第13話
トウバがアルクファン女王に謁見した次の日、メルル―テとイナバは、王都”エルダーウッド”でデートをしていた。
メルル―テがイナバを誘っている。
メルル―テもハーフエルフの端くれ。
この人と思った相手には容赦はしない。
”恋の遺伝子”と呼ばれる直感が働くそうだ。
落ち着いた色のセーターと細身のパンツ姿である。
いつものツインテールを後ろに一つに束ねている。
侍女服のスカート姿が多いメルル―テの新鮮な姿に、イナバが少し顔を赤くしたのを、満足そうに見つめる。
「次はこっちです~」
穏やかな口調ではあるがたたき上げの軍人で、さらにイナバ22歳、メルル―テ80歳の年の差である。
イニシアティブは完全にメルル―テがにぎっている。
元々イナバはその辺は、全く気にならない。
逆に、幼く見える容姿と、大人っぽい細やかな気遣いのギャップに、くらくらしている。
たまに見せる悪戯っぽいしぐさがとても可愛い。
午前中は、王都中央にある”アカイア”の大木や、樹の上に街を作るエルフの伝統を残した積層構造をした街の作りなど、観光名所を回った。
昼食は、落ち着いた雰囲気のレストランで、ハーフエルフの伝統的な料理を食べる。
肉気が少なく野菜多めの煮込み料理だ。
「お残しはゆるしませんよ~」
メルル―テの一歩間違えると母親のようなふるまいに、温かい気持ちになる。
昼からは、共通の趣味でもある、飛行艦発着場に来ていた。
発着したときも驚いたが、左右に半分ずつずれた二層構造になっている。
エルフの伝統の積層構造をしていた。
守衛が左右に立っている、見るからにVIP用のエレベーターの前にいる。
メルル―テが財布から、カード状の身分証明書を守衛に見せた。
「メルル―テ中佐。視察ですか?」
「そうです~。我が国の威信(私の恋路も)が掛かってます~」
メルル―テは、イナバがオンミツ衆のカシラであることを、独自のルートで察知している。
あながち間違いではない。
3Fのボタンを押した。
エレベーターの扉が開いた。
ガラス張りのエレベーターホールの視界一杯に、双胴の巨大な飛行艦が見えた。
屋根と壁で外からは見えないようになっている。
試製双胴飛行艦空母”シュリミエール”
ガルド級飛行艦を左右に二つ並べて繋ぎ、間に飛行甲板をつけた飛行艦空母。
シルルート空軍の淡いオリーブグリーンの艦体に、木製の飛行甲板の茶色が映える。
エクセリオンや、白雲級飛行艦を三艦まで乗せることが可能。(流石に露天だが)
小型化、重飛行艦化する中、果たして飛行艦に飛行艦を乗せることに意味があるのか、飛行艦の歴史の中のあだ花になるかは、時を経ないとわからない。
しかし、現在はその有り余るペイロードを利用して”迎賓館”として機能している。
古くは、ハナゾノ現皇帝”ローズ”の座乗艦、テンドロディウム級2番艦”テンドロキラム”(約10年前に竣工)の様に、執務室と歓迎用の客室を備えたものがあった。
その内装は、曲線を多用したシルルート美術の粋や贅を尽くしたものである。
”ミナヅキ”がホテルならば、”シュリミエール”は王宮と言える。
「ふおおおおおお」
イナバが奇声を上げながらガラス窓に走り寄る。
(すげえっ)
「こちらですよ~」
エレベーターホールの出入口にも守衛がいる。
メルル―テと守衛が、イナバを微笑ましいものを見る目で見守っていた。
「失礼しました」
しばらくして落ち着いたイナバが、羞恥で少し顔を赤くしている。
「中を案内しますよ~」
「入れるんですかっ」
「どうぞ~」
メルル―テのドヤ顔が止まらない。
下手な美術館も真っ青の贅を尽くした艦内を、メルル―テの案内で1時間くらいかけて見て回った。
最後に、艦尾のガラス張りの喫茶室で、二人は午後のお茶をしている。
駐艦場の外の景色が見えた。
二人は手を繋いで(恋人繋ぎ)”シュリミエール”を降りていった。
メルさん、アクセル全開だ。
教導部隊の立ち上げから教官をしているメルさんは、ほぼすべての艦(の幹部)に知り合いがいる。
誤字報告ありがとうございました。