。

 ”ベルゲムーン”の近くに樽爆弾が爆発し、表面構造物を吹き飛ばした。


「シタデル構造は丈夫だ。この艦を置いて逃げろ」

 無線からドワイトの声がする。

 

「出来るわけないでしょうっ」

 シルファヒンが答えた。

 狭い”白眉の花瓶”の中を”エクセリオン”は、マルーン湖に白い水柱を立てながら逃げ回った。


「つうう~」

 爆導柵に繋がれた樽爆弾2発が”エクセリオン”の近くで同時に破裂した。

 割れたガラスが、メルル―テの腕に傷をつける。


「先生っ」


 ドドドドオオオオオオオン


 その時、レンマ方面の出口から、巨大な爆発音が聞こえてきた。



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