第17話
シルン地方は、雪で真っ白だった。
一度、駐屯基地によってから、”エクセリオン”の置いてある、カラツ空軍基地に向かう予定である。
シラフル湖に、巨大な飛行艦が2艦並んで浮いている。
艦が、シラフル湖から水を補給している間、2艦の乗組員たちが雪合戦を始めた。
マルーン湖の宴会から2艦の隊員は、すっかり仲が良くなっている。
イナバとメルル―テの投げる雪玉がすさまじく、二人だけ次元の違う戦いをしていた。
「こんなのどう?」
トウバは、雪でウサギを作り、シルファヒンを喜ばせていた。
水の補給を終え、2艦はカラツ空軍基地に向かって出発する。
◆
特に問題もなく、カラツ空軍基地に到着した。
今回も、竜騎士の出迎えがあり、”ベルゲムーン”の周りを珍し気に飛び回っていた。
早速、”エクセリオン”の修理に入る。
故障したジェットの交換と、艦全体の整備を行う。
故障したジェットを、レンマ王国の西方にある”カティサーク工廠”に輸送する。
そのため、シルルートに帰るのは、”春先”になった。
取り外されたジェットは”ベルゲムーン”に乗せて輸送することが決まる。
”春先”まで、”ミナヅキ”は本来の業務に戻った。
本国の許可を得て、シルファヒンたちも”ミナヅキ”と行動を共にすることになる。
「”ミナヅキ”の生活は快適なのですっ」
王都に来ることを誘われて、断った時のシルファヒンのセリフである。
◆
今までやっていたシルン地方の村の巡回を再開する。
オンセンの開放や、軍医による診察が大変喜ばれた。
「別の船が回って来てくれてたんだけど、オンセンがなくって~」
村のおばちゃんが、シルファヒンの肩をバシバシ叩きながら言う。
「で、トウバ艦長の彼女?」
「……はい」
シルファヒンが、顔を赤らめて恥ずかしそうに言った。
「艦長にもやっと春が来たんだね~」
おばちゃんが笑いながらシルファヒンの顔を覗き込む。
(えらい美人さんだね~)
「あ、そうそう。飛竜商人の薬屋が村々をこまめに回ってくれてたよ」
「えっと。ミヤコさんですか?」
「うん。そんな名前だったね」
冬だから(野菜など)あげるものがないと、残念そうな顔をした村人を残して”ミナヅキ”は村を後にした。
◆
「誰か、女の人、助けてくれ」
男性の軍医である”ウル”が大きな声を出した。
看護婦である”コノミ”も横にいるが人手が足りないらしい。
”ミナヅキ”がある小さな村に寄った時、村の若い妊婦が産気づいたのだ。
村の産婆は、別の村の妊婦の所に行っていた。
初産で早くなったようだ。
ウルは”軍医”であって”産婆”ではない。
出産の知識はあっても経験は少なかった。
「お湯を沢山沸かすのがよろしいかと」
じっと妊婦を見ていたセバスが言った。
セバスは、約150歳。
長い人生の中で何度か子供を取り上げたことがあった。
シルファヒンやメルル―テも含めた女性陣(6名)に的確な指示を出す。
出産は5時間に渡った。
「ほぎゃあ。ほぎゃあ」
生まれたての赤ちゃんが、元気な声を上げたとき、女性陣はお互いに抱き合って涙を流した。
産湯に入れた後母親に、赤ちゃんを
「首が座っていませんので」
セバスが抱き方を教えながら渡す。
若い父親が涙ぐんで母親の隣にいた。
手伝った女性陣も交代で恐る恐る赤ちゃんを抱っこしている。
村の産婆が帰ってくるのを待って報告をした後、村を後にした。
しばらく女性陣の男性を見る目が、妙に熱っぽかった。
◆
前回の巡視と違うところは、竜騎士が一騎、駐艦している事だ。
森の近くを飛んでいると、森の中から、緊急用の信号弾が上がった。
「右。信号弾、赤っ」
「何かが、何体かの何かに囲まれています」
伝声管から、ナンドの声がした。
「スクランブル。スクランブル。艦を緊急停止」
「ナンド、イナヅマ、出ます」
竜騎士が緊急発艦。
イナヅマが、飛竜甲板を力強く蹴りながら走って飛んだ。
森の中では、猟師の格好をした男が、”魔狼”に囲まれていた。
「来るな、来るなー」
足を怪我しているようだ。
しゃがみ込んで鉈を振り回している。
男のとどめを刺そうと飛び掛かった”魔狼”に、ナンドは落雷の加護を当てて吹き飛ばした。
そのまま、男の前に降り、”イナズマ”にライトニングブレスを放射線状に吐かせる。
何体かの”魔狼”に当たった。
「ギャンッ」
”魔狼”は怯えながら去って行った。
「大丈夫ですか?」
「助かりました」
その後、猟師の男を”ミナヅキ”に回収し傷の治療をして、男の村まで送り届けた。