第14話
王都”エルダーウッド”での滞在は、2週間を予定している。
シルファヒンはトウバを誘い、何度かデートに出かけている。
”シュリミエール”に予約なしで入れるほどのコネは無いが、そこそこ良い所をデートで回った。
また、トウバと一緒にお茶会にも参加している。
トウバは、昔からアルクファン女王に気に入られている。
シルルート国内では”シルファヒンの恋人”と認知されることになった。
外堀が完全に埋まったことを、トウバは気づいていない。
2週間が過ぎ、最後のデートの別れ際に、トウバはシルファヒンを呼び止めた。
「……シル様。 好きになってしまいました。私の恋人になって下さい」
一瞬で真っ赤に顔を染めたシルファヒンは、ぷいっと顔を横に向けた。
「シル……です。もう一度……言って」
「!! シル。好きだ。俺の恋人になってくれ」
「はい。当然なりますわ」
トウバはシルファヒンの両手を取った。
「ありがとう。とてもうれしい」
二人はその場で三回、くるくると回った。
「ちょっ」
最初は驚いたシルファヒンだが、三回目で満面の笑みになった。
まなじりには少し涙がにじんでいた。
◆
メルル―テとイナバは、打ち合わせのために飛行艦の発着場に来ていた。
整備士の服を着た5人の男たちが、並んで立っている。
イナバは、男たちの背後をちらちらと見ている。
5人のリーダーと思われるドワーフの男が
「エクセリオンの修理のために、レンマ王国に行く整備士チームのリーダー”ドワイト”だ」
背後には、”ミナヅキ”を少し小さくしたような飛行艦が駐艦している。
「しかし。メル嬢ちゃんも狭いルート内で空賊とやりあったんだってなあ」
ドワーフの寿命は、300歳くらいある。
メルル―テより年上だ。
姿勢制御用のレシプロ推進器が艦体左右に4つ。
前進後退用に、後部の上部に2つ。
「狭い場所で、破片をよけそこないました~」
前後左右に収納式のクレーンを4つ装備している。
「ま。無事でよかったよ」
「しかし。シル坊に恋人が出来たんだって」
「シルはがんばってましたよ~」
横にいるイナバをちらりと見る。
さっきから落ち着きがない。
「メル嬢ちゃんもかよ」
「で。若いの。そんなに後ろのが気になるのか」
「はい。・・・”満月級”ですか?」
「そうよ。修理工作艦”ベルゲムーン”」
「工作室も備えた、移動工房よ」
”満月級”は、シルルート王国が飛行艦を造れなかった時に、レンマ王国から輸入した第3世代飛行艦だ。
ちなみに、”ミナヅキ”は、約30年前に異世界から渡ってきた”バイク”の特に”ボールベアリング”の技術を、回転部分に使用した、第4世代飛行艦である。
”ボールベアリング”の技術で推進器の性能は、飛躍的に向上した。
エクセリオンは、魔術式ジェット搭載の、第6世代飛行艦である。
”満月級”は”ミナヅキ”のおじいちゃんに当たる。
”ミナヅキ”が、ロートル艦なら、”満月級”は、クラッシック艦だ。
「飛ぶんですか?」
30年以上前の艦だ。
「はは。あんたの国のシタデル構造は丈夫だよ」
「推進器は、第4世代のものに変えてるがな」
「私が初めて乗った飛行艦が、”満月級”でした~」
「懐かしいです~」
「中を見せてもらっても?」
「おう。二人で回ってこいや」
気を使われてしまった。
メルル―テの解説と思い出話を聞きながら艦内を回り、中々楽しい時間を過ごした。
◆
レンマ王国に向かって出発の時が来た。
船足の関係で、予備の”魔術式ジェット”は”ミナヅキ”に乗せることになった。
”ベルゲムーン”に乗せると格段に速度が遅くなる。
2艦が、階層式の着艦場の外にゆっくりと出てきた。
形は似ているが、”ミナヅキ”は群青色をしており、”ベルゲムーン”は淡いオリーブグリーンに塗られている。
2艦は、サイドスラスターを使い、その場で艦を回転させ、並走しながらレンマ王国に向かった。
もう季節は冬だ。
白眉山脈のルートは、雪で真っ白になっていることだろう。
まわってしまった……