第18話
”エクセリオン”の修理が終わったと報告を受けた。
”ミナヅキ”はシルファヒン達を乗せ、カラツ基地に向かう。
「ふふふ~ん~」
久しぶりに、”エクセリオン”に乗れるとメルル―テが上機嫌である。
事前に、交換したジェットの調子も見たいのでメルル―テの”模範飛行”の許可を、カラツ基地に申し込んだ。
シルルート空軍のウルトラエースの”模範飛行”がタダで見えるとして、二つ返事で了承される。
”ミナヅキ”が、カラツ基地に着いた次の日”模範飛行”を行う。
◆
カラツ基地の滑走路に、”エクセリオン”が駐艦している。
「シル。スロットルのコントロールをマニュアルにして~」
「はい。先生」
シルファヒンが、集中魔術式制御盤でスロットルをマニュアル化した後、下艦する。
「エンジンスタート~」
「こちら”エクセリオン”カラツ管制、離陸許可をおねがいします~」
「こちら、”管制”いつでもどうぞ」
「了解です~」
”エクセリオン”の搭乗ハッチを閉じ、ゆっくりと上昇させる。
そのまま、交換したジェットを確認するように、艦を上下に動かしながら、ゆっくり前進させた。
ランディングギアを収納する。
滑走路の周りは、”模範飛行”を一目見ようと人だかりが出来ている。
侍女服を着たメルル―テが、立体的に配置されたガラス窓に、飛び出すようにつけられた椅子から、軽く手を振った。
「行きますよ~」
「ドンッ」
と言う音と共に、急発進。
滑走路の半分くらいの所で、艦を垂直に立てた。
そのまま、惰性で滑走路の端まで行き、垂直のまま動きを止める。
「おおおおおお」
歓声が上がった。
ゆっくりと上昇しながら、艦の横方向に5回ロールさせる。
しばらく上昇した後、超低空で宙返りを3回した後、上空へ上った。
「おおおおおおおおお」
その後、シャンデルやインメルマンターン、スプリットsなど思いつく限りの空中戦闘機動を、侍女服のロングスカートの裾を乱すことなく行った。
「おおおおおおおおおおお」
最後に滑走路上の低空で、フラットスピンで艦を水平方向に3回転程、回した。(フリスビーの様な動きである)
その後、ふわりと何事もなかったように、元の場所に着陸させる。
「すげえ。飛行艦であんな動き出来たんだ」
基地所属の飛竜乗り達が、驚きの声を上げていた。
”エクセリオン”の無線から聞こえていたメルル―テの鼻歌が、管制官の耳からしばらく離れなかった。
”ベルゲムーン”が壊れたジェットを乗せて、”カティサーク工廠”に出発したのを見届けて、”エクセリオン”は”ミナヅキ”と共に、シルン地方の駐屯地に帰って行った。
◆
ミャビは、キバの居室で、頭からワインを掛けられていた。
「き、聞いたぞ。奴とシルファヒンが」
「こ、恋人どうしになったと」
「い、いえ。そのようなことは」
ミャビが跪いて言う。
「邪魔をしろと言ったはずだ」
キバが空になったワインの瓶を上に向けた。
「ひ、飛行中の”ミナヅキ”には手が出せません」
「艦から降りたときは、ほぼ二人一緒で・・・あ」
「パアンッ」
ミャビは、キバにワインの瓶で頭を殴られ、瓶が粉々に砕けた。
「ひ、ひいいいい」
ミャビが悲鳴を上げながら、床を這って逃げる。
「一緒、いっしょだとお」
「きいいいいいいいいいい」
ハアハアと肩で息をする。
「殺せっ。奴を、いや二人とも殺せええええええ」
ミャビはふらふらと、カーテンに隠れた隠し通路に逃げ込んだ。
隠し通路の扉が閉じてから、
「フンッ」
何事もなかったように立ちあがる。
ペシペシと苛立たし気に尻尾を振った。
額に垂れてきた血を指でぬぐう。
「ニャット。ついに一線を超えたな」
通路を歩きながら言った。
◆
「仕事だ。今度は確実に沈めろ」
キバは王都の下層街にある、場末の酒場にいた。
ひとつのテーブルをガラの悪そうな男たちが囲んでいる。
「女のことはいいんですかい」
男たちのリーダーが言った。
「殺せっ」
「おっと。知ってるんですぜ。女がシルルートの王女様ってことは」
「……今まで通りの報酬じゃあ……」
男たちがニヤニヤ笑っている。
「貴様ら。飛行艦も用意してやっただろうがっ」
「いいんですぜだんな。……”魔薬”はこれからどうやって手に入れるんでしょうかねえ」
「くっ。分かったっ」
キバが懐から金貨の入った袋をテーブルに投げ出す。
「……帰りに襲え……」
「……白眉の花瓶に罠を……」
キバと空賊の密会の現場である。
◆
その頃ミャビは、キバの居室の隠し金庫を開けていた。
「あった」
書類には、4年前にトウバが乗った練習艦の払い下げ先が書いてある。
キバが影から手を回して、ろくに調査もされないまま払い下げられたのだ。
払い下げ先は、空賊と関係がある架空の商社である。
「中古の補給艦、2艦に大量の樽爆弾……」
同じ架空の商社に払い下げられていた。
「いやな予感がする……」
本当の主に報告した後、シルン地方に急いで戻った。