第11話
翌日は、全員休暇日なので、それぞれのんびり過ごす。
マルーン湖のレインボートラウトは有名なので、午前中は釣り大会の様になった。
昨日の飲み会から、トウバとシルファヒンは、仲睦まじい姿を隠さなくなった。
二人が並んで釣りをして、トウバがシルファヒンの餌をつけてあげたりしている。
結局、年の功か、セバスティアンが一番沢山釣っていた。
変わり種として、メルル―テとイナバが”ラージマッドクラブ”を二人で釣っていた。
名前の通り、甲羅の部分だけでも1メトルくらいある巨大な蟹である。
大きいにも関わらず、身が締まって大変美味。
滅多に見れない高級食材である。
食堂班が興奮していた。
そのまま、昼から、飛竜甲板の上でバーベキューになる。
釣りたてのレインボートラウトも美味しいが、ラージマッドクラブの、焼きガニ、カニ鍋、カニみそと酒の肴には事欠かない。
レンマ特産の米の酒にもよく合う。
総勢18名が食べても余るくらいあった。
二日連続の酒宴に、シルルート組とミナヅキの乗組員の仲がさらに良くなった。
◆
翌日の朝、
「錨を上げろ」
「ヘリウムガスを規定値へ」
「ミナヅキ。離水」
「離水しました」
「高度上昇。シルルートに向けて発進」
レンマ方面の入口から約45度の方向にあるシルルート方面の出口に向かい、ミナヅキは前進した。
これから徐々に高度を上げ、万年雪が積もるルートに入っていく。
二日進んだ。
辺りは一面、真っ白の雪景色である。
乗組員は、ミナヅキと胸に書かれた防寒用のコートを着ている。
ブリッジの真ん中にダルマストーブが置いてあり、ポッドが白い煙を上げていた。
「シル様。ホットコーヒーはいかがです?」
「ありがとう。いただきます」
いつものように、艦長席の斜め後ろの椅子に座ったシルファヒンが答える。
藍色のミナヅキの軍用コートが似合っていた。
トウバは、ブリッジの後ろの部屋にある給湯室に、ポッドを持って二人分のコーヒーを作りに行った。
「艦長。山脈の峠を越えます」
操縦士のカリンが言う。
これから先は緩やかに高度が下がって行く。
「どうぞ」
トウバは、コーヒーをシルファヒンに渡す。
「ありがとう」
フーフー言いながら飲み始めた。
その姿を微笑ましく思いながら、右舷を見ると
「おっ。シル様、”冬将軍”がいますよ」
右舷の遠くの空に、大型の白い竜と中型の白い竜が三匹飛んでいる。
四匹とも、”フロストドラゴン”である。
四匹の竜はハナゾノ帝国の東方を、北から南に、強烈な寒気を伴って渡っていく。
本格的な冬の始まりだ。
大型の竜は、六枚翼が特徴的なエンシェントドラゴンの、”スノーフラワー”である。
「手の空いているものは、右舷に注目。”冬将軍”の到来だ」
しばらく、コーヒーを片手に巨大な竜たちが渡っていくのを。右舷の外部廊下から見送った。
◆
その後、約二日飛行しシルルート側の白眉山脈の麓に降りてきた。
出迎えに、シルルートの主力艦である、ガルド級飛行艦”シュペリオン”が来ていた。
少し明るめのオリーブグリーンに塗られた艦体。
ガルド級飛行艦”シュペリオン”
ミナヅキより一回り小さい艦体。
術式ジェット八機搭載。
曲面が多用された、シルルート特有のモノコックボディー。
上部ブリッジの後ろに、飛竜甲板と竜舎があり、一騎の竜騎士を搭乗可能。
特徴的なのは、上部の後ろと下部の前後につけられた、パイルバンカー用の回転砲台である。
各砲台に二門ずつ、計六門のパイルバンカー射出機が搭載されている。
「こちらシルルート空軍所属、飛行艦”シュペリオン”艦長サウトルです。この度はシルファヒン王女を助けていただき、大変ありがとうございます」
「シルルート王都”エルダーウッド”までの案内を仰せつかっております」
「お迎えありがとうございます。レンマ空軍所属、飛竜空母”ミナヅキ”艦長トウバです」
「案内よろしくお願いします」
艦の外部廊下に出て手を振っている、シルファヒンとメルル―テを見つけたのか、
「二人とも元気そうで何よりです。メルル―テ教官にもよろしくお伝えください」
”ミナヅキ”から”シュペリオン”に移ることを、シルルート組三人に提案したが、満場一致で否決された。
シルルート組三人に、密かに”ミナヅキホテル”と呼ばれている事をミナヅキの乗組員は知らない。
約三日ほど飛行し、シルルート王都”エルダーウッド”が見えてきた。
遠くからでも、王都の真ん中にそそり立つ巨木が見える。