EP7 キンダンのディスペル魔法 歯ぁぁぁっっ!!
リハビリを予定より短縮しながらも、精神状態の落ち着きを取り戻した俺。
課長も博士も、もう封印解除プロセスに移行しても良いと判断した。
午前10時頃だろう、いよいよ第三段階に入いるため、課長、博士と介護クルー、ステラ、メーベが機械類の確認作業に没頭している。
俺はマッサージチェアのような椅子に座り、頭にハーフヘルメットを装着された。
『トー〇ル・リ〇ールか』
「心配せんでもよい。わしも経験しておる」
アインシュタイン博士が言うのだから安心だ。
「ケッ こちとら俎板の上の鯉、もうじたばたしねぇ、スッパリやってくんな! 」
時代劇の悪党が、そんな見栄をはるシーンを真似してみたが、おしっこが漏れているかもしれない。
室内の皆が哀れな顔をしている。完全に馬鹿にされてないか、俺。
準備が整ったのか、課長がOKサインを出す。
「うむ」
重々しくうなづく博士。
いよいよ始まるのか、ディスペルが!
博士の呪文詠唱が始まる。俺を囲んで円形に並べられた蝋燭の炎が揺らぐ。
足元には多重六芒星が浮かび、それが段々と俺を中心に回転しながら競り上がってきた。
「なんじゃこりゃー !」
博士の詠唱が続く
カマルザード・アマルザード・キ・スク 『うん?』
ビヨンセ・デブデ・ヤセナアカン 『どこかで』
糞便と化せ!! 『聞いたな』
冥界の愚者 ! 『こ、これは!』
七つも鍵を落とし ! 『やはり』
開けるな 便所の扉 ! 『伝説の ! 』
ディスペル! 解けよ封印!!
『違うのは最後だけかよ!』
歯ぁぁぁっっっっっっ!!
パクリ詠唱と、わけの分からない絶叫が聞こえたと同時に、頭の中心部から明るく熱いものが拡散していく。
例えるなら、水素原子が酸素原子と結合して水分子を構成し、より複雑なものに転換されていくように、単発の情報が何かの情報と連結しながら新たな情報を構築していく感じだ。
新しく構築された情報と記憶だろう、早送りで見る細胞分裂のようにどんどん増えていく。
今までは映画のさわりだけのような記憶で生きてきた。それが今、シナリオ全てと完全に繋がった。
覚醒とはこういうことを言うのだろう。
今までの俺は何だったのか、何故、そんな大事な任務を忘れていたのかと悔し涙がこぼれる。
『今までの俺は敵前逃亡の兵士、なんて馬鹿だったんだ』
「それが封印解除時の弊害だよ」
アインシュタイン博士が肩を撫でる。
「001、今君はすべてを取り戻したスーパーソルジャー、ラノベで言うなら勇者なんだよ。落ち込まなくてもいいんだ」
珍しくやさしい声をかけてくれる課長。
ステラ、メーベは口に手を当て、肩を震わせ号泣している。
地球の救世主 勇者 エージェント001が今誕生した。