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SF 正妻の座争奪戦争   作者: やまじじい
48/70

EP46新たなる希望 孤高のホル・マリンとドン・ガバチョ *

小雪が舞う夕暮れ。

人通りもまばらな路地で一人、ホル・マリンはブロマイドとポスターを売り始めた。

「地球人男性のブロマイドとポスターはいかがっすか~」

行商に出たばかりで、まだ一つも売れてはいない。


寒くてもマッチを持っていないホルは、はぁ~っと悴む手を見つめるのだった。

私は顔もスタイルも皆に負けている。やっとの想いで作ったブロマイドも売れない。何をやってもダメな女ね。

 せめて、ホル・マリンの想いだけはご主人様に届いて欲しい。

どうか私に一度だけでいい、振り向いてくれませんか。

挿絵(By みてみん)


 2021年4月2日

 場所はSHADO指令室。

カタカタ、ピー アフ~ン、アフ~ンと様々な電子音やアラームが鳴り響いている。


「中国の地球脱出艇建造の進捗状況はどうなっている?」

「はっ、AIマリアのハッキングによりますと、地球脱出艇"素手等1000好" の建造基本計画がほぼ終了したようです」


『ふふ、周遠近主席め、惚れた女のステラの名前を付けるとは』


「ふむ、それでいったい何隻建造できる?」

「はっ、素手等1000好の乗員定員は1000名程度、それを今から建造できるのは、やはり50隻が限度と出ています」

中国の国力と人手を持ってしても、限度はあるか。


「1000人を50隻・・5万人か。それを他国の救済には使われないだろう。中国人民は人口が多すぎるからな、それも仕方の無い事だ」


そこへ、地球帰還中の旗艦ノジャロゥリから通信が入った。


「儂じゃ、儂。カロヤン大佐はいるか?」

「なんだ? 今度はわしわし詐欺か?SHADO本部内にまで詐欺電話が入るとは! SHADOのファイアーウォールはどうなっておる!」

クルーの怠慢と思い、無線通信を切ろうとする大佐に


「ま、待つのじゃ! 大佐、儂じゃ、パンツ〇ミエール王女様じゃ」


どうやってSHADO指令室内を除いているかと思えば、以前ミューが仕込んだ盗撮カメラから見ているようだ。


「おお、王女か、それで首尾はどうだったのかね?」

「ふむ、喜んで貰えるかは分からんが、我が暗黒帝国星系から、3000人規模の人間を乗せれる観光宇宙船10隻を出す事になった。数にして3万人しか救えないが、一応報告しておくのじゃ」


 SHADO指令室内は静まり返った。

「なんだと! 敵対関係にある暗黒帝国星系国王が、地球救済のためにか?」

「あり得ない! あの国王が!」

カロヤン大佐もSHADOクルーも、パンツ王女のど汚いジョークだと思った。日頃の行いが悪いパンツ王女だからこそ、肝心な時に信じてもらえないのだ。


「馬鹿もん、それじゃから父上から毛が一本生えただけの猿だと言われるのじゃ。儂を信じるのじゃ。これから父上からの親書を電送する故に」


カタカタカタ、ベ~と印刷された新書が届いた。


それを食い入るように見つめながら、本文を読む大佐の手が震える。

「モノホンだ! 帝国国王の署名がある。間違いなく、暗黒帝国側が地球人類を助けに来る!」


 どえええぇぇぇぇ!?

クルーたちの悲鳴が飛び交う中、妙なチンドン屋のような盛り上げ隊がラッパや太鼓を叩いて入って来た。

 ♪チンチンドンドン、あっそ~れそ~れ♪

SHADO専属盛り上げ隊、チンドンマンたちだ。

だが、今はお呼びでない。用法容量を間違えたようだ。

 大佐が人睨みすると、すごすごと戻っていった。


 気を取り直して、これは罠だと言うクルーもいれば、国王は実はいい人じゃん!と好意的なクルーもいる。人の受け取り方は様々だ。


「事の経緯は王女が帰還してから聞く事にする。まずはパンツ王女、貴殿の働きに地球人類に成り代わり礼を言おう。ありがとう。帰ってからゆっくりと休養してくれたまえ」


その言葉を最後に旗艦ノジャロゥリと通信が切れる。


「王女が戻るのは明日になるな、よし、これで地球人類を救える人数が確定した」

と言って大佐が大型電卓を取り出し、キーを叩き出した。

キーが馬鹿でかい奴で、100均で500円で売っている。


ねがいましては

SHADOが建造するアンドロメダ300が、定員2000名で50隻

中国が建造する素手等1000好が、定員1000名で50隻

そして、暗黒帝国星系から3000人規模の観光宇宙船が10隻

では。


タンタンタンと軽快にキーを叩く。

「絞めて18万人・・・それでも救える人類はこれだけか・・」


 地球人類の総人口*78億人に対して18万人は少なすぎる。しかし旧約聖書に出て来るノアの箱舟では、神が救ったのは敬虔な信者ノアの家族だけだったのたから、それを考えれば大きな数字ではある。

(*性格な数字では無いと思います)


 万一でも18万人が生き残れば、また人類は繁栄する。時間はかかるが、今度は我々惑星連邦がサポートできるからな。これは希望の数字なのだ。


************

 パンツ王女に出遅れたが、すぐに連邦に旅立った惑星連邦アセンション推奨団体 ホル・マリンはブロマイドとポスターの行商に励んでいた。

 敬愛するご主人様のブロマイドは一枚一枚に傷防止加工と経年劣化防止コーティング魔法がかけてある。無論ポスターにもだ。


 大切なご主人様のブロマイドとポスターを、彼女は売り物にしたくは無かった。しかし、彼女が出来る事は、自費で作ったこれらの商品、ホルにとって分身とも言えるブロマイドとポスターを売り、資金を作る事。それがホルに出来る身を引き裂かれる想いの行動だった。


「少しでも地球救済の糸口を・・・その為に金策をして売った代金を地球救済の為の資金の一部にしたい」

 大きな力を持ったパンツ王女に比べれば、ホル・マリンには力がある訳ではない。一惑星連邦職員に出来る事は少ない。


しかし、恋する乙女の一念が奇跡を呼び込んだ。


 時はホルがSHADOを飛び出したばかりの3月上旬

「地球救済に愛の手を~。地球人男性のブロマイドとポスターはいかがっすか~」

一人マッチ売りの少女のように、小雪がちらつく暗くて寒い通りを歩く。


「はぁ~寒い。でもご主人様は昏睡状態で眠り続けているわ。元気が取り得の私が頑張らなくてどうするのよ! ホル!」


 塾帰りなのか、一人の女子高校生が通りがかり、最初の一枚を興味深そうに手にした途端、JKが爆発した。

震える手、もつれる足、言葉を忘れ、腰が砕けた。

アヘアヘアヘアヘ 間寛平になっている。


 ホぇ~、ふは~、

 傍に落ちていた木の枝を杖代わりに、老婆のように震えながらやっと立ち上がった。


 ホルはブロマイドとポスターのワンセットで3,000ガバチョ、日本円にして3,000円で販売しようとしていた。


 ホルの手持ち財産で、作れたのはたったの100セット。コーティングに金がかかってしまったからだ。

 完売しても30万ガバチョにしかならない。焼石に水と思われたこの100セットが、後にプレミアがプレミアを呼び、闇ネットオークションで3,000ガバチョの数百倍で取引されたのは、知る由もない。


 JKがやっとのおもいでスマホを取り出し、ブロマイドとポスターの写真を撮る。

 そしてツイートボタンを押した! その直後、あまりのアクセスにJKのスマホが爆散する。

 ズバーン、パラパラパラ・・スマホとJKが吹っ飛んだ。


 ホルは何が起こったのか理解できずに、その場に唖然として立っていると連邦警察が救急車を連れてやって来た。


 ヒーホー、ハーホー

 JKが救急車に運び込まれて病院へ向かうと、ホル自身は警察ではなく、あるビルに連れていかれた。


 ビルには"大ガバチョ銀行本店"と特大の看板が掲げてあった。

「銀行? 何故に私が・・・」


************


 警察官に連れられて、銀行のエレベーターに乗る。

そしてエレベーターが上昇して最上階で止まり、音も無くスゥゥゥとドアが開く。


 広くて明るく、赤いカーテンが続く豪華絢爛な部屋が目に飛び込んできた。窓が開いているのか、大きなクリスタルシャンデリアが揺れる。


部屋の奥には卓上ランプの光に照らされた、漆黒の大きなデスクが見える。

 誰かが執務しているようだ。

警察官にその人物の前まで連れていかれ、初めてその人物を見た。


「こんばんは。ホル・マリンさん」

声を掛けてきたのは、ホルと同年かと思える若い女性だった。

ブロンドの長い髪、インテリっぽいグラスを粋にかけて、レンズから透けて見える妖艶なブルーの目がとても美しい。


 立ち上がると、肌に密着してボディラインがくっきりと分かる、ビジネススーツを着こなし、スタイルが悔しいほど良い。顔にいたってはディープ・グラスと良い勝負だ。


「くっ、ここまで来ても、私は負けているのね」


 悔し涙が思わず流れたホルに、その女性が優しい言葉をかけて来た。

「泣かないで、ホル・マリン、私はあなたの味方になるために、あなたをここに呼んだんだから」


その女性の合図で、警察官? が退室していく。

「はっ、ガバチョお嬢様、では失礼します」

「気にしなくていいのよ。彼は私設警官で、本物の警察官じゃないの」

えっ??


「自己紹介するわ。私は惑星連邦ガバチョ銀行本店 最高責任者のリサ・アイ~ン・ガバチョよ、よろしくね」

 立ち話もできないからと、応接間に場所を移すと、メイドさんが美味しそうなお菓子と、紅茶を運んできた。


「あの、リサ・アイ~ン・ガバチョ様、 私は何故ここに呼ばれたのでしょうか?」

 優雅に紅茶を飲む姿も、自分とは違う。住む世界が違う人種が放つ独特のオーラが漂う。


「ホルさん、私はあなたがここへ来てから、ずっとあなたの行動を監視していたのよ。あなたがブロマイドとポスターを、何故売り歩くのか、それが知りたくてね」


「でも何故、あなたが私を?」

疑問が尽きないのだが、それはミューと関係があった。


「実はね、SHADO本部内にミューって子がいるでしょ」

ああ、最近クローンボディを闇通販で買って、猫から転移した文字通りのあの泥棒猫ね。


「勿論知っていますが、それが何か?」


「私の仕事は融資、それでね、ミューが1億ガバチョを私の銀行、太陽系支店から借りているの」


なるほど、ミューは借金をしてまで、あのボティを買ったのね。

泥棒猫のやりそうな事ね。


「SHADO本部内からの融資申し込みだったので、銀行としてもその理由を調査してたって訳」


『銀行なら身元身辺調査はする。特に1億ガバチョだ。当然でしょう。

私なんか、なけなしのお金でやっと作ったブロマイドとポスターなのよ、借金なんて・・・そんな手もあったのね』


「ミューを調べると、バックに暗黒惑星星系のパンツ王女の側近だと分かったの。それで信用問題はなくなり、融資をしたのよ。でもね、調べる内にミューが何故そこまでの大金で、ミス惑星連邦のクローンボディを闇で買ったのか・・・これは私も大ショックでした。本当に」


 この時、ホル・マリンの女の感レーダーが最大の警報を鳴らした。

『うっ、まずい、まさかこの女、ご主人様の存在に感づいて・・・!』


「ここまで言えば理解できるでしょう? 私が地球人類救済の全面支援をするから、タケシさんに合わせて頂戴!」


キタ~! 予想通りの展開になってしもたがな~!


またもや増殖しようとしている正妻候補者。しかも容姿容貌がディープ・グラスと同等! がっくりと肩を落とすホル・マリンであった。


「あなたにとっても悪い話じゃないのよ、あなた、

どの道連邦所属の108の代議員に救済を呼びかけるつもりだったでしょ? それに私が加われば、各代議員を通じて108隻の地球救助艇の大船団が準備できるかも知れないのよ」


 それが可能になれば、一隻あたり1,000人としても、108,000人を救う事が出来る。


「私の顔は広いのよ」


 この誘いを断ることは出来ない。それはご主人様への裏切り行為。

『このガバチョ女をSHADOに連れて行き、ご主人様に合わせるだけの約束だ、ここは耐えるしかないわね。

他の正妻候補者がなんと言うか・・・』


「わ、分かったわ、ご主人様と合わせてあげるけど、合わせるだけよ、そこはちゃんと理解してよね!」


「交渉成立ね、勿論約束は守るわ。では、早速、連邦代議員に連絡をと取るわ。あ、例のブロマイドとポスター、私の財力でコピーして代議員たちへのお土産にするわ。

それはあなたからのプレゼントという事にするから、それもOKしてね♡うふっ」


「くぅ、女にウインクされても、ちぃ~とも悶えないわよ!」


今は仕方がない。この女を利用するだけ利用して、その後は闇に葬るか・・・


 (おい、ホル・マリン、お前もそんな物騒な思想の持ち主だったのか? 怖いなぁ)


リサの調査には、まだ隠されている事がある。

信用調査の段階で、ミューが既に暗黒帝国星系の手先と知れてしまっていたのだ。

融資をするからとの条件に釣られて、リサにSHADOと自分の目的をペラペラと話してしまったのだ。


 その時点でリサはご主人様の存在を知っており、何かとミューから地球の情報を得ていた。

 パンツ王女が暗黒帝国星系へ戻った事も、ホル・マリンが惑星連邦に向かった理由も全て。


 ミューの諜報員としての立場を逆手に取られた訳だが、結果的にミューも貢献した形になった。


******

 ここまでの出来事全てが、最初から仕組まれていた・・としたら。

今は本当の黒幕の存在を誰も知らない。タケシもカロヤン大佐も惑星連邦と暗黒帝国星系国王も。

そして例えAIマリアの演算能力が、今の1000倍あったとしても。


「ふっ、あがいてあがいて踊って見せよ、私の手の平の上でな! そしてもっと私を楽しませてくれ。その日が訪れるまで!」

 読んでくださる読者様、今日もありがとうございます。

ストーリーがハチャメチャですが、お付き合い願えると嬉しいです。


たぶん来月で完結すると思います。

よろしくお願いします。

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