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第15話

 ”ミナヅキ”と”ベルゲムーン”は、高い山で3000メトルを超える”白眉山脈”の渓谷に沿った”ルート”を飛んでいる。

 谷底は雪で真っ白である。

 たまに、吹雪による視界不良のため航行が止まるが、順調にレンマ王国に向かって進んでいた。


 天候が怪しくなってきた。

 ”準勤務”であるイナバが周囲の監視任務に就いていた。

 ミナヅキの艦尾中央の外部廊下に、胸に”ミナヅキ”と書かれたロングコートを着て、双眼鏡片手に立っている。

 X字に配置された、後部レシプロ推進器の丁度真ん中に位置する場所だ。

 

「ヴン。ヴン。ヴン。」


 重低音を出しながら回る巨大なプロペラの向こうには、”ベルゲムーン”が信号灯を点滅させながらついてきている。

 すぐ近くには渓谷の山肌が有った。

 気圧が下がって来たのか、角の部分から白い雲の筋が出ていた。

 ”ミナヅキ”と”ベルゲムーン”の距離を測るために、双眼鏡を顔に当てる。

 定期的に距離を測って、安全を確認するのだ。

(この”測距”の方法って10年前に発明されたんだよな)

 双眼鏡に着いた目盛りを数えようとしたとき、ふわりと甘い香りがした。


「?」


 自分の胸に温かい何かがもたれてくる。

 双眼鏡を顔から外して、最初に見えたのが、黒髪のツインテールだった。

 次に侍女服のロングスカートの端である。


「えへへ」


 悪戯が成功したような笑顔で、振り向きながら見上げてくる。

 

 イナバは優秀な”シノビ”である。

 プロペラの音もうるさく、双眼鏡を顔に当てた瞬間(メルル―テは狙っている)とは言え、あっさりと懐に入られたことに驚いた。


「かなわないな」


 胸にもたれてくる温かくて可愛いものを包むように、ロングコートの前を両手で優しく合わせた。


 ちなみに、メルル―テの()()による”測距”は怖いくらいに正確で、二度イナバを驚かせた。

 


 その後、吹雪いてきたので艦の高度を下げ、錨を下ろした。

 出発は明日まで見送られる。


 トウバは、軍人である。

 時には勇猛果敢に、行動しなければならないときがある。

 会議室に()()()()開いていた本のページに”セントウデート”というものがあることを知った。

 一緒に、セントウに行き、石鹸やタオルを男湯と女湯の壁の上にある隙間から、投げて貸し合うそうだ。

 そのために、男湯と女湯の壁は上部で繋がっているとの説がある。


「シル。今日、一緒にセントウに行かないか」

 トウバは、勇気を振り絞ってシルファヒンに声をかけた。


「!。はいっ。喜んで」

 何故か食い気味に即答してくる。

 その後、あっという間にデートの準備を終えたシルファヒンを不思議に思いながら、楽しそうにしている彼女を見てほほ笑んだ。(細かいことは気にしない)


「ううっ」

「よそでやってほしい」

「艦長~」


 さっきから、

「石鹸投げるよ~」とか

「は~い」とか

「一緒に百まで数えましょう」とか

 壁越しに楽しそうに話をしている。


 たまたま入りに来ていた、男性乗組員3人は(我々は石。我々は壁の絵)と心の中で繰り返しながら、二人が満足して風呂から上がるまで、じっと待たされることになった。


「待った」


「今出たとこ」


 トウバは、風呂上がりのシルファヒンにドキドキした。


 ”セントウデート”の終了である。


 ちなみに()()()()開いていた本の題名は、”レンマ王国デートマニュアル百選”。

 その中で、”セントウデート”は”高レベル新婚カップル向け”に分類されている。 


 誰が本のページを開いて置いたか、その本が誰の()()()だったかは、神のみぞ知る。

 


 2艦は、たまに吹雪に見舞われながらも”白眉の花瓶”まで到着した。

 マルーン湖は、完全に凍り付いていた。

 凍り付いたマルーン湖に、小さなドリルで穴を空け、釣りをするのが有名である。

 親睦の意味も含めて”ベルゲムーン”の乗組員に休暇を取り、釣りをすることを誘ってみた。


 夜に宴会することも含めて、マルーン湖に2日滞在することが決まった。




 

 

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