第16話
2艦は、マルーン湖の氷を割らないように、ゆっくり着底する。
その日の夜、流石に外は寒いので、”ミナヅキ”の大食堂で、親睦会を兼ねた宴会が始まった。
50人くらいが入れるスカイラウンジのような作りで、ガラス窓の外には月明かりに照らされた、凍りついたマルーン湖が見える。
今回の目玉は、”ベルゲムーン”から持ち込まれた、ウイスキーの樽と、乗組員が作る”シルルート料理”である。
野菜多めのスープにソーセージが入った煮込み料理。
溶けたチーズを色々なものにつけて食べる料理。
切られて油で揚げられたジャガイモ。
ウイスキーには、生ハムと生チョコがつけられた。
シルルートの人向けに、レンマ王国の料理も作って並べた。
乗組員たちは思い思いに、親睦を深めている。
トウバとシルファヒンは、仲睦まじく過ごしているが、新婚夫婦を通り越して、熟年夫婦の雰囲気だ。
(二人の関係はまだ、手を繋いだだけなのだが)
イナバとメルル―テは、ちょっかいを掛けてきたり、冷やかしてくる乗組員をメルル―テが(時には物理で)排除している。
恋路のかかったハーフエルフにちょっかいを掛けるとは、命知らずである。
話の中で、”ベルゲムーン”にも、オンセン設備は完備されているようで、レンマ王国人がどや顔で胸を張っていた。(入浴の文化に誇りを持っている)
”ミナヅキ”の乗組員のほとんどが”ベルゲムーン”のオンセンに入りに行ったのは後の話である。
◆
翌日は、久しぶりに晴れた。
気温も上がった。
マルーン湖に釣りに行く者と、洗濯をする者の二つに分かれた。
”ミナヅキ”の飛竜甲板に、白いシーツや洗濯物が沢山ひるがえっている。
普段は、艦内に干すので、天日干しが気持ちがいい。
「ふふふ~ん」
シルファヒンが鼻歌交じりに、男物の服を干している。
遠慮するトウバから、強引に奪ってきたものだ。
シルファヒンは、空軍士官学校を卒業している。
トウバと共通の話題が欲しかったため進学したのだ。
基本、洗濯も含めて、自分のことは自分で行う。
飛行時間が足りていないが、”エクセリオン”を操縦することも可能である。
「あっ」
洗濯物から出てきたトランクスに、顔を真っ赤に染めて、大慌てで干した。
トウバとイナバとメルル―テは釣りに来ていた。
マルーン湖の氷にドリルで穴をあけて、小さな釣り竿で、ワカサギを狙う。
ドリルと、小さな釣り竿は、エクセリオンの整備班がベルゲムーン”で作ってくれた。
必要以上に出来が良い。
リーダーである”ドワイト”がこだわりぬいた作である。
道具がいいのか沢山釣れた。
シルファヒンが近くにおらず、少し寂しい思いをしたトウバである。
お昼ご飯は、釣れたてのワカサギのテンプラだった。
夕方、シルファヒンが、干していた洗濯物をたたんで、部屋の掃除、洗っていたシーツをつけてくれた。
天日干しのシーツが気持ちいい。
2度目の”セントウ”デートを敢行した。
◆
次の日の朝、2艦は、”白眉の花瓶”のレンマ王国側の出口を通って、レンマ王国に向かう。
しばらく飛ぶと、
「艦長。左の山の上から巨大な何かが来ます」
伝声管からナンド中尉の声が聞こえてくる。
”イナヅマ”の電波探知に何かが掛かったようだ。
山の上から出てきたのは、”ベルゲムーン”と同じくらいの大きさのドラゴンだった。
白い体をしている。
物珍しそうに2艦の周りを飛ぶ。
「何もしてこないと思うが、刺激するなよ」
ブレス1発で、2艦同時に落とされるだろう。
エルダードラゴンのようだ。
2艦の巨体に興味を持って見に来たらしい。
しばらくすると見飽きたのか、その場を飛び去った。
◆
大食堂で、お茶をしていたシルファヒンは、突然、窓ガラスの向こうにヌッと現れた巨大なドラゴンの顔に、コップの中身をこぼしながら、固まった。
(目っ。目が合ったあ)
声が出ない。
一緒にいる、メルル―テとセバスティアンも青い顔をして動けない。
少しの時間、シルファヒンと目を合わせた後、ドラゴンは去って行った。
シルファヒンは座ったまま、メルル―テとセバスティアンは、その場にへなへなとしゃがみ込んでしばらく動けなかった。
「なんだったのよおおお」
それは誰にもわからない。