EP61 破壊と混沌の邪神 *
2023年12月6日
地球人類滅亡まで18日
翌日、マリアはピーマン医師と、銀河古代兵器博物館 前艦長が恋人である事を話した。
「なるほど、そういう事だったのか。謎が少しばかり解けたな」
「それで、アイシャ・ローゼンバーグさんには、なんと?」
「恋人なんだ、私から恒星間通信で訃報を伝えておこう。SHADO上司の辛いところだな。訃報係ばかりじゃ、やり切れんよ」
ややれやれといった表情で、ペルー産の葉巻を吹かす。
「カロヤン大佐、彼女はきっと来ます。後2日後には必ず・・。私、せめて霊安室にお花を飾って、綺麗にしておきますわ」
「そうか、そうしてくれ、頼む・・・」
『人化しているマリアはここ最近、人間の女性そのものだな。いやそれ以上か?』
******
「Xデーまであと18日ね、霊子の解析は糸口すら見つからないわ」
W芽衣が溜息をついている。
霊子の解析は、アインシュタイン博士とニコラ・テスラ博士、天乃芽衣と関野芽衣、マリアの5人が、SHADO特設研究ラボに集まって、頭を悩ます事になった。
それはマリアでもお手上げなのだが、
「昨日の今日で、何か分かる訳ないじゃない。アイシャ・ローゼンバーグさんが、何か知っているといいんだけど・・」
「「アイシャさんが来るのか!」」
男性陣が色めき立った。
「ええ、間違いなく来ると思うわ。だって自分が愛した男性なのよ。来なかったらピーマン医師がもて遊ばれていたか、二股の相当な悪女って事になるわ!」
「おいおい、それはマリアの推測じゃろ、人を悪く思うなんて、マリアにしては珍しいのう」
「いえ、地球人類滅亡阻止のため命をかけたピーマン医師が、見捨てられるかも知れないと考えたら・・私、妙に怒りがこみ上げて来ただけです」
*ほう、マリアは見捨てられる者の恐怖がわかるのか。
*あのさぁ、マリアってさぁ、やっぱり変だよ。
*なにがだ?
*同じ匂いがするんだよね。
*そんな事ある訳ねぇだろが!
「まあまあ、アイシャさんは必ず来るんだろう? 自分でそう言ったではないか」
自分でも何故こんなにイライラしているのか、理解できなかった。
迫り来るXデーに恐怖し、ご主人様と私たちが無事、生き残れるのかどうかが不安なのか、それは冷静なAIの化身にしてはあり得ない。
これは弱い人間が、神に救いを求めて祈る姿を彷彿させる。
あの暗い宇宙空間で、深くてどうしようもない奈落に落ちていくように感じた人間の本質。
暴力と怒りの思念、呪詛、人間は裏切り嫉妬し、奪い、奪われる。
冷静なはずのAIの化身マリアは、その悲しい思念、思想に翻弄された。
そんな異常とも思える気持ちを心の奥底に隠して、気持ちを本題に切り替えると、
「「生きている時に、もっと沢山メモしたものが残っていないの?」」
IQ250コンビがハモる。
「殺されるとは思っていなかったから、何も記録していなかったのよ」
ニコラ・テスラ博士が自慢の口ひげを触りながら
「それでも、死に際にあれだけ書けたのは奇跡だ。普通は書けん」
テスラ博士の言うとおり、ダイイング・メッセージなど、テレビドラマの世界だけの出来過ぎた話なのだ。
アインシュタイン博士が相槌を打ちながら
「帰還してから自分の口で話すつもりじゃったか。USBにでも記録してあれば、糸口が掴めたかもしれんのにな」
アイシャの事を今、あれこれ考えても仕方がない。ニコラ・テスラ博士が何か話すようだ。
「私は霊子の事はまるで分からない。だが私の専門はエネルギー変換だ。メモによると私の推測だが、プラズマ核電池を何らかの方法で変換すれば、霊子を放射できるのではないかと考えておる」
「富永ナイアに霊子を放射する事が、有効な手段とは思えませんが」
「そうだね、そこが問題なのだ。仮称テスラ・コンバーターでプラズマ核電池エネルギーを霊子に変換できても、奴を分解か崩壊、消滅させる事は出来ないだろう。まだ何かが足りない」
「私たち芽衣の推測では、富永ナイアは恐らく霊子の集合体だと思います。霊子に霊子をぶつけても効果があるかどうか疑問です」
日本には、カエルの顔に小便という諺がある。
「うーむ、理屈で考えればエネルギーの相殺で消滅させるとか、
マイナスのエネルギーとか反霊子とか、逆のエネルギーをぶつければ可能かもしれないな」
「アインシュタイン博士、その仮説は案外正解かもしれません。ですが、霊子そのものが解析出来ない以上、打開策を見つけるのは至難の業です」
本来の冷静に分析できるマリアがいた。
だが、SHADOの最高頭脳集団をもってしても、やはりこれ以上の進展はなかった。
それぞれが頭を冷やすために、自室へ戻っていく。
*******
*やっぱり気づいたよね~。
*あと18日では何もできん。
*でも正体バレましたわね。霊子の集合体だって。
*Xデーには堂々と姿を見せるが、見たら腰を抜かすだろうよ。
*なんせ肉体を持ってねぇからな。人間が想像できる存在じゃねぇ。
*フン、後は人間が何をしようが、24日までは何も手を出さんよ。
*そんな事言って、また騙し討ちするつもりか?
*それが本分でもあるがな。
マリア、天乃芽衣にとってリフレッシュできるのは、タケシの部屋だ。二人でご主人様の部屋に向かうと、人妻の関野芽衣もついて来た。
「別にいいじゃない。私もあなたたちのご主人様と、たまにはお茶してもいいでしょ♡うふん」
「♡うふんは余計よ! あんたタケシさんの弟の蓮さんという、りっぱな夫がいるでしょうに。夫婦関係が破綻しているの?」
「べっ、別にぃぃ~」
目が泳いでいた。
「芽衣さん、お疲れでしょう、お茶でも飲んで行ってください」
「ほんとにタケシさんは紳士よね~、誰かさんとは大違い」
同じ芽衣でも、人妻は調子が狂う。
「実はこうこうで」
と、マリアが霊子の件で悩んでいると打ち明ける。
「ふーん、霊子って基本的に魂の事だよね。一般的に日本人は、人間や動物に魂があると信じていて、、死後の魂を不浄と考える人もいるよ。不思議だよね」
「宗教にもよるけど、お葬式の後、清めの塩を体に振り撒いたりするんだ。何故かな~なんて、いつも思っていたよ」
「それは日本の古い習慣から来ていますね」
「そうなんだけど仏教は、霊魂が不浄だなんて説いてないし、死後の魂の在り方を説いているのにね」
「阿弥陀如来さまと、魂が同一化する事が死後最大の安寧、魂の落ち着く場所とされているんだね」
その言葉にはっとするマリア。
「魂が落ち着く場所!」
『私が大宇宙で彷徨い、何かを探していた・・・それはご主人様の言う阿弥陀如来・・・姿、形を持たない、全てを愛で包み込む全知全能な存在。
私はその存在を探していた? その存在と同一化するために・・?』
何か真実に近づいたような気がした。
「ねぇご主人様、不浄な魂はどうやったら元の魂に戻れるの?」
「難しい質問だなぁ、俺が考えるには、不浄のエネルギーを超える善のエネルギーで包み込んでしまえば、不浄なエネルギーは善のエネルギーに取り込まれて消滅するのかな?
なんて、あくまで俺の妄想だから・・あっ、これラノベのネタに使えるかも・・・メモメモ」
「ねぇ聞いて芽衣さんたち、私たち富永ナイアの霊子を破壊、消滅させる事ばかりに気を取られていなかった?」
「それは、過去の霊子破壊ビームが富永ナイアを消滅させたから、それが一番有効だと思ったけど?」
「ご主人様の話で閃いたんだけど、善の霊子を富永ナイアにぶつければ、エネルギーコンバーターを必要としなくなるのではないのかな?」
「今、地球ではソフィアたちが設置したアセンション波と、女神ウィルマ教で、多くの信者が毎日祈りを捧げているわ」
「「どういう事?」」
「祈りの波動は、魂が発信する善なる霊子、これを地球全人類が悪の霊子の塊、富永ナイアに向ける事ができたら、どうなるかしら?」
現時点で最も効果の期待できる方法であった。
「コンバーターを作っているよりも、その方法に賭けるしかなさそうね。大佐に進言してみましょう!」
*やばいぜ、そんな方法まで気がつきやがった。
*じゃあ早めに核ミサイルを撃ち合わせるの?
*奴らの祈りのパワーが大きくなっているよ。
*あれあれピンチなの?
*ふむ、デマを流して人間の心を疑心暗鬼にさせれば、祈りのパワーは落ちる。
*じゃあ、いよいよ本気を出すんだね!
「ああ、俺は邪神ナイアルラトホテップ、宇宙に破壊と混沌を齎す存在だからな!
お前たちの人格はもう必要ない、この先は俺がやる!」




