EP5 UFO機内食はアレだった *
そんな時俺の腹の虫がキューッ ズボボー ドポッ ジョロジョロ~と鳴る。水洗便所で、ウンコが吸い込まれていくような音だ。入れたものは最後には出ていくのが宇宙の真理だ。何事も詰め込み過ぎは良くない。便秘になる。
宇宙に存在するブラックホールとホワイトホールの関係はどうなんだろう?一度詳しく調べてみたいものだ。
「ところで課長、なんか食べさせてくれない? 俺ここへ来てから、ひとっ口も食べていないんだけど」
UFOなんだから、きっと見たことのないUFO機内食を味わえると、期待半分で聞いてみた。
「うむ、クローン体は人間と全く変わらない。飯は必要だ。すっかり忘れておった。すまん今用意させる」
待つこと3分、ゴロゴロと小さめのワゴン車をひいて、身長160㎝程度、ロングの髪に首には真っ赤なスカーフ、白い軍服調の上着にグリーンベレーのような緑色の帽子を被った美しい女性が現れた。
会釈しながら蜂蜜色の瞳が微笑んでいる。
しかもミニスカ&ブーツたぞ! 絶対領域がその存在を主張している。
ゴクリ。俺から下品な嚥下音がした。ト〇とジェ〇ーかよ。
「旅客機の機内サービスそのものじゃん!」
課長! よく解っていらっしゃる。俺の求める至高のCAコスプレではなかったが、これは悪くない最高だ。ここは課長の心憎い配慮に感謝する俺だった。
ワゴンに乗って現れたのは 昔学校給食で見慣れたアルマイトだろうか、トレイの上に丸くて平たい容器が鎮座、上にはちゃんと割箸と楊枝も添えてあり、横には陶器製であろう湯飲みから湯気が出ている。
『ああ生前の生活に合わせて気を使ってくれているんだな』
いきなり銀ピカの妙な器とか、アイデア倒れの先割れスプーンだと使いにくくて興ざめだしな。日本人なら箸だ。
「では、いっただきまーす」
勇んで蓋をあけると、白い煙がもくもくと。
なんの演出やねん、今これ必要か? 浦島太郎の玉手箱パクってどうすんの !
NISIN焼きそばUFOだった。
「うーんこれこれ、スパイシーなソースのかほり・・・・・・ちゃうわ、こんなん期待しとらんわ! 」
俺は生粋の東海人だが、興奮すると関西弁になるのだ。
「こんなことなら、せめてマック・ナルホドのハンバーグくらい出せよ、あっポテトとホットコーヒーLで」
無理そうな注文をぶつけてみた。
『UFOを建造し、宇宙を航行して地球までやってくる宇宙人でも、食文化は低いのか? この先が不安になってきたぞ』
「兄ちゃんごちゃごちゃ言うとらんと、はよ食いなはれ。ちょびっと消費期限切れとるけど辛抱せーや」
「なんで俺の真似して関西弁になっとんねん! それに鶴瓶の声帯模写いらんやろ! それに賞味ならまだ許せるが、消費期限って、もう廃棄するレベルやないけ! 」
ここに会社の例の女子社員がいたら、本当に会社で課長とやりあっている日常と錯覚するだろうな。
備忘録①
ここで。課長もどきから聞いた話の要点を纏めてみる。
①俺は高校の時に拉致され、何かをインプットされた。
②今までの俺の肉体は死んで、今は死亡する二年前の俺のクローン体であること。
③俺は課長もどきたちの仲間で、エージェント001と呼ばれていること。
俺は死んでいるので、今、家族に会ったり会社へは行けない。クローン体で会えば家族が混乱するし、全てを話すことになる。それに状況をまだ理解していない俺が、家族に説明できる訳ががない。
愛する家族に会いたい、今すぐにでも。そして叫びたい、俺は生きている! と
UCAとのひととき
クローン体に馴染むまで7日間、俺はUFO内でまったりと過ごしていた。
俺が乗せられているこのUFOは、実は地球軌道上にステルス状態で待機している母船アンドロメダ2000だ。
全長2000m 飛行船型の船体は三層で構成されていて、ショッピングモール内を歩いているような錯覚を覚える。
クルーは総勢2600名、男性2000名、その他が600だそうだ。
船体の大きさに比べてクルーの人数が少ないのは、AIが大部分の仕事をこなしているからなのだろう。
俺が勝手に名付けた二人いるUFOキャビンアテンダント"UCA"は美人揃い。いろいろな惑星から選抜されていて、UCAになるため厳しい試験を突破してきたエリート女性だ。
彼女たちが禁止する区域が多々あるが、基本的に母船内は自由に散策できる。
残念なのは、彼女等以外の女性クルーに出会ったことがない。男性クルーが働いている姿ばかりが目に入る。
『実は女性クルーは乗船していなくて、その他というのはアンドロイドのことか、一応軍隊っぽいしな、納得だな』
傍らにいるUCAから、この母船が銀河惑星連邦所属であること、連邦の構成と地球文明との関わりを大雑把に聞くことができた。
「UFOと呼ぶのは太陽系内で地球人だけね。まだ反重力エンジンも開発できていないし」
『ということはUFOの動力はGフィールド推進か? 』
夜中に黒い物体がカサカサと推進するやつ、時にはブーンと飛翔するあれではない。根本的に原理が違う。地球人類はまだ、燃焼爆発による反作用で推進力を得ているだけだから。
だが物理学を専攻し、天才プログラマーと称賛される俺にはむかつく話だ。
何故かUCAが、しまったというような表情を見せた。
そこは笑顔で誤魔化し、UCAとの仲を大切にする俺なのだ。
彼女はステラ。惑星γ(ガンマ)・オリザノールの出身で身長は165cmくらい、長い銀色の髪、コバルトブルーの瞳、少し突き出た耳がエルフを彷彿させる美女。
彼女らの制服なのか、上から下までメーベと同じだ。
違いは、よく見ると「主」とGOLD メタリックのプレートが胸元に付いていて誇らしげだ。
ステラは明るくて、聞けば何でも教えてくれたが、年齢を聞くと途端に不機嫌になるのは、いずこも同じと理解した。
今はいないがステラの部下にあたるのがメーベ。俺の飯を運んでくれた女性で、出身はβ(ベータ)カロテン星だ。
メーベの胸元には「びたびた」と書かれた、意味不明な明らかに材質が悪そうなくすんだプレートが付いていた。なんだろう、あれは?
話を聞いていると、地球外惑星の住人の姿は、地球人と殆ど変わらないが、エルフのような容姿の美男、美女(それを意識していないらしい)が多いので、地球人から見れば見分けやすいだろうという。
DNA配列も問題がないため、惑星間結婚なんて当たり前。適齢期女性の婚活が活発で、地球と同じくビジネス化しているそうだ。
『どこも必死やな、しかし俺には無縁の話。仕方ないっしょ、俺の嫁さんは至高のCAと決めていたから。ここは宇宙、母船の中、地上でCA様と遭遇するチャンスなんかおまへんがな』
ふと『なんだろ、俺、クローン体になってから、妙に結婚願望が強くなったような気がする。死んで悔いがあったからか?』
「っっっつ! ・・・・・・」
とたん、ギラっとステラの目が光った。怖いんですけど。
『メーベを最初に見た時、CAっぽくて実はドキっとしてた。あの微笑みはとても色っぽかったな。あの時は腹が減っていたので、色気より食い気だったが』
『メーベは、あれから何かと俺に親切にしてくれてるよな。休み時間にも来てくれるし、宝石のように潤んだ瞳がとても綺麗だ』
ステラの背景にゴゴゴと文字が浮かび、暗黒魔術詠唱の気配が漂う。指で印結すんでブツブツ言うの止めてね。
「むう、メーベの野郎、"びたびた"のくせに私に隠れてコソコソと!
目玉ウルウル攻撃なんか仕掛けよってからに。○藤○緒か! 関野様の世話役は、光輝くGOLDメタリック「主」プレートを持つこの私! ステラなのよ!」
「あのぅ、ステラ さ・ん・? 俺の心 読んでます? 課長としゃべり方似てますよ?」
にまぁ、とほほ笑むステラに物凄い悪寒を感じた。
「あ、やっぱり読んでますよね、課長が我々はとか言ってたし」
しかし何か悪いこと考えたか?俺。メーベがCAっぽく見えただけだし、胸に手を当てて考えても思い当たるものがない。
それ以降ステラとメーベは、用のない時でも、CA風の更にパワーアップした違法改造になるだろう超ミニスカートで揃ってやって来るようになった。そう言えばどこかの航空会社がミニスカート採用してたっけ。
『見えるんですけど』
なんでや、美人が二人で世話焼いてくれるのはThanks 大 OKなんだけど・・・・・・。 来るたびに二人の間にレーザービームが交差して見えるのは俺の錯覚か?
ひょっとして二人はサイボーグか? サイボーグのパンティ見えてもね、そんなオチやったら萎えるな。しょうもない話や。言葉がだんだん悪化してるな、俺。