EP4 デジャブ? INSIDE UFO
目が覚めると俺は、MRIのようなトンネルのある台に寝かされ、頭部にハーフヘルメットをかぶらされている。
たくさんの配線コードが傍らの機械らしき物体から伸びてきて、まるでギリシャ神話のゴーゴンだ。
LEDとは違う滲むような光が、あちこちで点滅したり脈うったりしているのは、ちょっとした幻想的な芸術作品に近いものがある。
横には、やはり保毛山課長が立っており、部下なのか何か指示をしているようだ。
これは見覚えのある風景、遠い昔に体験したような記憶があるが思い出せない。俺は何をされようとしている?
「気がついたかな? 懐かしくないかい? この部屋は」
少しだけ理解できた。確かに俺はこの状態を以前に経験していると思う。
『俺は昔、この部屋に来ているのか? まさかな』
高校時代にUFOを目撃したが、その後の数時間記憶がない。気が付くと目撃した同じ場所にボーっとして立っていたのは覚えている。
否定しない俺に気を良くしたのか、課長が続けて話を進める。
「そのまさかだよ。君を我々が一度拉致し、ある知識をインプットした。今はその話は置いて次、行ってみよう」
9時だよ、全員寝ろよ! に出てくるリーダーのセリフを思い出した。
「その話スルーですか? 」
「時間がないから進める。最初に君が目覚めた時、私は君は死んだと言ったね。実はそれは正確じゃない。覚えていないだろうが私はあの時、"魂の置き換えが済んだばかりなんだ"と」
「まだ何のことか理解できないだろうが、そのまま聞いてくれ。病院にいた君の肉体は確かに生命活動を停止した。
その時、君の魂が肉体から家出し、我々がタイミングよくUFOまで回収したという流れだ」
「俺の体は、ここにありますよ? 」
「うむ肯定する。よく聞け、その体は君が病気になる前の健康な体、つまり二年前の君のクローン体だよ。君の魂がクローン体に定着したばかりで、まだ思うように動かせないはずだ」
はいSF来ましたぁ! 大好物です。
SFとくりゃクローンもありゃ巨大宇宙船も出てくる。高性能アンドロイドだっていたよな。惑星破壊ビームなんか出してさ、あれはSF映画
"ゲス・スター"だったっけ。
こんなとんちんかんなことを考えていると、またもやスパーンと軽快な音が後頭部に炸裂。
見ると保毛山課長の手にまたしても、緑色の便所スリッパが。それは愛の鞭の代用品のつもりか? それとも容量、用法が間違っていることに気づいてない ?
恐らく異世界転移ものの定番、マジックキャスター必須魔道具! 異次元収納ボックスから取り出しているのだろう。こんなところでラノベの知識が役たったと、ニヤリとしていると・・・・・・
「ふ、ふざけたこと考えていないで、いい加減に現実を直視するのじゃ!」
俺は後頭部をさすりながら、
『マジかよ、やはり課長は妖怪なんだ。奇天烈な読心術まで使いやがる』とあらぬ方向に驚愕していた。
『落ち着いて考えると、妖怪かどうかは別にして、課長はテレパシーを使っている。高校時代に経験したUFOの映像だって、あれは頭に直接入り込んで来たしな』
「少しは状況を理解したか。肯定する。我々はテレパシーが使える」
テレパシーは超能力でいいのか? ソフィアは謎の悩殺スキルを持っているが、スキルと超能力の違いは何か・・・・・・
「おいそこ ! 思考のデススパイラルに入り込むな ! 今はいいだろ、んなこと!」
と課長のこめかみに血管が浮き上がっている。
「ほらぁ、やっぱり保毛山課長じゃないですかぁ。それにしてもどうやってテレパシーのトリック使ってるんです?」
「んぐぐぐ、 トリックちゃうわ!!」
課長が相当ブチ切れている。しゃべり方も、プリプリ怒っている姿も会社での課長そのものだ。
改めて室内を見渡すと、やはり見慣れない材質の壁や天井、機械にしても継ぎ目がなく、スイッチ類もない。
操作は光っているところに手をかざしたり、リストバンドのようなものに触れたりしている。
まだ一般には普及していない操作方法だ。
「テレパシーも併用して操作している」
と聞いてもいないのに、課長が割り込んでくる。
『はいはい、もう降参。こんな大規模なセット作るのも金がいるし、俺を誑かすのにこんな大金使わんもんな』
「ようやく観念しおったか、お主も相当な偏屈者になったものじゃな。あの時の教育プログラムに、偏屈は入っておらなんだはずじゃったが」
「あんたが人の心読んでいるのは理解したよ。だけどいちいちしゃべり方変えるのやめてくれない? まぎらわしいわ」
捨て鉢になりながらも、俺は課長らしき人物? 宇宙人の言うことを信じることにしたのだ。
『これ以上引っ張っても、仕方ないしな』
課長ではない宇宙人に、こんなに砕けて話ができるのも変な話で、普通は恐怖するのが当たり前だと思うのだが、まぁいいかと開き直る俺だった。
「どうかしてるぜ今日の俺は。朝の星座占い最下位だったのか? ラッキーアイテムが緑の便所のスリッパとかか? もういい、テレビもう見れんしな」
面倒だから、この宇宙人のことはもう課長でいい。その方が楽だし、命の危険もなさそうだ。
『人の忠告と現実は、直に受け入れた方がいいと、父親も言ってたっけ』
ええい、もうにでもなれだ。