第12話
シルルート王都”エルダーウッド”の真ん中に、樹齢千年近い”アカイア”の大木がそそり立っている。
建国当時からこの大木は、この地にあったと言われていた。
”エルダーウッド”についたトウバは、王宮”エルダーウッドパレス”でシルルート女王と謁見することとなる。
シルファヒンを少し大きくして、大人っぽくした感じの女性が、一段高いところにある玉座に座っていた。
シルルート女王、アルクファン・シルルート。
シルファヒンの母である。
トウバと、シルファヒンが跪いて礼をする。
「この度は、我が娘を助けていただき誠にありがとうございます」
「楽にしてください」
二人が立ち上がる。
「貴方が、トウバ艦長ね」
シルファヒンによく似たまなざしに、すこしドキリとした。
シルファヒンがトウバの様子に気づいて少しムッとする。
「おかえり。シルファヒン」
「ただいま帰りました」
「お母さま。今夜の歓迎の晩餐会に、トウバ艦長にエスコートしてもらいたいのですが」
トウバをちらりと見た。
「私でよければ、喜んで」
「まあっ。・・・いつまでもエスコートが弟たちではいけませんわね」
シルファヒンの下には4人の子供がいる。
ハーフエルフは、パートナーに先立たれても一途に思い続ける反面、子供を沢山欲しがる。
先立たれた後、寂しくないようにするためである。
ちなみに、ハーフエルフから生まれる子供は、ハーフエルフか、人間である。
「それでは、今夜のエスコートはよろしくお願いします」
しばらく、ミナヅキの旅の話をして謁見は終了した。
◆
夕方、シルファヒンをエスコートして、晩餐会に参加する。
広間に入った時シルファヒンが、広間の“シャンデリア”とトウバの様子を交互に見て、満足気にうなずいていた。
「?」
その後、アルクファン女王と、七人いるシルファヒンの兄弟、姉妹と、挨拶や立ち話をした。
他、外交的な挨拶が続く。
しばらくした後、ダンスの時間になった。
トウバとシルファヒンは、楽しそうに二回続けて踊った。
しばらく、休憩した後シルファヒンが、顔を赤らめてトウバの腕を取り、強引にホールの中央に引っ張っていく。
「踊りましょうっ」
一瞬ホールがざわめいた。
「はい」
二人が踊り始める。
トウバは当然知らないが、シルルート王国では、未婚の女性が三回連続で同じ人と踊った場合、”将来恋人以上を目指します”という宣言になる。
「トウバは、私のもの」
と大声で言ったも同然だ。
アルクファンが満面の笑みで見守っていた。
(6歳の時から……長かったですね)
その後、二人は楽しそうに過ごし晩餐会が終わる。
トウバが、迎えの馬車を待っている間、シルファヒンが、セバスに合図を送った。
トウバは、セバスから足元を照らす“ランタン”を渡される。
「シル様。今夜は本当に楽しかった。ありがとうございます」
「私も楽しかったです。気を付けてお帰りください」
ランタンで足元を照らしながら、馬車に乗るトウバを見ながら、二人はうなずき合った。
次の日、セバスは、国際竜騎士警察の出張所に来ていた。
レンマ王国から、そっくりのものと入れ替え、密かに持ち出していた”魔術式ランタン”を持ってきている。
ソファーと低い机がある相談室に通された。
しばらく待つと、30代前半の女性が入ってきた。
「レリア一級刑事ですわ。この度の御用件は?」
「シルファヒン第三王女の執事をしています、セバスティアンと言います」
ランタンを前にある机に出す。
スイッチを入れる。
やはり、少しクラりとめまいがする。
昨日、トウバに渡した同じ型の”魔術式ランタン”ではめまいはしなかった。
広間のシャンデリアもレンマ王国と同じ”魔術式”である。
「えっと……」
レリアは人間だ。しかしトウバと違い何も感じていないようだ。
「このランタンは”魔術式”がいじられているようです」
「えっ」
魔術は大変危険なものだ。
約十年前に起きた、ハナゾノ帝国の”魔術”に関する大事件にレリアも深く関わっている。
魔術式。特に、”魔封じの術式”を勝手に変えることは極刑もあり得る重犯罪になる。
セバスは、トウバのことも含めて細かい経緯を、レリアに説明した。
「このランタンは証拠品として預かっても」
「はい」
セバスは、最初からそのつもりで持ってきている。
レリアは、ハナゾノ帝国の魔術学院に強いパイプを持っている事を、セバスは知っている。
「ハナゾノの魔術学院に、ランタンを調査に出しますわ」
「よろしくお願いします」
レリアは竜騎士である。
次の日、レリアは自分の飛竜に乗り、シルルート王国の西に広がるシェルダの森(旧、帰らずの森。飛行船の発達で簡単に超えれるようになった)を超え、ハナゾノ帝国へ向かった。