第19話
エクセリオンの修理が終わってから、メルル―テの機嫌が良い。
シルン地方の駐屯地の建物の近くに、エクセリオン用に仮の駐艦場を作った。
ジェットの慣らしついでに、気持ちよさそうに、シラフル湖の上空を飛ばしている。
村に急病人が出たときは、
「すぐいくよ~」
と”エクセリオン”を飛ばしてくれた。
冬の間に、シルン地方で”ミナヅキ”と同じくらい有名な艦になった。
◆
冬の寒さも緩んで春が近づいてきた。
”ベルゲムーン”が”カティサーク工廠”にジェットを届けて、帰ってきた。
”エクセリオン”と”ベルゲムーン”がシルルートに帰る日の前日に、送別会を開く。
すっかり仲良くなった乗組員たちは、しんみりとした雰囲気で酒を飲みかわし、また会いに行くと約束し合っていた。
泣いてしまったシルファヒンを、トウバが慰めている。
国境まで2艦を”ミナヅキ”で見送ることが決まった。
次の日の朝、3艦は並んでシルルートへ出発した。
国境ギリギリまで一緒に飛んで2艦を見送る。
あと少し飛ぶと”白眉の花瓶”である。
”ミナヅキ”は180度回頭し、帰路についた。
◆
帰路のついてしばらく飛んだ。
「寂しくなりますね、艦長」
「ああ」
「艦長、前方から飛竜と思われるものが急速接近中」
伝声管からナンバの声がする。
「減速、艦前方を注目」
艦前方から小型の荷竜が飛んできて、横をすれ違う。
すれ違いざまに、手に持った弓でブリッジ横の外壁に矢を放った。
一瞬、黒髪が見えた。
”吸着”の術式で金属の壁に矢が引っ付く。
矢を放った後、艦の下に消えていった。
矢には、たたんで括り付けられた手紙がついている。
手紙には
(空賊が白眉の花瓶に罠を張った。青い飛行艦動く)
とあり、端には複雑な”花押”が押されていた。
「シルッ」
トウバはギュッと目をつぶった。
トウバは、ブリッジにイナバを呼んで手紙を見せる。
手紙を見た後、イナバは黙って頷いた。
「分かった」
「全艦に告げる」
「空賊が、”白眉の花瓶”に罠を張ったとの情報が入った」
「本艦は、2艦の救出に向かいたいと思う」
「しかし、国境を無断で侵犯することになる」
「……敵は、第2王子キバである。終わったあと粛清される危険がある」
「艦を降りたいものは、近くの村に下ろすので、各班相談してくれ」
しばらくして伝声管から歌が聞こえてきた。
”行くは大空。雲海を”
”蹴立てて進む、我が雄姿”
”心に宿るは、正の義”
”我らミナヅキ、いざゆかん”
「行こう、艦長」
「また会うって約束したんだ」
「……下艦希望者なし」
「180度、回頭っ、全速前進っ」
”ミナヅキ”は”白眉の花瓶”目指して全速で飛ぶ。
◆
”エクセリオン”と”ベルゲムーン”は”白眉の花瓶”に入った。
「寂しくなりますな」
「……また会いに行きます……」
シルファヒンが俯いた。
”ベルゲムーン”が空中で停止し、シルルート方面の入口に艦を向ける。
「……シル。コンバットフォーメーションを取りなさい~」
顔を上げたシルファヒンは、シルルート方面の入口を、大量の樽爆弾を吊るした、古い補給艦がふさいでいるのを見た。
レンマ方面の出口も、浮上してきた補給艦に塞がれる。
「シルファヒンン。君が僕のものにならないからああ」
「トウバと恋人になるからああ。殺してあげるよおお」
無線からキバの声がする。
「上空、テンドロディウム級、3~。青空級、2~。白雲級、1~」
メルル―テは冷静に周りの状況を見る。
青空級は、白雲級の術式ジェット版であり、形はほぼ同じである。
青空級と、白雲級の艦首下に、ジャックナイフのようなラムエッジを出した。
「先生。スロットルコントロール回します」
「セバス~。パイルバンカーの発射タイミングは私に合わせて~」
「了解」
ヒュルルルル、ドーーン
上空のテンドロディウム級3艦による、樽爆弾の爆撃が続く。
”エクセリオン”が上空に上がろうとすると、すかさず青空級2艦が、邪魔をしてくる。
”ベルゲムーン”の近くに樽爆弾が爆発し、表面構造物を吹き飛ばした。
「シタデル構造は丈夫だ。この艦を置いて逃げろ」
無線からドワイトの声がする。
「出来るわけないでしょうっ」
シルファヒンが答えた。
狭い”白眉の花瓶”の中を”エクセリオン”は、マルーン湖に白い水柱を立てながら逃げ回った。
「つうう~」
爆導柵に繋がれた樽爆弾2発が”エクセリオン”の近くで同時に破裂した。
割れたガラスが、メルル―テの腕に傷をつける。
「先生っ」
ドドドドオオオオオオオン
その時、レンマ方面の出口から、巨大な爆発音が聞こえてきた。